この記事は2022年3月24日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「中古不動産の購入にあたり確認すべき築年月について~その建物は1981年以前の建築か、2009年以前の建築か」を一部編集し、転載したものです。
目次
1 ―― はじめに
中古の不動産を購入するときには、新築とは別の視点が必要になるが、そのうちの一つに築年月の確認がある。なぜなら、ある特定の年月より前に建てられた建物は、それより後に建てられた建物より、構造上の頑健性や実質的な価値が劣る可能性があるからである。この築年月の確認はすべての建物に共通することであり、中古のマンションや戸建ての購入者が必ず確認すべきものである。
2 ―― 適法な建築物は、建築確認申請と完了検査の手続きを経ている
その築年月とは、1981年6月と2009年9月である。不動産の価値に影響のある建築法規の改正が行われた年であり、この月の前後で建築された建物は構造や設備が大きく異なる。厳密な日付の確認のためには、次の建築確認申請の流れを押さえておきたい。
適法な建築物の建築には、建築主事(*1)が図面等の計画が建築法規に沿った適法なものであるかを審査する「建築確認申請」および、計画通りの建物が建築されたかどうかを現地で確認する「完了検査」の手続きが必要である。「建築確認申請」に適合していれば「確認済証」が、完了検査に合格すれば「検査済証」が発行される(図表 - 1)。「検査済証」があれば、「建築申請時の法令に合致した適法な建物が、計画通りに完成したことの証明」になり、その有無は、建物の所在する都道府県か市で、誰でも確認できる。
「建築確認申請」では、申請日にその時の建築法規に適合している必要があるため、改正の施行日以降に確認申請が提出された建築物は改正後の法規に適合している。また、上記2つの改正は、いずれも以前よりも厳しく、より高い建築費用が必要な仕様となっており、それより前に確認申請が提出された建築物は改正前の法規に適合しており、相対的に安価に建てられた建物といえる。
*1:建築確認などを行う公務員。都道府県や人口25万人以上の市に置かれている。
3 ―― 適法だが適法ではない、既存不適格建築物
建築法規は、建物の安全性を担保するために繰り返し変更されており、旧基準により建築確認申請をした建物は、「建築当時は適法であったが、現在の法規には合致しない建物」となる。この状態の建物を「既存不適格建築物」という。
既存不適格建築物は、旧法令に合致した適法な建物で、違法性はない。そのまま使用を続けることができるのなら、生じる問題もほとんどないだろう。
それでも上記の建築法規の改正が不動産の価値に影響がある理由は2点ある。1点目は、構造や設備がの基準が改良されているため、一般的には、新基準に適合した建物のほうが構造上より丈夫で、より価値が高いことである。2点目は旧基準による建築物を、新基準に適合する建物に改変するには多額の費用を伴うことが多いのだが、将来のどこかで新基準に適合させる必要があるかどうかを判断し、その追加の費用を見込む必要があることである。その必要性の判断は、建物の該当部分の性質や現状によっても異なるだろう。
4 ―― 1981年6月:耐震基準についての建築基準法施行令改正
1981年6月は「旧耐震基準」から「新耐震基準」への改正の施行日である。1981年6月1日以降に建築確認申請が申請された建物であれば「新耐震基準」、それより前に申請されている場合は「旧耐震基準」となる。
「旧耐震基準」は1981年5月31日までに建築確認申請された建物が適合し(*2)、建築物の設計において「震度5強程度の地震でも建物が倒壊せず、破損しても補修により生活が可能な構造となっているかを判断する基準」となっていた。震度5強程度は、10年に1度程度発生すると考えられる規模の地震である。
「新耐震基準」は、「震度5ではほとんど損傷せず、震度6から7程度の地震でも倒壊しない構造となっているかを判断する基準」である。1953年の宮城県沖地震を踏まえ、旧耐震基準では建物の安全性の基準として不十分との考えから改正された。震度7は阪神・淡路大震災、東日本大震災クラスの地震であり、建物の存続期間中に、稀に遭遇する可能性のある地震とされる。つまり、旧耐震基準による建物より、新耐震基準による建物のほうが耐震性能がよいのである。実際、これらの大型地震の下では、旧耐震基準の建物の倒壊率が高かったことが確認されている。
