範囲の経済との違い

ここでは「規模の経済」と似た言葉で「範囲の経済」についても触れておく。「範囲の経済」とは、製品や手がける事業の種類を増やすことで全体のコストを下げることをいう。いわゆる多角化であり、企業がすでに有している生産設備やノウハウ、人員、物流、販売チャネルなどを活用しながら複数の事業を運営することだ。

コスト抑制だけでなくシナジー効果(相乗効果)も生まれやすくなる効果が期待できる。前述したように生産量(規模)を増やすことで製品1個あたりのコストを下げる「規模の経済」とは明確に異なる。他にもコスト低減効果に関する用語として「スケールメリット」や「経験曲線効果」というのもある。

簡単に説明すると「スケールメリット」は、同様のものを複数集めて規模を拡大することで単体よりも成果が出せることをいう。例えば大量仕入れなどによるコスト低減もスケールメリットの効果の一つだ。後者の「経験曲線効果」は、累積の生産量が増えるほど経験値が蓄積され、効率性が高まり結果的に単位あたりのコストが減少する効果のことである。

規模の経済4つのメリット

ここで規模の経済のメリットを整理しておこう。

1. 利益率が上がる

規模の経済の一番のメリットともいえるのが利益率のアップだ。価格を変えなければ製品1個あたりの平均コストが下がった分が利益分に移行される。

2. 価格競争で優位になる

下がったコストをすべて利益分に回さなくてもある程度の利益を確保しつつ価格低下に反映させることも可能だ。一般的に規模の経済性による価格低下は、製品のクオリティには影響しない。消費者は、以前と同じ品質のものをより安く購入できることになる。価格競争で競合他社よりも優位な位置に立てるだろう。

3. 市場シェアを高められる

規模の経済が効いている状態というのは、市場に自社製品が多く出回る状態でもある。品質を落とさずに価格を下げ消費者により購入してもらうことで市場シェアを向上させることもできるだろう。

4. 参入障壁を築ける

すでに市場シェアを高められていれば他社の新規参入をけん制できるメリットもある。仮に自社と似た製品を販売したい場合には、より安い価格、あるいはよりハイスペックな製品を提供することが必要だ。そのためには資金力や技術力が必要になり、簡単には新規参入できないだろう。

規模の経済のデメリット

前述した通り一定水準を超えると「規模の不経済」になり得るため、規模の経済にはデメリットもある。メリットだけでなく規模の経済のデメリットも確認しておこう。

1. 多額の初期投資が必要

規模の経済を効かせるためには、大量生産できるだけの大きな設備が必要だ。そのため中小企業にとっては、資金力のある大企業に比べて厳しい面もある。設備が整っていない場合は、大規模な工場・機械などの設備投資からスタートする必要があるため、多額の資金が必要になる。企業状況によっても異なるが融資に頼ったり債券を発行したりするなど初期投資をするためのハードルは高いだろう。

2. 売れなくなったときのリスクが大きい

多額の初期投資をして大量生産し順調に売上を伸ばしていけば利益も膨らみ投資額も回収できるだろう。しかし売れなくなれば規模の不経済へと逆転してしまい、売れずに在庫を抱えると在庫管理のための費用も発生しかねない。また業績がマイナスになる可能性がある。

幾種もの製品で規模の経済を効かすことができれば1種の売上が落ち込んでも他の製品での販売利益によって不採算分をカバーすることも可能だろう。しかし中小企業が規模の経済を効かせようとしても製品の種類が絞られてしまうケースも多く、リスク分散がしにくい点はデメリットだ。

3.コミュニケーションが複雑になりやすい

一般的に規模が大きくなるほどコミュニケーションが複雑になりやすい。例えば生産量の拡大によって工場の増設や施設の規模が大きくなると、組織内に新たな階層ができたりコミュニケーションルートに変化が生じたりするだろう。それにより、情報伝達が滞りがちになったり部門間の連携や意思統一が図れなくなったりする可能性も考えられる。

業務や製品の質に悪影響を与えることのないように、情報共有の仕組みやコミュニケーションツール、マニュアルの整備、組織全体の一体感を保つことが重要だ。