本記事は、伊藤佑介氏の著書『インターネット以来のパラダイムシフト NFT1.0→2.0』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています

NFTとデジタルコンテンツの違い

アート界が注目する技術「NFT」。芸術の新たな可能性とリスクとは?
(画像=sdecoret/stock.adobe.com)

NFTとブロックチェーン技術

NFTとは「ブロックチェーンという技術で記録した保証書のデータ」と説明してきました。では、そのブロックチェーンとは、一体どんな技術なのでしょうか。

ブロックチェーンとは一言で言うと、データが消去、複製、改ざんされないよう365日24時間みんなで協力して監視するシステムを作る技術です。

この技術で作られたシステムを、ブロックチェーンシステムと言います。

ブロックチェーンシステムは、データ量が多すぎるとみんなで協力して監視することが大変になってしまうため、通常、少ない文字数のデータしか記録できないようになっています。

ブロックチェーンシステムにはさまざまな種類があります。ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨のデータも、Fungible Token(替えがきく保証書)のデータとして、それぞれビットコインブロックチェーンシステム上やイーサリアムブロックチェーンシステム上に、決して消去、複製、改ざんされないように記録されています。

以上を踏まえると、NFTとは「消去、複製、改ざんができないブロックチェーンシステム上に記録された保証書のデータ」と言い換えることができます。

正規品であることが確認できる

NFTに紐付けられたデジタルコンテンツのデータ自体は、通常ほとんどの場合、ブロックチェーンシステム上ではなく、ホームページで使われるのと同じような、普通のWebサーバー上に記録されることになります。

なぜなら、ブロックチェーンシステムへは少ない文字数のデータしか記録できないためです。つまり、画像や動画、音楽などの大容量のデータは記録できないのです。

なお、初期の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」のマリオのような、データ容量が極めて小さいドット絵であれば、ブロックチェーンシステム上に特定の方法で記録することはできますが、そのようなNFTはあまり多くありません。

ここで、NFTとデジタルコンテンツを正しく区別できるようにするために、コンテンツ業界団体の一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブが2021年6月1日に公表した「コンテンツを対象とするNFTについての考え方」の中で定義した用語を使って説明していきます。そしてこれ以降、Webサーバー上のデジタルコンテンツデータと、それに紐付くブロックチェーンシステム上の保証書データの2つを併せて、「コンテンツNFT」と呼ぶことにします。

こうすると、“コンテンツNFT”と“デジタルコンテンツ”の違いは一目瞭然です。Webサーバー上にデジタルコンテンツを持っていることは共通しているので、シンプルに、ブロックチェーンシステム上にそれに紐付く保証書のデータがあるかないかということです。

そして、コンテンツNFTには、前述のとおり制作者情報と電子署名ハンコのある保証書データが紐付いているため、そのデジタルコンテンツが正規品であることは、ブロックチェーンシステム上の保証書データを見れば、誰もが確認できます

リアルグッズでは、ファンは作家を応援するためにオフィシャルな正規品を購入する傾向があります。一方で、これまでデジタルコンテンツはコピーし放題で複製を防げなかったため、ファンからオフィシャルな正規品のデジタルグッズとみなされることはありませんでした。

しかし、ファンが安心して購入できる正規品としてのコンテンツNFTが登場したことで、今後はファンがオフィシャルなデジタルグッズの購入でも作家を応援する、新たな経済活動が広がっていくことが期待されています。

オーナーであることを示せる

コンテンツNFTでもデジタルコンテンツでも同様ですが、Webサーバー上のコンテンツは、Webブラウザでアクセスすれば誰でも閲覧可能です。ただし、コンテンツNFTだけができることもあります。

それは、ブロックチェーンシステム上に記録されている、デジタルコンテンツに紐付いたNFTの保証書データにある所有者情報を、“誰でも”確認できることです。

これによって、そのコンテンツNFTの所有者は、「ブロックチェーンシステム上に記録されているとおり、このデジタルコンテンツは私が持っている」と言うことができます。一方で他の人は、「決して消去、複製、改ざんできないブロックチェーンシステム上に確かに記録されているから、彼があのデジタルコンテンツの所有者だね」と確認できます。