耐震性能は建物の骨組みやコンクリートの量などの建物の基本的な構造上の違いから生じるものである。従って、完成済みの建物を簡単に改変することはできない。耐震性能改修の必要があるマンション等には建物の外側に制振装置を設置するなどの大規模な工事が必要となる(図表 - 2)。また、1981年に建築された建物は既に40年以上が経過しており、マンションなどの建物の耐用年数は一般的に50年程度とされていることを考えると、旧耐震の建物については順次改修または建替えが進むことが望ましい。
とはいえ、法的には改修は義務ではなく、費用も多額となる。区分所有者間の合意形成にも時間を要するだろう。もし旧耐震の建物で、図表 - 2のような耐震改修がまだ行われていない建物を購入する場合には、将来に改修費用が発生する可能性や改修しない場合の耐震脆弱性に留意が必要である。
*2:耐震基準は十勝沖地震(1968年)を踏まえ、1971年1月にも大きな改正が行われている。建築基準法が施行された1950年11月1日から1970年12月31日までに建築確認申請された建物が適合する基準を「旧々耐震基準」、1971年1月1日から1981年5月31日までに建築確認申請された建物が適合する基準を「旧耐震基準」と区別する場合もある。
5 ―― 2009年6月:エレベーターの安全性に関する建築基準法施行規則等の改正
2009年6月は、エレベーターの安全性に関する建築基準法施行規則等の改正の施行日である。エレベーターは戸建にはあまりない設備だが、多くのマンションには設置されているので、この改正は大いに関係する。2009年9月1日以降に建築確認申請が申請された建物であれば新基準、それより前に申請されている場合は旧基準による。
この改正は、2005年の千葉県北西部地震や、2006年の東京都港区の共同住宅におけるエレベーター死亡事故を契機としており、「扉が開いた状態での昇降の防止(二重ブレーキ)」、「予備電源の義務化」、「駆動装置の耐震対策」、「地震時等管制運転装置(初期微動を感知し最寄り階に停止、閉じ込めを防止する装置)」などの機能が、エレベーターに義務付けられることとなった。
エレベーターの耐用年数は建物より短く、建築物維持保全協会によると25年である。エレベーターの運用には定期点検が必要であるため、メンテナンス業者の起案で耐用年数前後に改修の計画が持ち上がる可能性が高い。改修は、旧基準のエレベーターでも部品の交換等で対応でき、エレベーターすべてを交換する場合よりは安く済む。ただし、修繕計画に十分な費用が織り込まれていない場合には、修繕積立金とは別に追加の費用の支払が必要となる可能性もある(*3)。また、新基準への対応は法的に義務ではないが、エレベーターが寿命を迎える前に新基準に適合したエレベーターに改修することもよい選択のように思われるが、かなりの費用負担が発生することは避けられない。
このように、旧基準のエレベーターが設置されているマンションの価値は一般的に低くなり、また安全性も劣ると考えられる。
*3:申請により、国や地方自治体などから交付金・補助金が支給される場合もある。
6 ―― おわりに
旧耐震基準の建物の耐震性改善も、旧基準のエレベーターの改修も、建物の安全性に関わることである。いつかは改修等を考えなければならなず、計画的に是正していくことが望まれる。しかし、改修等には多額の費用が発生し、マンションの場合だと住民の合意形成も簡単ではないだろう。
従って、中古マンションなどの中古不動産を購入する際には、現時点でそういう耐震基準に適合しているのか、また適合していない場合は、今後の改修計画の有無や、現時点での建物の安全性をきちんと確認する必要がある。しかし、各個人任せにするのではなく、中古不動産がどのような耐震性能があるのかを、例えば、誰でも簡単に未改修の建築物とは明確に区別できる等、もっとわかりやすく表示されるべきである。また、仲介業者等の不動産関係者は、形式的な説明義務を果たすだけでは、購入者が十分に理解できていない可能性があると考えるべきだろう。購入者に対して耐震性能等に関して丁寧に説明し、十分納得して購入してもらうことが、従来以上に求められているのではないだろうか。
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渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員
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