家族信託 贈与への活用
家族信託の具体例としては、例えば高齢の親が所有する家を娘に信託し、娘が受託者としてその家を管理して、親が委託者・受益者としてその家に住むという利用法があります。信託法では家の所有者は娘に移りますが、税務上は原則としては受益者が財産を所有するとみなされるので、贈与税をその時点では払うことなく子供に財産管理の権利を移転することができます。
これは親が高齢で判断能力が衰えてしまう前に、財産の管理や処分権を子供に託すことができ、早めの相続対策として活用されています。
また一般的な贈与は民法上、贈与者と受贈者の受諾によって成立しますが、信託の場合は信託契約書等において、受益者となった子供にその旨を通知しないとしておくことも可能なので、子供や孫が受諾しなくても財産の贈与が可能になります。
家族信託 遺言への活用
家族信託はその他にも、遺言と同じ効果を発揮させることも可能です。加えて、遺言では決めることのできない次の次の相続人(承継者)を信託した時から30年先まで指定することも可能です。例えば事業承継させる場合、長男が亡くなった後は次男を受益者に指定しておくこともでき、事業承継の対策においても大変有効です。
また子供のいない夫婦なども、遺言での相続では配偶者が自分の財産を相続した後は、その配偶者が亡くなれば、財産は配偶者の兄弟にいってしまいます。信託を利用すれば、自分の配偶者が亡くなった後の相続人に、自分の兄弟を指定することも可能ですから、相続に対しより広範に利用することができます。自分の財産が意図しない相続人にいってしまうことを防ぎたいならば信託の活用は大変メリットがあるといえます。
家族信託 事業承継への活用
家族信託は円滑な事業承継へも活用することができます。例えばまだ引退はしたくない創業者が、長男に前もって事業承継をさせたいと考えているような場合も信託が活用できます。会社の株式に対し、創業者である父が委託者と受託者になり、長男を受益者とする信託契約を結べば、長男が株主となって会社の資産は名義上長男の物となりますが、父も議決権を行使し会社を管理下に置いておくことが可能です。
また後継者に考えている子供以外の子供が会社経営に口出しするのを防ぐことも容易にできます。従来の対策では無議決権株式、取得請求権付株式、取得条項付株式等の種類株式を発行するなどしていましたが、信託によって議決権を行使する者(受託者)と受益者に分けることが可能なので、種類株式を発行する必要がありません。
相続税対策と信託
結論から申し上げますと、平成19年からの法改正により、新しい信託法では租税回避を防止することにも重点が置かれたため、信託を利用して相続税対策を行うことはあまり効果が得られなくなりました。改正前では、財産を信託し信託された財産を収益受益権と元本受益権に分離をすることで、相続税の対策が可能でした。
今は信託を税金対策に利用するというよりは、上記であげたような財産の管理・処分を自分の思うようにしたり、事業承継対策として活用することに重点を見出せます。信託は財産管理契約と、後見制度と遺言の良いとこ取りをした機能がありますので、うまく活用すればメリットは様々に受けられるでしょう。お子さんやお孫さんのためにも、早めの対策として信託契約を結ぶことは、相続の道筋を立てておく意味でおすすめできます。
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