本記事は、吉野創氏の著書『売上を2倍にする 指示なしで動くチームの作り方』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
「この前言っただろ」は厳禁、「耳にタコです」と言われるまで繰り返す
私は、若い頃よく「お前は物覚えが悪いな」「なんで大事なことなのに忘れるんだ」と言われていました。受験勉強でも、英単語や数学の公式、歴史の年号を覚えることはとても苦手なタイプでした。
社会人になってすぐの頃は、仕事の覚えが悪く、先輩から言われたこともなかなか頭に入らず、劣等感を抱いていました。ちょっと辛い思い出です。
しかし、やがて管理職になると、物覚えの悪い部下に苛立ち、「この前同じこと言っただろ」「なんで忘れるんだ、もっと真剣にやれ」と部下を叱っている私がいました。
人の記憶力には個人差があると言われていますが、人が物を覚えていることと、経過時間にはある法則があるということをご存知ですか?
それは「ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線理論」と呼ばれています。忘却曲線理論によると、人は1時間後には56%忘却しているそうです。
さらに、「1日経つと74%忘却し、1週間経つと77%忘れる」というのです。
私はこの忘却曲線理論を知り、人はそもそも忘れる生き物なんだということに気づきました。これは、私にとっては目からうろこが落ちる発見でした。
そして私は、忘れないようにするために、この理論に基づいて対策をすれば良い、と考えるようになりました。
まず1つ目は、忘却対策をしないことが最大の時間の無駄だと理解することです。
1時間なら1時間かけて学んだ内容であっても、それを反復や復習しなければ、人は忘れます。つまり、忘却対策をしなければ、「学んだことが定着しないのが当たり前」であり、「最大の時間の無駄」になるのです。そこで、忘れないように対策をすることが、自分自身のためになります。
私自身も、忘れないように、その日のうちに取り掛かる習慣が身につきました。
時間のかかることでも、1日おくと70%近くを忘れるから、アウトラインだけでもまとめておく、といった習慣が身についたのです。
次に、2つ目は、忘却防止の仕掛けを意図的に作ることです。
私は7つのパターンを実践するようにしています。
1・勉強会、研修、書籍などで、学んだことをメモする(即時) 2・箇条書きにして、項目ごとにポイントを書き出す(当日中) 3・コピーして、数か所に貼り出す、カバンに入れる、手帳に貼る、携帯の待ち受け画面にセットする 4・毎日、チェックする時間を決める 5・毎週、チェックする時間を決める……手帳に書く 6・毎月、実施できたか確認する時間を決める……3か月先まで手帳に書く 7・日次、週次、月次でのリマインドメールをセットする
これらは、概ね90日間やり抜けば、習慣化します。
仕事の覚えは、「忘れない努力」をどれだけしているかで決まるのだと思います。
とはいえ、このような対策を徹底できるような部下は、そもそも稀です。
そこで、私は、部下はそもそも忘れるものだから、忘れてもらったら困るような大事なことは「時間差で3回言う」ことを心がけています。
1日後、3日後、1週間後、概ねこのタイミングです。
なるべく直接、口頭で言うのが望ましいですが、物理的に難しい場合は、メールでも良いでしょう。
すると、だいたい3日後くらいまでは記憶にありますから、どちらかと言うと「しつこいな〜」と思いながらも、意識を新たにしてくれるものです。
「しつこいかも?」くらいでようやく部下は認識する、と覚えておいてください。
まずいのは、「この前言っただろ!」と怒って忘却を責めることです。合理的ではないですし、怒られた部下は感情的になり、二度とあなたの話を聞かなくなるリスクもあります。
それでは、部下から大切にされることはないでしょう。
部下に確実に覚えておいて欲しいことは、上司から時間差でしっかり伝えましょう。
覚えておいて欲しいこと、その筆頭は、やはりチームや組織で大切にしている価値観や、目指しているビジョンだと思います。企業全体で言う「企業理念」にあたるものです。
これをいつもメンバーが認識している状態にすれば、「指示なしで動くチーム」になっていく土台ができます。
ある上場企業の部長の話を例に挙げます。
その方は、どちらかというと部下を甘やかすのではなく、厳しく育てるタイプですが、部下からは慕われる存在でした。
その部長は、「大切にして欲しい価値観は繰り返し伝える」主義。
「部長、またその話ですか〜、わかってますよ」と部下から言われるまで、繰り返し語ることが大事だ、とおっしゃっていました。
「大事なことは、耳にタコができたと言われて、ようやく届いたと思うくらいでちょうどいい」と。
では、その部長が繰り返し語っていることは何かと言うと、目標数字などではなく、「チームの理想像」だというのです。
いつも、「みんなを、どこに出しても恥ずかしくないプロ集団にしたいんだ!」とか、「我が社で一番お客様を笑顔にする伝説のチームにしたいんだ」といったことを語っているそうです。
中には、そういうことを頻繁に語るのは少し照れくさい、というような方もいらっしゃると思います。
しかし、「チームの理想像」を繰り返し語る上司が、部下からも慕われ、大切にされるのもまた事実だと実感できる事例です。
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