1 ―― 2022年の世界のホテル市場は2019年の水準に迫る見通し
世界ではホテル市場において徐々に明るい展望が見えてきているようだ。世界旅行産業会議(WTTC)は、2022年は世界中で旅行制限が緩和され始めており、トラベル・ツーリズム業界のGDPへの寄与額は8.6兆ドル(世界全体のGDPの10.4%、2019年比▲6.4%)とコロナ禍前の水準に迫り、同業界の従事者は3億3千万人(2019年比▲1%、2020年比+21.5%)に達すると推計した。
また、国際航空運送協会(IATA)は、「新型コロナウイルス感染症は、感染爆発の段階から風土病の段階へと移行した」として、各国政府に渡航禁止令の緩和を呼び掛けている。
また、新規投資も積極的に行われている。ヒルトン、デュシタニ、バンヤンツリー、IHGなど外資系高級ホテルが京都に高級ブランドのホテルを次々と公表している。「日本には高級ホテルが足りない」、「日本のホテル価格は欧米と比べて安い」などの声も聞かれ、強気の投資姿勢の模様だ。
2 ―― 世界の外国人観光客数の回復状況
国連世界観光機関(UNWTO)の公表によると、2021年の全世界の外国人観光客数は2019年比で▲72%とまだまだであるものの、やや回復した。地域別で見ると、ヨーロッパが▲62%と最も客数が回復しており、次いでアメリカ大陸▲63%、アフリカ▲74%、中東▲79%、アジア太平洋は▲94%なった(図表 - 1)。アジア太平洋の悪化が大きいのは中国市場への依存度の高さが原因と見られる。
外国人観光客数のエリア別の回復状況の違いは、各エリアの受け入れ態勢に影響されている面も大きい。また、外国人観光客の受け入れ態勢は、政府規制による国内の移動可否と強い関連性があると思われる。未だコロナ関連規制が強いアジア太平洋エリアを拠点とするホテルグループより、規制が緩和されつつある欧米を拠点とするホテルグループのほうが収益も回復しやすい状況である。
3 ―― 国内ホテルブランドの業績の状態
一方で、国内ブランドの業績は芳しくない。藤田観光は2019年から、プリンスホテルと阪急阪神(ホテル部門)は2020年から2年間、東横イン、ホテルオークラ、相鉄グループ(ホテル部門)は2021年から赤字となっており、昨年から今年にかけて、いずれのブランドも業績が悪化している(図表 - 2)。
原因には、2020年東京五輪開催時に期待された収益が五輪延期後もほとんど得られなかったこと、増加する観光客を期待していた新しい施設の建設費用、人件費などが重なったことがあるだろう。収益の消失に対し、いずれも削減が難しい費用であり、各社の経営を圧迫していると見られる。
業績の低迷から、保有資産を圧縮して経営効率を高めようとしている企業も多い。2022年2月、プリンスホテルがシンガポール政府投資公社(GIC)に30施設を売却することとなった。2021年2月に藤田観光が大阪の大型宴会場であった太閤園を創価学会に売却し、同年3月には近鉄グループが8つのホテルを米ファンドのブラック・ストーンに売却している。
4 ―― 国内の宿泊旅客の推移
国内ブランドのホテルは国内ホテルの保有比率が高く、国内ホテル市場の影響を強く受ける。一般的に、コロナ禍前の状況に戻るまでには「(1)日帰り旅行の増加」、「(2)近距離旅行の増加」、「(3)遠距離旅行の増加」、「(4)海外旅行の増加」、の各段階の順といわれているが、今はどの段階だろうか。
訪日外国人客数は2019年同月比で▲99%前後の月が続き、「(4)海外旅行の増加」の段階ではない。また、2021年12月には2019年同月比で▲15.6%(うち国内旅行客数は+4.0%)まで回復し、「(1)日帰り旅行の増加」の段階は脱しているようだ(図表 - 3)。
5 ―― 2019年の居住地と同じ都道府県内への宿泊旅客数
では2021年は「(2)近距離旅行の増加」、「(3)遠距離旅行の増加」のいずれの段階だろうか。
ここで、観光庁の宿泊旅行統計を用い、最も近距離な宿泊旅行を、目的地が旅客の居住する都道府県内の旅行と考えるとする。その旅客数が、同じ都道府県から全国への旅客数に占める割合が減少していれば、「(2)近距離旅行」の割合が減り、「(3)遠距離旅行」の段階に移行しているといえるだろう。
コロナ禍前の状況を確認してみると、2019年1月から11月に、居住する各都道府県から出発した宿泊旅客のうち、目的地が自身の居住する都道府県内である旅行客の割合は、全体では13.9%であった。また、都道府県別では上位から1位:宮城県(29.4%)、2位:茨城県(26.9%)、3位:岩手県(26.0%)、4位:山形県(25.2%)、5位:愛知県(25.2%)(図表 - 4)となっていた。
また都市部の居住者については、他都道府県への宿泊も多い一方で、都市部を目的とする宿泊旅客も多いという双方性が認められた。たとえば、首都圏の居住者は、国内観光客数全体の25.7%(2019年1-11月)を占める一方、首都圏を目的地としてそれ以外の道府県からやってくる国内観光客も34.3%おり、最も宿泊旅客の行き来が多いエリアとなっていた。