この記事は2022年5月13日にSBI証券で公開された<「国策は買い」の相場格言あり!>逆行高も期待される「新・国策関連銘柄」はコチラ!?を一部編集し、転載したものです。
2022年5月13日(金)の東京株式市場では、日経平均株価が大幅反発しました。しかし、安値圏での自律反発とみられ、引き続き不安定な局面が続く可能性があります。
ウクライナ・ロシア間の戦争や、上海等のロックダウン、世界的なインフレ・金利上昇懸念が続いていることが理由です。そうした中、国内上場企業の決算発表は5月13日(金)でピークアウトのはこびで、今後は成長性やテーマ性に基づいた銘柄選別が本格化してくるとみられます。
そうした中、5月11日(水)に「経済安保法」(経済安全保障推進法)が参議院本会議で採決され、賛成多数で成立しました。今回の「日本株投資戦略」では、これに関連した「新・国策関連銘柄」の一例をご紹介したいと思います。
「経済安全保障」が新しい「国策」に
世界経済を読み解くキーワードのひとつに「サプライチェーン」があります。サプライチェーンとは、商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのことを意味しています。
この一連の流れには、多くの国・地域の多くの企業が関係しているケースが多くなっています。世界経済は、様々な製品の効率的なサプライチェーンの拡大とともに発展してきたと言えるかもしれません。
世界中のサプライチェーンが成立するための前提条件は、平和や自由であると考えられます。戦乱がなく、国境をまたいで自由にモノや人が移動できて初めて、サプライチェーンは効率的に機能し、安くて高品質な商品が消費者に届くことになります。
しかし、近年は、トランプ政権の登場、米中貿易摩擦、新型コロナウイルスの感染拡大、ロシア・ウクライナ間の戦争等により、世界で多くのサプライチェーンが十分に機能しない状態になりました。
最近では、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大でマスクが市場から「蒸発」するという場面がありました。また、新型コロナウイルス感染症の拡大は半導体のサプライチェーンに打撃を与え、多くの機器が十分に作れなくなりました。
給湯器が何カ月も先にならないと買えないことですとか、アップル製品がやはり、供給不足ですぐには買えないこと、自動車が減産に追い込まれることなど、その例は枚挙に暇がありません。
また、ウクライナ・ロシア間の戦争勃発を経て、ロシアへの経済制裁発動等もあり、食料やエネルギーの流通が滞り、インフレ加速につながっています。
日本は資源に乏しいので、世界のサプライチェーンが安定していることが、存続の重要な条件となります。
そこで、仮に戦争や災害、国家間の規制強化等があっても、国民生活や経済活動を継続できるように備えておく「経済安全保障」が重要となります。それを実現するために、国が法律面で支えようということで、5月11日(水)に成立したのが経済安保法(経済安全保障推進法)です。
この法律の柱は4本あります。
(1)供給網の強化:半導体や医薬品、レアアースやニッケル等の重要鉱物、蓄電池の原材料等の安定供給をはかる
(2)インフラの安全確保:電力、通信、金融等14企業の大企業を対象に、サーバー攻撃や情報漏洩の対策
(3)特許の非公開化:軍事に関わる技術等については、特許出願を非公開に
(4)先端技術の研究開発:「宇宙」「AI」「量子」等の重要分野の研究開発に資金面で支援
次項では、経済安全保障上、重要なポジションを有し、この法律成立によるメリットを受けると考えられる上場企業をご紹介したいと思います。なお、そこでご紹介する企業以外にも、多くの企業がこの法律に関係していると思われますので、あくまでも「例」であるとお考え下さい。
「国策は買い」の相場格言あり。逆行高も期待される「新・国策関連銘柄」
経済安保に関連し、法律成立によるメリットを受けると考えられる上場企業をご紹介したいと思います。
日立製作所(6501)
当社は総合電機最大手で、原発を含む発電所、鉄道、サイバーセキュリティを含む情報サービス、半導体製造装置等に幅広く展開しており、当社事業の多くが経済安保に深くかかわってくると考えられます。経済安保関連銘柄の中では中核的存在と言えるかもしれません。
2022年3月期は売上収益が10.2兆円(前期比17.6%増)、営業利益が7,382億円(同49.1%増)と拡大。
