本記事は、伊藤佑介氏の著書『インターネット以来のパラダイムシフト NFT1.0→2.0』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています

NFTにしかできないこと~ブロックチェーンの本質的な価値を生かして~

NFT,ブロックチェーン
(画像=JustSuper/stock.adobe.com)

ブロックチェーンの本質的な価値

ブロックチェーンの表層的な説明としてよく見聞きする、「デジタルデータを所有可能な資産にした」という謳い文句が、本質的な価値を誤解させています。

なぜならこの謳い文句は、ブロックチェーンの本質的な価値そのものではなく、それが生み出した「結果」のひとつを述べているにすぎないからです。ではこの因果関係の上流にあり、その「結果」を生み出す「要因」となっている、本質的な価値とは何なのでしょうか。

それは「異なる企業のサービスを横断して利用できるデジタルデータによって、企業間連携のエコシステムを構築できるようにした」ことです。

すると、ここで2つの疑問が湧いてきます。

まずひとつは、なぜ企業はブロックチェーンシステム上に記録されたデジタルデータに対して、サービスを提供するのかということです。そしてもうひとつは、なぜ異なる複数の企業がこのエコシステムに集まって、サービスを提供するのかということです。

ひとつ目の疑問に対する答えは、「ブロックチェーン技術で守られたデジタルデータは絶対に改ざんされないため、企業はそのデジタルデータに“安心”して、サービスを提供できるから」です。

2つ目の答えは、「どこかのひとつの組織だけで中央集権的に運営されているのではなく、複数の関係者で一緒に運営されているブロックチェーンシステムで、公平にそのデジタルデータが共同管理されているため、企業はそのデジタルデータを“信頼”してサービスを提供できるから」です。

つまり、ブロックチェーンがそのエコシステムでサービスを提供する企業に、“安心”と“信頼”をもたらしてくれるのです。

では、以上を踏まえて、ブロックチェーンの第一の社会実装である、ビットコインの本質的な価値を考えてみましょう。

ビットコインの本質的な価値

それぞれ異なる企業である世界中の仮想通貨取引所各社は、ビットコインというデジタルデータを持っている生活者に対して、法定通貨とビットコインを交換する取引サービスを、企業を横断して提供しています

ブロックチェーン技術で守られているビットコインのデジタルデータは絶対に改ざんされることはありません。かつ、そのデジタルデータは、特定の1社の仮想通貨取引所ではなく世界中の何万という個人や事業者が一緒に運営するブロックチェーンシステムで、公平に共同管理されています。そのため、いずれの仮想通貨取引所も、その公平に共同管理された絶対に改ざんされないデジタルデータを信頼し、安心して法定通貨と交換する取引サービスを提供できるのです。

そしてその「結果」として、ビットコインというデジタルデータがあれば、誰もが世界中のどの仮想通貨取引所でもお金に交換できるようになりました。つまりビットコインは、「実体を持っていなくとも評価額を換算でき、現金化できる」という金融資産としての要件を満たすことになったのです。

ここで大切なポイントは、ビットコインが金融資産となり得たのはあくまでも「結果」であって、その上流にある「要因」としてのブロックチェーンの本質的な価値が、それをもたらしたということです。

以上の説明を踏まえた上で、ビットコインのユースケースをそのまま真似して、同じようにただ法定通貨とコンテンツNFTを交換できるようにしただけの、投機的なNFTの取り組みを眺めてみると、それがいかにブロックチェーンの本質的な価値を見誤っているかよく分かります。

繰り返しになりますが、ブロックチェーンの本質的な価値は、「異なる企業の“サービス”を横断して利用できるデジタルデータによって、企業間連携のエコシステムを構築できるようにした」ことです。そして、ここでの“サービス”というのは、法定通貨とデジタルデータを交換する取引サービスに限られません。

当たり前のことですが、どんな事業であっても、ターゲットとしている顧客の求めるニーズを満たすサービスでなければ、継続することはできません。仮想通貨取引所は、ターゲットとしている投資家の「金融資産に資金を投資して、その取引を繰り返して利益を得たい」というニーズに対して、法定通貨とデジタルデータを交換できる取引サービスを提供しました。

では、コンテンツNFTの事業を行おうとするコンテンツ企業がターゲットとしているコンテンツファンも、仮想通貨の事業を行っている仮想通貨取引所がターゲットとする投資家と、同じ取引サービスを求めているのでしょうか。

もちろん同じではありません。なぜなら、コンテンツファンが求めているサービスは、法定通貨とコンテンツを交換する取引型のサービスなどでは決してなく、コンテンツを読んだり視聴したりして楽しむ、利用型のサービスだからです。

