この記事は2022年4月11日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「金融機関はなぜ合併するのか-会社法・銀行法の観点から」を一部編集し、転載したものです。
みずほ銀行のシステムトラブルが繰り返されてきており、金融インフラにも影響が及んでいる。そもそも、みずほフィナンシャルグループは、大手都市銀行であった第一勧業銀行および富士銀行、並びに長期信用銀行業界の雄であった日本興業銀行の三行が経営統合したことによって構築された。
これら三行はバブル崩壊後の金融不況による経営不振から脱却するとともに、銀行としての競争力の向上を目指すという観点から、2000年に同一の持株会社(当時のみずほホールディングス)の傘下に入った。さらに2003年に三行体制を再編し、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行の二行に合併統合した。そして、2013年にはこれら二行が合併して単一行となった。この合併によって各行がそれぞれ有していたシステムを一本化する必要性が生じた。逆の言い方をするとそもそも合併をしなければこのような問題は生じなかった。
同じ持株会社の下に三行がぶら下がるだけにとどまらず、合併まで行うのはなぜであろうか。一般的には(1)経営の効率化、(2)営業の効率化、(3)シナジー効果の獲得であろう。
法的な問題はどうだろうか。法律問題として考えられるのは、ア)取締役の兼務問題、イ)利益相反取引、ウ)財政支援の方法がある。
まず、ア)取締役の兼務問題としては、銀行の常務に従事する取締役(あるいは執行役)は、内閣総理大臣(金融庁長官に権限委任、以下同じ)の認可を受けなければ他の会社の常務に従事することはできない(銀行法7条)。したがって経営陣のキーパーソンが複数の銀行において役員を兼務しようとするときには、通常はどこかの銀行で常勤とし、その他の銀行では非常勤とすることとなる。そうすると経営戦略のすり合わせにひと工夫が必要となる。
次に、イ)利益相反取引とは、取締役と金融機関の取引について金融機関の取締役会の承認を必要とするという取引に関するルールである。たとえばA銀行の代表取締役であるBが、C銀行の非常勤取締役でもあった場合を考える。A銀行とC銀行が何らかの取引をする場合には、利益相反取引としてC銀行の取締役会において承認を得る必要がある(会社法365条1項⇒会社法356条1項2号)。なぜならBはA銀行を代表する立場だからであり、したがってCの非常勤取締役でもあるBにとって自己取引(利益相反取引)となるからである 。
このような取引は取締役会の承認を受けることで行うことができる(会社法356条2項)が、C銀行に損失が生じた場合には、C銀行側で取引を行った代表取締役と、C銀行取締役会で賛成した取締役はその任務を懈怠したものと推定される(会社法423条)。この責任は総株主の同意がなければ免除できない(会社法424条)。グループ会社間での取引も多いであろうし、この点はリスクとして認識されている。
最後に、ウ)財政支援の方法であるが、同一グループに属する銀行間で行う取引は「独立当事者間での取引条件」で行うことが原則である(アームズレングスルール、銀行法13条の3)。なお、このアームズレングスルールは役員兼任の有無にかかわらず適用される問題である。
より具体的に、銀行法の定めるアームズレングスルールでは、同一の銀行持株会社の子会社同士の銀行(C銀行とA銀行)で行う取引であって、業務の種類、規模、信用度に照らして他の銀行との間で行われる同種、同量の取引を同様の条件下で行われるものと比較して、当該銀行(C銀行)にとって不利な条件で行われる取引は禁止されている(銀行法施行規則14条の10)。ただし、内閣総理大臣の承認を受けたときはこの限りではない(銀行法13条の3但し書き)。
この承認については、その取引を行わなければ、A銀行の営業継続に支障を生ずるおそれがある場合(銀行法施行規則14条の8)に行うものとされ、具体的にはⅰ)A銀行が経営危機に陥り支援が必要であること、ⅱ)A銀行において十分な自助努力及び経営責任の明確化が行われていること、ⅲ)A銀行において清算などに比べて経済合理性があること、ⅳ)C銀行が損失見込み額を事前に償却・積み立てていること(監督指針Ⅴ―2(2))が承認の要件とされている。経営危機に陥っていることが銀行間での経営支援の条件とされるなど厳重な規制がかかっている。
このように単に持株会社の傘下にいくつかの銀行を置くだけというのでは、経営に迅速性・柔軟性を持たせることができない。銀行間の密な連携も期待できない。法律問題としても合併することにメリットがあるものと考えられる。
松澤 登(まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任
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