一正蒲鉾
野崎 正博社長

水産練製品主力で、中でも、かに風味かまぼこ(カニカマ)でトップシェアを誇る一正蒲鉾。近年、練製品の生産量が減少傾向にある中、同社は生産の合理化や省人化を図りながら、高付加価値商品の開発を推進してきた。同社は現在、2021年7月よりスタートした第二次中期経営計画の真っただ中にある。ESG経営をベースに打ち出すと共に、重点戦略としてDX化などを掲げている。

野崎 正博社長
Profile◉野崎 正博(のざき・まさひろ)社長
1958年2月5日生まれ。新潟県出身。青山学院大学経済学部卒業。82年4月一正蒲鉾入社。91年取締役営業部長、97年常務取締役営業本部長、99年代表取締役社長(現任)、2007年イチマサ冷蔵代表取締役社長(現任)。

「キノコ事業」業界3位
マイタケ生産第2の柱に

同社は昭和40年の設立以来、かまぼこなど、魚のすり身を主原料とする水産練製品を手掛けてきた。21年6月期の売上高は346億8,900万円、営業利益は17億3,500万円。水産練製品メーカーでは紀文食品に次ぐ、業界第二位に位置付けられている。

同社には2つの事業セグメントがあるが、大黒柱の「水産練製品・惣菜事業」は、21年6月期の売上高ベースで全体の85.4%にも及ぶ。主力製品は、1978年から発売しているカニカマで、同事業の売上296億円のうち、4分の1を占め、市場占有率は約20%とトップを維持している。

カニカマは当初フレークタイプから製造を始めたが、ほどなくして本物のカニのように裂けるスティックタイプの生産も開始、大ヒットとなった。79年には累計100億本の販売実績を誇る「オホーツク」を、2008年には低価格の「サラダスティック」を発売するなど、「消費者のし好に合わせた商品を開発してきた」(野崎正博社長)。

一方、もうひとつのセグメントである「キノコ事業」は、「健康」をキーワードに第二の柱を創出する目的で1996年に参入。紆余曲折ありながらも現在ではマイタケに特化して生産を行っており、業界3位に位置する。21年6月期、キノコ事業の売上は全売上の13.5%まで成長した。

中食向けで新たな売り場開拓
高付加価値商品開発に注力

近年、同社を取り巻く市場環境は厳しさを増している。農水省の水産加工統計調査によれば、ここ10年間の練製品の生産量は減少傾向にある。日本国内での消費が頭打ちなのに加え、原材料の安定した調達が年々困難になっているからだ。

商品の生産は、メイン原料のスケソウダラの生育状況や原料価格に左右されるのはもちろん、世界各国間で決められる漁獲割り当ての減少は常に悩みのタネだという。

同社はじめ業界は、今後避けられない原材料の高騰による価格転嫁と、国内での消費拡大という、相反する課題に直面している。そこで業界では、近年の健康ブームを追い風に「フィッシュプロテイン」というキーワードで、高タンパク・低脂質という栄養面での利点を打ち出し、浸透を図っている。 このように、業界全体が市場環境の変化に対応するため様々な施策を打ち出す中、同社でもDX化の推進と、付加価値の高い商品の開発に取り組んでいる。

「今後は、機械化、自動化を進めながらDXに繋げていく方針です。また、価格は高くても付加価値の高い商品を販売していくと共に、売り方を変えることにチャレンジしています」(同氏)

昨年秋から、水産練製品の定位置であるスーパーの冷蔵コーナーに加え、デリカコーナーを中心とした売り場を開拓。半製品として納入し、スーパー側が、バックヤードで揚げたものを販売するこの新たなルートは、今まさに軌道に乗り始めている段階という。

また、カニカマで高級なカニの味を表現したように、その他のいわゆる「オルタナティブ商品」の開発も進めている。

「当社ではカニカマ以外にも、ウナギの蒲焼風練製品の『うな治郎』などをネクストシーフードシリーズとして開発を行っています。今進めているのがすり身で作るウニで、当社のECサイトで試験販売をしています。すり身は色々な形に変化できますので、消費拡大の余地はまだまだあります」(同氏)

さらに、ここ5年では、年間商品として200~250あったアイテムのうち、生産性が低く人手のかかる商品を40~50程減らす戦略的削減を実施し、収益性を高めてきた。

第二次中期経営計画を推進
キーワードは「ESG経営」

同社では、21年7月から「成長軌道への5年」を掲げ、2025年の売上高400億円を定量目標にした第二次中期経営計画をスタートさせている。「水産練製品・惣菜事業」では、基盤強化のために成長を続けるカニカマ領域での圧倒的な競争優位性の確立を目指していく。

「23年には本社第2工場がカニカマ専用工場として稼働します。また現在、分散している製造拠点をある程度集約して生産効率を高めます」(同氏)

「きのこ事業」は、当面は生産性の向上で基盤を固めていく。課題は製造工程でのパック詰めで、マイタケは不定形なため現状では人力に頼らざるを得ない。そこで同社では、「今後はAIやIoTの活用で収穫量を最大化していきながら、包装ラインの自動化・合理化により5年間で40%の省人化を目指したい」(同氏)としている。

同時に重要な施策として打ち出しているのがESG経営だ。

「当社では21年7月に『ESG経営宣言』を制定し取り組んでいます。温室効果ガスへの対策や脱炭素は非常に重要なものと捉えており、企業の社会的責任のうち優先順位が高いものだと認識しております」(同氏)

16年頃からは、工場から排出するCO2の量の計測を開始、21年は1万トン程を削減した。同社の経営は環境と切っても切れない関係にあるからこそ、様々な取り組みを続けていく考えだ。

「食品ロスの削減、賞味期限の延長など、できることからコツコツとやっていきたいと考えています」(同氏)

一正蒲鉾
(画像=株主手帳)

▲カニカマでシェアトップを走る


2021年6月期 連結業績

売上高346億8,900万円前期比 3.8%減
営業利益17億3,500万円同 8.1%減
経常利益18億600万円同 3.3%減
当期純利益26億8,300万円同 961.8%増

2022年6月期 連結業績予想

売上高340億円前期比 ー
営業利益14億円同 19.4%減
経常利益14億円同 22.5%減
当期純利益9億5,000万円同 64.6%減

※株主手帳3月号発売日時点
※22年6月期より新会計基準を適用するため、売上高の対前期比増減率の記載なし

(提供=青潮出版株式会社