本記事は、吉野創氏の著書『売上を2倍にする 指示なしで動くチームの作り方』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
部下の管理者ではなく、人格的な育成者となろう
部下の「働く目的」を応援する際、1つ注意しなければならないことがあります。
それは、応援することを、「部下の希望をなんでも聞いてあげる物分かりのいい上司になること」と履き違えないようにしましょう、ということです。
応援することと、部下に「楽させる」こととは違うのです。
人間には、どうしても「自分だけ楽したい」という安楽の欲求があります。
安楽の欲求が強くなれば、「自分だけ」楽にお金や時間、キャリアを手に入れたい、と無意識のうちに思うようになり、それが行動に出てしまいます。
部下が自分の本当の「働く目的」から外れて、楽な方に流されていく可能性は常にあります。
上司としては、部下が正しく自身の「働く目的」に向かうように、仕事の「やり方」が安楽に流されていないかを管理することはもちろん必要です。
社員の仕事に対する姿勢は目に見えないものですから、仕事の「やり方」に表れる行動プロセスや、数字の結果で管理することは大切な仕事です。
人は本来、人から管理されるものではありません。しかし、部下の成長目標は、部下が自己管理できるようになるまでは、上司が管理してあげてください。
自分自身の「働く目的」、その実現のための仕事での「目標」、そして、組織やチームの目標に軸を合わせて、今の自分を客観的に振り返ってみたときに、現在地との「ギャップ」が見えてくる。
大切なのは、そこに、自分の意思をもって「いつまでにこうなる」と決め切ることができるかどうか、です。これが自立した姿勢です。
「自分が楽してできること」や「楽な分野」だけに偏ることなく、成長目標を設定することができるかどうかは、よく見ておいてあげましょう。
これも、上司の大切な応援です。
あなたの組織やチームには、このような自立した社員がどのくらい存在しているでしょうか?
社長や上司から言われたから目標を設定する、というレベルではまだまだ不十分。
自分で「働く目的」をしっかりと考えて、そのために「成長する理由」を明確に持つことができなければ、内発的に目標を設定する、というレベルにはなり得ないでしょう。
あなたは、部下が自分自身の「成長する理由」を自覚し、その上で「安楽の欲求」をセルフコントロールできるように応援しましょう。
やがて、自立して生きる基礎作りができた後は、顧客や社会、そして周囲の仲間や組織にも「より多くを与える」ため、主体的に成長努力をする「人財」にステップアップしていくことが期待できます。
つまり、管理者ではなく、部下の人格的な育成者となることが大切なのだと思います。
そして、このように、ただの管理ではなく、部下を大切に育てようとあなたが目的を持って取り組む姿を、部下は見ています。
上司や社長の前では部下を褒めろ
「部下を応援していく上司が大切にされる」。このようなお話をしてきました。
そして部下の応援には2種類あります。
それは、あなたが直接部下に働きかけることと、間接的に部下の応援につなげることです。
ここでは、「間接的に部下の応援につなげる」ということに関してお話ししていきます。
部下の「働く目的」は、大きく3つに分けるならば、「お金」と「時間」、そして「キャリア」だとお話ししてきました。
仕事で成果を上げることを通じて、お金を得て、時間の自由をある程度手に入れて、理想的なキャリアを重ねていく……。
その実現可能性に対する、裁量権を持っているのは誰なのか、ということを考えてみると、それはやはり社長です。
ということは、上司としてあなたがするべき間接的な応援とは、社長や経営陣に、「部下がどれだけ成果を上げているか」「どれだけ優秀な人材であるか」といったことをプレゼンしていくことになります。
一般的にそういった機会があるのは、年に1〜2回程度の「人事評価」のタイミングでしょう。そのチャンスを逃す手はありません。
しっかりと戦略的に準備をしましょう。
まず大切なポイントは、その人事評価のタイミングでは、どういう上司評価を出したいかを部下としっかり話して、あらかじめ用意しておくことです。
つまり、頑張った結果を上司が評価するというよりも、あらかじめ「どういう評価査定で出したいから、このような成果を出そう、そのためにこれを頑張ろう」という目標達成の条件をあらかじめ用意しておくということです。
これが人事評価に対する戦略的な部下育成の発想だと思います。
考課者訓練などでは、正しく評価することばかりが語られることが多いですが、私からすれば、正しく評価することは当たり前のことです。それよりも「どれだけ部下の『働く目的』を共有して、本当のやる気を引き出し、実際に目標をクリアするための応援ができるかどうか」が大切だと思っています。
「働く目的」がぼやけていて、成長の目標もぼやけていて、なんとなく仕事をしている……というレベルであれば、あなたがいくら応援しようとしても、成長は実現できないでしょう。
さあ、部下とあらかじめ目標をクリアするための条件が設定できたら、そのための行動を戦略的に考えましょう。
例えば、次のような成長目標を設定します。
・会社の経営計画に沿って、**事業の新規顧客の開拓を毎月3件実施し、商談レポートを作成する
・何年何月に、技術系の資格を取得して、会社の経営計画に沿って、受注できる力を身につける
・会社の経営計画に沿って、毎月公募される業務改善項目、社内コンテストにエントリーし、半年間で6件の業務改善提案を出す
・TOEICの資格を何月までに取得し、会社の経営計画における海外プロジェクトチームのメンバーに立候補する
ここでは、単純に業績目標を達成する、といった目標も悪くはないのですが、できる限り「会社の経営計画や事業計画」の内容を部下と把握しておき、その内容に貢献するといった意図が感じられるものがベターです。
それはなぜかと言うと、社長や経営陣の関心事は、3年後5年後のビジョンをどう実現していくのかということだからです。
そのために経営計画を立案し、経営陣を軸にして実践しているのです。
社長や経営陣にとって、そのような関心事を把握していてくれる社員の存在は、非常に頼もしいもの。そしてさらに、その経営計画を自身の業務の中でも意識し、成長目標として取り組む社員は、ともにビジョンを実現していく心強い存在と映ることでしょう。
まさに、会社にとって貴重な人材として、印象づけられるということです。
そして、社長や経営陣と会うたびに、その部下が話題になることは、間違いないでしょう。場合によっては、気になって進捗を聞かれることになるかもしれません。
そのときにあなたは、部下がどのように頑張っているかをしっかり話してあげればいいわけです。
いかがでしょうか。
皆さんの中には、「そこまで社長や経営陣に、ごますりしなくたっていいんじゃない?」というふうに受け止めてしまう方もいるかもしれませんが、それは違います。
これはあなたのためにすることではなく、部下の将来のためにすることです。
あなた自身の評価を先に意識すれば、躊躇してしまうかもしれません。しかし、一心に部下の「働く目的」の実現を願って行うことに、ごますりになるんじゃないか、といった心配は無用です。
日頃の経営陣への根回しを怠らない上司は、部下との信頼関係が深まります。部下は「ああ、この上司は自分の『働く目的』を大切にしてくれているんだ」と思うほどに、上司の恩に報いようと頑張ってくれる。
そして部下は、あなたを大切にしてくれる存在にも成長していってくれます。これが「指示なしで動くチーム」の作り方の根底にある視点です。
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