この記事は2022年2月4日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「内需拡大に本腰も、難しい経済運営が続く中国」を一部編集し、転載したものです。
2021年12月に北京で開催された中央経済工作会議において、中国政府は「景気の安定」を2022年の経済運営の柱とする方針を決定した。今秋、5年に1度の共産党大会を控える習近平政権にとって、できるだけ早期に国内経済を安定軌道に乗せることが目下の最優先課題であり、貧富の差の是正を目指す「共同富裕」の実現を国民に声高に訴えかけている。
景気安定に向けて、内需の拡大に本腰を入れた習近平政権は、年明けすぐに、地方政府に対してインフラ投資を加速するよう号令をかけた。2021年末に地方政府がインフラ事業向けに調達した1.2兆元を迅速に実行に移すとともに、全国で102事業に上る重点投資プロジェクト(ハイテク関連、交通・物流・通信整備等)も早急に立ち上げ、取り組みを加速するよう要請した。
これに続き、国家発展改革委員会は、地方政府に対して新型コロナウイルスの感染予防体制下でも確実に消費拡大を実現するよう命じた。2月の春節と北京五輪を捉えて、消費クーポンを活用したオンライン販促イベントや家電・自動車・家具等の買い替え促進キャンペーンを積極展開することなどにより、春節消費や五輪関連消費の需要掘り起こしを強化する。
こうした内需拡大策を側面支援するため、金融緩和も2021年末から急速に進んでいる。2021年12月に預金準備率が0.5%引き下げられ、1.2兆元の資金が市中に放出されたほか、最優遇貸出金利も2カ月連続で引き下げられた。
今年1月に公表された2021年10〜12月期の中国の実質GDP成長率は、前期比1.6%増と7〜9月期の同0.7%から改善に転じている(図表)。年明け以降も、本腰を入れた内需拡大策を追い風に中国経済は緩やかに回復に向かう見通しであり、22年通年の経済成長率は前年比5.3%増となると筆者は予想する。
今後、中国経済が安定軌道に乗る上でカギを握るのが、(1)中国恒大問題をはじめとする不動産リスクへの対処、(2)新型コロナのリスクコントロール、である。
中国政府は2021年末から不動産セクターへの金融支援を強化すると同時に、債務危機に直面する大手デベロッパーの再建プログラムの策定も急いでいる。しかし、こうした措置が不動産市場における市場心理の早期回復につながるかは不透明だ。また、新型コロナの感染拡大リスクに関しては、ワクチンの追加接種促進や水際対策強化に取り組んでいる。しかし、北京五輪を迎え海外との往来が活発化するなか、今後もオミクロン株の流行を阻止し続けられるのか予断を許さない状況が続く。中国が堅持する「ゼロコロナ」政策の見直し論議も含め、習政権は秋の党大会まで難しいかじ取りを迫られそうだ。
岡三証券 チーフエコノミスト(中国) / 後藤 好美
週刊金融財政事情 2022年2月8日号
(提供:きんざいOnline)