本記事は、中谷昌文氏の著書『なぜ大富豪のサイフは空っぽなのか?』(ビジネス社)の中から一部を抜粋・編集しています

流出した「パナマ文書」に名を連ねていた世界のVIPたち

文書
(画像=Nomad_Soul/stock.adobe.com)

世界中の資産家が、どれほど巧みにその資産を管理・運営しているのか。その一端を知る事件として、「パナマ文書」の問題が挙げられます。パナマ文書とは、2016年に公表された大量の文書のことです。

流出元となったのは、パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」です。そこで40年以上にわたって蓄積されたいわゆる内部文書がドイツの新聞社にわたり、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって調査・分析されました。

そうして公表されたのは、世界中にある21万以上の法人とその株主の名前でした。彼らは世界各国の富裕層たちで、中には一国の首脳も含まれています。これを受けてアイスランドやパキスタンの首脳が辞任するなど、非常に大きな波紋を呼びました。

では、何が問題視されたのでしょうか。実は、彼らはタックスヘイブンを利用して金融取引をしていたというのです。タックスヘイブンとは、税率がゼロかあるいは極めて低い国・地域のことで、税金対策として利用されています。

スキームとしてはシンプルで、タックスヘイブンにペーパーカンパニーをつくり、そこに資産を移すことで税金を抑えることが可能となります。これを世界中の権力者や大富豪が税金を逃れるために利用していたことから、大きな話題となったのです。それだけではありません。資料からは、一部の犯罪者がマネー・ロンダリングを行っていた事実も明らかになりました。税逃れだけでなく、犯罪者の資金隠しにも利用されていたとなると、見逃すわけにはいきません。

ちなみにパナマ文書には日本人も名を連ねていました。その数およそ700人。中には外交官や大企業の経営者に加えて、ペーパーカンパニーとは一切関係ないと思われる一般人の名前も記載されていたそうです。

日本の国税当局は、2017年6月までに記載されていた個人や法人に対して調査を行い、総額31億円の申告漏れがあったとしています。また、自主的に修正申告をした個人も含めると、40億円弱が申告漏れに該当したとの報道もあります。

国際的な連携が進む契機に

このように、さまざまな点で話題となったパナマ文書ですが、国家間で協力して税逃れの対策を進めるきっかけにもなりました。2018年には、100の国と地域が参加して金融口座情報を自動的に交換する仕組みもスタートしました。

もちろん、マネー・ロンダリングをはじめとする犯罪は絶対に許されません。ただ一方で、パナマ文書の問題は、世界中の資産家やそのパートナーがどのように資産を守ってきたのかを知るヒントにもなります。

彼らの多くは、資産運用の専門家であるプライベート・バンカーやウェルス・マネージャーに、資産の管理・運用を全面的に任せています。そのため、自身の資産がどこにあり、どのように運用されているのかを知らない人もいるでしょう。

違法な行為や脱税は言語道断ですが、税率が低いか、あるいは税金がかからない国で資産を管理すること自体は、一つの資産管理論といえます。犯罪は見逃せないけれど、資産家の巧みな資産運用には学ぶところが大きい。

パナマ文書をめぐる一連の報道は、そうしたお金持ちならではのノウハウの一端をうかがい知るきっかけともなったのです。

国境なきスーパーリッチの経済的・政治的影響力は強まる一方

世界的なIT企業を表現する言葉にGAFAMというものがあります。GAFAMとは、「Google」「Amazon」「Facebook(Meta)」「Apple」「Microsoft」という、世界をまたにかける巨大企業の頭文字をとったものです。

彼らは「ビッグ・テック」とも呼ばれ、サウジアラビアの国有石油会社「サウジアラムコ」を除き、世界で最も時価総額が大きい会社たちです。しかも、インターネットの普及によって、急速に伸びてきたのが特徴です。

2020年には、GAFAM 5社の時価総額が、日本の東証一部に上場する企業約2,170社の合計額を上回りました。当時の段階で、5社の時価総額は5兆3,000億ドル(約560兆円)に達しており、その大きさがうかがえます。また2021年には、GAFAMの時価総額が8兆ドルを超えるなど、わずか1年間で株価は2.5兆円も上昇しました。今後も世界の資産格差はますます広がっていくと予想されます。

さて、GAFAMの一端を担う企業にMicrosoft(マイクロソフト)があります。マイクロソフトは世界最大手のコンピューター・ソフトウェア会社で、パソコンのOSである「Windows」やビジネスアプリケーションソフト「Microsoft Office」、あるいはブラウザの「Internet Explorer」などで知られます。

マイクロソフトが創業されたのは1975年のことです。創業者の一人であるビル・ゲイツは世界的な起業家として名を馳せ、現在は資産家としても認知されています。特徴的なのは「ビル・ゲイツ財団」の活動です。

投資によるリターンで運営

ビル・ゲイツ財団は、ビル・ゲイツ本人が1994年に設立した財団です。設立当初はグローバルヘルスに焦点を当てていたものの、2000年にはゲイツ・ラーニング財団と統合し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が発足。「人間にはみな平等に機会が与えられるべき」という理念のもと、世界中の恵まれない人々をサポートしています。その規模は世界最大レベルであり、2020年だけで総額58億ドル(約6,700億円)、創設時から計算すると、実に601億ドルもの寄付を行っている計算になります。その金額からも、影響力の大きさがうかがえます。

さて、そんなビル&メリンダ・ゲイツ財団は、金銭的な部分だけでなく、経済や政治など、さまざまな方面に影響力を発揮しています。お金持ちの中には、財団によって社会にインパクトを与えている人も多いのですが、彼らの業績はその最たるものといえるでしょう。

そして、その財団を支えているのが、膨大な資産を管理する仕組みです。実態は明らかにされていないのですが、総資産に占める投資の割合は90%を超えており、一定のリターンを実現しているようです。

いくら資産が潤沢であっても、投資によってリターンを生んでいなければ、いつかは枯渇してしまいます。日本にもさまざまな財団がありますが、それらの中には資金難で苦しんでいるところもあります。もしかすると、投資の成績が影響しているのかもしれません。

その点、ビジネスで富を形成するだけでなく、財団の運用によって資産を維持・管理しているビル・ゲイツは、金融においても巧者といえそうです。

なぜ大富豪のサイフは空っぽなのか?
中谷昌文(なかたに・よしふみ)
社会貢献活動家。「国際ビジネスホールディングスグループ」創立者、「国際ビジネス大学校」理事長、特定非営利活動法人「国際コンサルティング協会」理事長などを務める。大学卒業後、教師として勤務した後、渡米して様々な経験を積む。その過程でNIKEシューズと出会い、日本にその魅力を伝える。それらの経験で培った人脈を活かし、2004年に若手起業家が有名実業家から学ぶ場「志魂塾」を立ち上げる。2011年には「国際ビジネス大学校」を創立し、若手起業家の育成に注力。1995年より、難病の子どもを東京ディズニーリゾートにお連れする活動を25年以上続ける傍ら、1994年から個人的に、後に児童養護施設などにランドセルを届ける「タイガーマスク運動 ランドセル基金」の活動もスタート。これまで国内で1,300個のランドセルを手渡しでプレゼント、海外へはメーカーの協力により10万個以上を寄贈。その他、NPO法人や一般社団法人を立ち上げ、営利目的だけでなく「社会に貢献できるビジネスモデル」を国内外に発信している。

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