例えば、これまでならファンは、自分だけがレアなリアルグッズを持っていたとしても、自慢するには写真を撮ってTwitterなどのSNSで拡散するか、直接他の人に会って見せるしか方法がありませんでした。しかしこれからは、コンテンツNFTによってファンがレアなデジタルグッズを「自分が所有していること」を他のファンに示せるようになり、かつデジタル上でそのグッズを他のファンへ見せて、ファン同士で楽しむこともできるようになったのです。

売り買いできる

デザイナーが制作したイラストやフォトグラファーが撮影した写真などのデジタルコンテンツは、SNSなどのWebサーバー上に無料でただ公開されているだけであれば、当たり前ですが売ったり買ったりすることはできません。

対してコンテンツNFTの保証書には、前述のとおり新しい所有者の情報を追記できるので、ファン同士で所有の移転ができます。今所有している人が、コンテンツNFTの保証書に相手の情報を新たな所有者情報として書き込みます。そして電子署名ハンコを押し、所有の移転をブロックチェーンシステム上に記録すれば、売買が成立するというわけです。

この保証書に新たな所有者の情報を追記することは、保有者にしかできない仕組みになっています。つまり、一度他の人に売ってしまうと、以前の保有者は二度とその保証書に別の新たな所有者情報を記録することはできず、二重転売は決して起こらないようになっています。そのため、買い手は安心して購入することができます。

以上のように、デジタルコンテンツは売買できませんが、コンテンツNFTならば売買できるようになったのです。

ところで、リアルよりもデジタルに慣れ親しんでいるデジタルネイティブの若者の中にも、いつでもどこでも読める電子書籍ではなく、あえてリアルな本を購入する層が一定数いるようです。なぜなら、リアルな本であれば読んだ後にフリマアプリで転売して、その転売益でまた新しい本を購入できるからです。

今後、コンテンツNFTによって転売もできる電子書籍が販売されるようになれば、そのような層は徐々に減っていき、ますます若い世代のデジタル化は加速していくでしょう。

作家に転売益が還元される

NFTは保証書のデータであるとお伝えしてきましたが、転売の際にクリエイターを助ける、特別な機能があります。

それは、フリマアプリなどにもあるエスクロー(売り手と買い手の間で第三者が代金決済を行うことで、双方が安心して安全に取引できるようにするサービス)のような機能です。売り手がNFTの保証書に買い手の情報を次の所有者として追記し電子署名ハンコを押します。そうして、確かに所有移転がされた転売成立時点で、この機能によって、はじめて売り手は買い手が支払った代金(通常は仮想通貨払い)を受け取れるようにルールを設定できます。

これだけだと“クリエイターを助ける”ことに直結しないように思えますが、実はこの機能で、ファン間での転売成立のたびに、あらかじめ定めた割合の手数料が、売買金額の中からコンテンツNFTを制作した作家自身へ入るようにルールを設定することもできます。そのため、例えば自分の作品がファン間で転売されるたびに、売買金額の10%が手数料として自分の口座(通常は仮想通貨口座)に入るようにルール設定しておけば、自分の手から離れた後も転売される限り継続して収益を得ることができます

このようにブロックチェーンを使ってあらかじめ設定したルールが自動的に必ず実行されるようにできる仕組みを、技術用語で「スマートコントラクト」といいます。

これまでリアルな本では、作家は書店での一次販売からしか収益を得られず、その後、購入者がフリマアプリで転売を繰り返して古本として点々流通、取引されても、収益は1円も入ってきませんでした。

ですが、コンテンツNFTの場合、二次流通市場で転売されるたびに収益を繰り返し何度も得ることができるのです。これが、作家に1番注目されているコンテンツNFTの特長です。

さまざまな種類のコンテンツNFT

コンテンツNFTは、今やさまざまな業界の多様なジャンルのコンテンツに広がっています。

アート業界では、画家がデジタルで制作した絵の画像データにNFTの保証書を紐付けた、リアル空間に作品が存在しないアート作品のコンテンツNFTが、競売会社でオークションにかけられています。

音楽業界では、アーティストが作曲した音源データにNFTの保証書を紐付けた、購入したファンしか聴くことができない楽曲のコンテンツNFTが、CDの代わりにリリースされています。