ITや送電線設備等が好調でした。2023年3月期は、日立建機(6305)や日立金属(5486)の株式売却もあり、売上収益は前期比7.4%減、営業利益は同5.2%減を見込みますが、これで構造改革にはいったん区切りがつく形になります。発行済み株式数の5.17%に相当する5,000万株を上限に自社株買いを実施する計画です。
信越化学工業(4063)
当社は半導体のもっとも基本的な材料であるシリコンンウェハや、世界的に広く一般に普及している重要素材の塩ビ、機能材料などに展開しています。
シリコンウェハは当社が世界シェアの3割超を保持しているとみられます。これに対して塩ビは製造こそ難しくないものの、営業力や納期厳守、安定供給といったサプライチェーンの管理によって差別化を行っています。
省エネや小型化・軽量化、環境対策に貢献しているレアアースも製造・販売しています。なお、シリコンウェハについては、世界シェア第3位のSUMCO(3436)と併せ、日本企業の世界シェアが50%を超えています。
2022年3月期は売上高2.07兆円(前期比38.6%増)、営業利益6,763億円(同72.4%)増と好調。塩ビを含む「生活環境基盤材料事業」の営業利益が前期比3.2倍に拡大する一方、シリコンウェハ等の「電子材料」は同18.8%増となりました。発行済み株式数の1.7%に相当する700万株を上限に自社株買いを実施する計画です。
SBI証券企業調査部では、5月10日(火)付で「塩ビ・ウェハー堅調続き22年度OP(営業利益)7,600億円と最高益へ」と題するレポートを発行し、投資判断「買い」を継続(目標株価3万2,000円→2万8,000円)しています。
JSR(4185)
当社は、半導体製造の過程で使われる感光材料のフォトレジストを製造・販売しています。推定世界シェアは27%前後で、第2位以下の東京応化工業(4186)、信越化学工業(4063)、富士フィルムホールディングス(4901)と併せ、日本製品のシェアは合計で約9割に達しています。
韓国と日本の関係が悪化する中で、政府が韓国へのフォトレジストの輸出を規制するという経緯がありました。韓国は、経済安保上の観点から、フォトレジストの国産化を図るなどの対応をみせています
2022年3月期は売上高3,409億円(前期比9.3%増)、営業利益437億円(同27.8%増)と好調でした。需要が好調な半導体材料と医薬品関連事業がけん引しました。
2023年3月期は売上高4,100億円(前期比20.2%増)、営業利益575億円(同31.4%増)が会社計画です。発行済み株式数の4.65%に相当する1,000万株を上限に自社株買いを実施する予定です。
SBI証券企業調査部では、5月9日(月)付で「ライフサイエンスの22年度コアOP計画は140億円へ拡大」と題するレポートを発行し、投資判断「中立」を継続(目標株価4,000円→3,900円)しています。
FRONTEO(2158)
当社は独自開発したAI(人工知能)エンジン「KIBIT(キビット)」や「Concept Encoder(コンセプトエンコーダー)」をベースに、自然言語処理に特化したデータ解析を行う企業です。
法的紛争・訴訟などで電子データの証拠保全や調査・分析など手掛ける「リーガルテックAI事業」が売上高(2021年3月期)の80%を、医療分野やビジネスインテリジェンス分野をターゲットとした「AIソリューション事業」が残りを占めています。
「リーガルテックAI事業」では、電子証拠開示を行うeディスカバリサービスと、不正調査における電子データの保全・処理・解析を行うフォレンジックサービスを手掛けています。
「AIソリューション事業」では、経済安保分野が重要なターゲットのひとつです。AIを使った独自のシステムで、企業がどこから原材料や製品の供給を受けるか、トラブルが起こった時にどう影響が及ぶかを可視化し、分析するサービスを行っています。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、大企業を中心に、サプライチェーンの見直しに関する問い合わせが増えているようです。毎月経済安保に関する勉強会を開いており、多くの参加者を集めているようです。「経済安保」自体がビジネスチャンスになっている稀有の存在と言えるかもしれません。なお、決算発表予定日は5月20日(金)となっています。
▽当記事の内容について、著者が動画で詳しい解説を行っています。あわせてご視聴ください。