経営悪化の地銀、ついに「旅館経営」へ 宿泊事業に進出で活路は見いだせるか
(画像=宮沢昭男/stock.adobe.com)

銀行の業務と言えば、お金を預かることや貸し出すことが思い浮かぶ。そして、資産運用の相談に乗るのも銀行の役目だ。しかし最近では、このような金融業務以外に乗り出す地方銀行も出てきている。例えば、旅館の経営だ。なぜこのようなことが起きているのか。背景を探る。

超低金利や人口減少が銀行に及ぼす影響

地方銀行が異業種に乗り出す背景の1つに、経営環境が悪化していることがある。

日本では、日銀が続けている金融緩和によって超低金利が続いている。日本で超低金利の状態が続くと、銀行の貸出金利も連動して低下するため、銀行は企業への融資や一般顧客へのローンから利益を得られにくくなる。

日本で続く人口減少も地方銀行にとっては逆風である。融資先となる顧客が少なくなるからだ。最近のフィンテックの加速も地方銀行にとっては脅威となっている。銀行の役割がアプリなどで代替されるようになれば、銀行の存在意義が薄れていく。

新型コロナウイルスの感染拡大も追い打ち

現実問題、地方銀行の経営状況は悪化の一途をたどっている。

ビフォーコロナの2018年9月に金融庁が公表した資料によれば、地域銀行の過半数の54行が本業で赤字を計上しており、そのうち52行が2期以上連続で赤字を計上している。全体の本業利益率も年々下落傾向にある。

さらに、コロナ禍がこの状況に追い打ちをかけた。全国の地方銀行の2020年度の決算では、多くの地方銀行が貸し倒れに備えるための費用を計上したことで、収益が大きく圧迫された。

地方銀行の苦境に国もただ手をこまねいているわけではない。地方銀行同士の合併や経営基盤の強化を支援する新たな制度を展開している。しかし、地銀の合併は一時的な対症療法にしかならない可能性もあり、抜本的な収益力の改善策を模索する地銀は少なくない。

奈良の南都銀行、古民家を活用した宿泊事業を展開へ

このような状況の中、本業の金融業以外で事業を展開しようとする地方銀行が出てきている。例えば、奈良県の地方銀行である「南都銀行」は、新会社として「奈良みらいデザイン」を設立した。宿泊施設が少ない奈良県の中南部において宿泊施設の経営をスタートさせる計画だ。

奈良県の中南部は宿泊施設が少ないこともあり、これまで思うように観光客を獲得することができていなかった。そのような課題を銀行が解決することで地域が活性化すれば、将来的に本業である融資ビジネスにも良い影響が出てくるのではないかという狙いがある。

南都銀行は、古民家を活用して宿泊事業を展開する予定だ。すでに、築100年の古民家の買い取りも済ませたようで、外国人観光客に人気が出そうな古民家の良さを残しつつ、宿泊施設としてリニューアルするという。リニューアルは数年かけて行う計画のようだ。

九州の山口FGやふくおかFGは、地域商社事業に乗り出す

同じように異業種に取り組む地方銀行は南都銀行だけではない。山口銀行・もみじ銀行・北九州銀行を傘下に有する山口フィナンシャルグループは、2017年に「地域商社やまぐち」を設立しており、自社でEC(電子商取引)サイトを立ち上げて地域の特産品を販売している。

福岡銀行・熊本銀行・親和銀行・十八銀行を有するふくおかフィナンシャルグループも負けていない。子会社を通じて地域総合商社事業を開始しており、地域の事業者に対してブランディングサポートのサービスなどを展開している。

このように異業種への参入に取り組んでいる地方銀行はほかにも、鹿児島銀行や北海道銀行、みちのく銀行、第四北越フィナンシャルグループなどがある。金融機関に対する国の規制緩和もあり、同様の動きはさらに加速していきそうだ。

異業種との提携に積極的な地方銀行も増えてきている

もう1つ、「地方銀行×異業種」に関するトピックを紹介しよう。日本経済新聞が2021年3月に発表した調査結果によれば、地方銀行の約8割が、他の銀行や異業種との提携に前向きな姿勢を示しているという。

他の銀行との提携では銀行の本業に関わるコストを圧縮する狙いがあるが、異業種との提携ではこの記事でも触れてきたように、新分野でビジネスを展開することで新たな収益源を確保しようという目論見がある。

特に、デジタルサービスを展開している企業との提携には前向きの企業が多いようで、すでに北国銀行がクラウド会計サービスのfreeeとタッグを組んだ事例もある。

異業種で成功を果たすのは、容易なことではない

超低金利が続き、人口減少にも歯止めがかからない中、地方銀行にとって生き残り策の模索は待ったなしの状況だ。最近では異業種から金融業に乗り出す企業も増えており、本業の事業環境がさらに厳しいものになっていくことも考えられる。

とはいえ、異業種で成功を果たすのは、どんな企業にとっても容易ではない。異業種へのチャレンジはもちろん注目に値することではあるが、一方で、さらに経営状況の悪化につながる可能性もあることも指摘しておきたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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