スポーツ業界では、選手のスーパープレイの動画データにNFTの保証書を紐付けた、ファンがその名シーンのオーナーになって他のファンに自慢できるスポーツ動画のコンテンツNFTが、毎試合後にデジタルSHOPで出品されています。

映画業界では、作品の登場人物の3DデータにNFTの保証書を紐付けた、メタバース(コンピューターやコンピューターネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービス)に登場人物として入れる3DアバターのコンテンツNFTが、映画のデジタルグッズとして販売されています。

その他にも、写真のコンテンツNFTやトレーディングカードのコンテンツNFT、ゲームキャラクターのコンテンツNFT、デジタルファッションアイテムのコンテンツNFTなど、枚挙にいとまがないほどです。

これまでリアルグッズの販売がマネタイズ(収益化)の中心であった各業界は、デジタルコンテンツに、NFTという保証書データを紐付けることで、ファンへ販売して新たなマネタイズ手段とできるようになりました。そのため、さまざまな領域で新たなコンテンツNFTが展開されるようになってきているのです。

NFTがなぜ注目されだしたのか

2021年に巻き起こったさまざまなNFTのニュース

2021年にNFTが注目され始めたきっかけは、アート業界のNFTの取り組みでした。

まず、2021年3月11日に老舗オークションハウス「クリスティーズ」で、デジタルアーティストのビープル氏が5,000日間毎日1点制作したデジタルアートをまとめた作品「EVERYDAYS: THE FIRST 5,000 DAYS」がコンテンツNFTとしてオークションにかけられ、約6,934万ドルで落札されました。取り組み自体の内容として特に目新しいことはありませんでしたが、販売したのが世界的なオークションハウスだったことで、このニュースは世界中を駆け巡りました。

続いて、Twitterの創業者ジャック・ドーシー氏が、初めてのツイートをコンテンツNFTとして販売し、2021年3月21日に約291万ドルで落札されました。今度は世界的に著名なジャック・ドーシー氏が販売したことで、SNSを中心として瞬く間に世界中に拡散されました。

この流れはすぐ日本にも及び、VRアーティストのせきぐちあいみ氏のVRアート作品がコンテンツNFTとして販売されて、2021年3月24日に約1,300万円で落札されました。

同年3月30日には、日本が世界に誇る現代美術家である村上隆氏もコンテンツNFTの販売を自身のInstagramで発表して、とうとう日本人の誰もが知っている著名なアーティストにまで波及しました。

さらに、これまで挙げてきたアートの領域に加えて、スポーツ領域においても、世界的なプロバスケットリーグのNBAが、選手のプレイをコンテンツNFTとして販売するサービス「NBA Top Shot」で2億ドル超(2021年10月時点では7億ドル超)を売り上げたと発表し、世界中で報道されました。

その後、世界的な総合エンターテインメント企業マーベルの、スパイダーマンのコミック画がコンテンツNFTとして販売され、スポーツに続きキャラクター領域にも広がっていきました。日本でもアニメ領域で、進撃の巨人をはじめとした有名タイトルにおいて、コンテンツNFTが販売されました。

こうしてNFTのニュースが世界中を駆け巡った結果、アメリカでは2021年3月に3大ネットワークのひとつであるテレビ局のCBSでNFTが取り上げられました。続くように、2021年4月にNHKのおはよう日本でNFTが取り上げられ、その後、日本でもさまざまなメディアで紹介されるようになりました。

このようにして、2021年にNFTへの注目が高まったのです。

NFTに起こった変化の本質

2021年にNFTに起こった変化の“本質”は何なのでしょうか。

それは以下の2つです。

●「購入したデジタルコンテンツを保有できるようになった」と“2021年より生活者が認識した”こと

●「保有したデジタルコンテンツを転売できるようになった」と“2021年より生活者が認識した”こと

「購入したデジタルコンテンツを保有、転売できるようにした」NFTの技術のベースは、4年前の2017年に既に出来上がっており、そこから技術的に大きな変化はありません。しかし、それから4年も経過した2021年になってNFTの取り組みは一気に進展しました。

実は、それを後押ししたのは、NFTという技術の進化ではなく、“2021年より生活者が認識した”という生活者の考え方の変化です。つまり、2021年にNFTの取り組みを進展させた起爆剤は、技術の発展ではなく、生活者の心理の変化によるものでした。

2020年以前にもNFTを販売する取り組みはたくさんありましたが、当時は2021年のような勢いで売れたものはありませんでした。また、その頃から「NFT」という言葉は存在していましたが、一般の生活者には伝わらないため、むしろ当時はNFTサービスを提供するにあたり、積極的に使うことを避けていたほどです。

では、なぜ世界中の人々は2021年になると「NFTは購入すれば保有でき、将来転売することもできる」と考えるようになったのでしょうか。

それは、前述したように、さまざまなニュースで「クリスティーズ」「ジャック・ドーシー」「村上隆」「NBA」「スパイダーマン」「進撃の巨人」といった、著名で社会的に信頼のある人物や企業、有名なコンテンツがNFTを販売したことや、それらが高額取引されたことを何度も見聞きしたからです。

その結果、「あんなすごい人や企業が、『NFTというものは、購入すれば保有でき将来転売することもできる』と言って販売しているのだから間違いない」とみんなが思うようになったのです。

変化を後押ししたビットコイン

みんなが「NFTは購入すれば保有でき、将来転売することもできる」と思えるようになったのには、ブロックチェーンの社会実装の先陣を切った“仮想通貨”も一役買っています。

なぜなら、2008年に誕生してから既に10年以上たったビットコインは現在、世界中の人々に知られて、かつ、詐欺などと言われることもなくなり、当然のように売買されるようになったからです。

「ビットコインで採用されているブロックチェーンという技術を使用しているのだから、NFTもビットコインと同じように、購入したり保有したり転売したりできるに違いない」とみんなが自然に思えるようになったのです。

技術や仕組みの詳細に、一般の生活者は興味がありません。

1969年に生まれた、インターネットのイノベーションの場合でも同様でした。当初は怪しい技術だと思われていて、ましてやそんな技術を使ったサービスにクレジットカードの情報を入力して物を購入するなど、もってのほかと思われていました。

それから50年以上たっても、ほとんどの人がいまだにインターネット自体の技術や仕組みの詳細を理解しないままですが、その間に著名な人物や企業が提供するさまざまなサービスが現れたことによって、徐々に信頼されるようになり、今や誰もが当然のようにインターネットで買い物をするようになっています。

NFTという技術に対して、世界中の人々が疑いの目を向けることなく信用するようになったのをきっかけに、2021年に生み出されたものとは一体何なのでしょうか。

それは、NFTという新たなデジタルコンテンツの流通市場です。その発生源は、これまではデジタルコンテンツを売買することがなかった生活者が、コンテンツNFTであれば購入し、保有し、転売できると思うようになったという、「生活者の消費行動の心理的な変化」です。

結果、生活者がコンテンツNFTを取引する新たな経済活動を始め、そこに企業が市場を見いだしたのです。つまり、2021年に生活者がコンテンツNFTの新たな経済圏を作り出し、企業がその流通市場に参入しだしたといえます。

かくして2021年という年は、NFTという新たなデジタルコンテンツの流通市場が生み出された、歴史的な年になったというわけです。

インターネット以来のパラダイムシフト NFT1.0→2.0
伊藤佑介(いとう・ゆうすけ)
一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ代表理事東京工業大学理学部情報科学科卒業後、2002年に株式会社NTT データに入社。金融/法人/公共分野でプログラマー、システムエンジニア、営業を経験した後、社内ベンチャー制度で新規事業を立ち上げる。2008年に博報堂へ入社し、営業としてデジタルマーケティングを担当。2013年に博報堂DY ホールディングスに出向し、マーケティング・テクノロジー・センターにて、デジタルマーケティング領域のシステムの開発~運用に従事した後、2016年よりメディア、コンテンツ、コミュニケーション領域におけるブロックチェーン技術の活用を研究。2018年からは博報堂のビジネス開発局にて「TokenCommunityAnalyzer」「CollectableAD」「TokenCastRadio」「TokenCastTV」「GiverCoin」「LiveTV-Show」「C-Guardian」の7つのブロックチェーンサービスをさまざまなベンチャーとコラボレーションして開発。2020年に、日本のコンテンツ業界のデジタルトランスフォーメーションを業界横断で加速すべく一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブを発足し、代表理事として、加盟するコンテンツ企業との共創によりブロックチェーン技術を基点としたオープンイノベーションを推進中。

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