残念ながらこの違いを無視して、仮想通貨の事業のユースケースを無理やりコンテンツNFTの事業に当てはめた結果、「新たなデジタルコンテンツデータとしての金融資産が誕生した」という誤解が、2021年にNFTがブーム化してから広がっています。

コンテンツNFTの本質的な価値

「異なる企業のサービスを横断して利用できるデジタルデータによって、企業間連携のエコシステムを構築できる」というブロックチェーンの本質的な価値に立ち戻れば、コンテンツNFTの本質的な価値も自ずと分かります。それは、「異なるコンテンツ企業のサービスを横断して利用できるデジタルコンテンツデータによって、企業間連携のエコシステムを構築できる」ことです。

では、そのコンテンツNFTの本質的な価値によって、コンテンツ業界はどのようなイノベーションを起こすべきなのでしょうか。

それは、コンテンツファンが、自分が持っているコンテンツNFTを「異なるコンテンツ企業のサービスを横断して利用できる」ようにすることです。つまり、コンテンツNFTというひとつのデジタルコンテンツデータを所有していると、それを購入したコンテンツ企業Aのサービスの中だけでなく、他のコンテンツ企業Bのサービスでも利用して楽しめる体験を、ファンに届けるということです。

ではここで、もし10年後、コンテンツNFTがコンテンツ業界にこうしたイノベーションを起こせたとすると、どうなるか想像してみましょう。

現在8歳の私の娘は、18歳の高校生になって私にこう言うでしょう。「お父さんの時代って、LINEでキャラクターのスタンプを買ってもLINEの中でしか使えなかったの? それってまるで原始時代みたいだね。

今はLINEでキャラクターのスタンプを買えば、他の会社のゲームをそのキャラクターでプレイできるし、他の会社の漫画アプリで主人公にして読むことだってできるんだよ。もちろん、他の会社のメタバースに、そのキャラクターをアバターにして入って遊べるのも、当たり前。デジタルコンテンツを買っても、その会社の、しかもそのサービスの中でしか遊べなかったなんて信じられない!」

そしてそのとき、娘は決して「NFT」という言葉は使わないでしょう。

インターネットが普及した現代において、「このインターネット売ります!」と言う会社も、「そのインターネット買いたい!」と言う人もいません。なぜなら、インターネットは情報を流通させるためのツールにすぎないからです。そのため企業は、インターネットなどという言葉は使わずに「こんな便利なサービスを提供しますよ」と言うだけなのです。

そして、インターネットと同様に、NFTはコンテンツ価値を流通させるただのツールにすぎません。つまり、インターネットという売り物がないのと同じく、NFTという売り物はないということです。

それにも関わらず、「NFTを売りますよ」という声をよく聞きます。本来、NFTを使ったサービスを提供するコンテンツ企業は、NFTという言葉は使わず、「こんな楽しいサービスを提供しますよ」とコンテンツファンに伝えるだけでいいはずです。

つまり、コンテンツ業界がコンテンツNFTで起こすべきイノベーションは、決してコンテンツを「投機的に高値で販売」するような、コンテンツファンが求めていないことではなく、NFTという異なる企業のサービスを横断して利用できるデジタルデータを使って、ファンにコンテンツをこれまで以上に楽しんでもらえるように「ユーザー体験をデジタルトランスフォーメーション」することなのです。

コンテンツファンの中に、コンテンツの売買取引のためだけに時間の多くを費やしている人はほとんどいないでしょう。なぜなら、ファンは売買取引するためにコンテンツを購入するのではなく、楽しい利用体験をするために購入しているからです。

そのため、コンテンツNFT自体をただ販売、転売しているだけの、取引型サービスに終始してしまっている現状のNFT1.0で立ち止まっていては、未来はありません。NFTをツールとして活用して、コンテンツファンが企業を横断して楽しめる、利用型サービスのエコシステムを築き上げるNFT2.0を推し進めることこそが、今期待されているのです。

インターネット以来のパラダイムシフト NFT1.0→2.0
伊藤佑介(いとう・ゆうすけ)
一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ代表理事東京工業大学理学部情報科学科卒業後、2002年に株式会社NTT データに入社。金融/法人/公共分野でプログラマー、システムエンジニア、営業を経験した後、社内ベンチャー制度で新規事業を立ち上げる。2008年に博報堂へ入社し、営業としてデジタルマーケティングを担当。2013年に博報堂DY ホールディングスに出向し、マーケティング・テクノロジー・センターにて、デジタルマーケティング領域のシステムの開発~運用に従事した後、2016年よりメディア、コンテンツ、コミュニケーション領域におけるブロックチェーン技術の活用を研究。2018年からは博報堂のビジネス開発局にて「TokenCommunityAnalyzer」「CollectableAD」「TokenCastRadio」「TokenCastTV」「GiverCoin」「LiveTV-Show」「C-Guardian」の7つのブロックチェーンサービスをさまざまなベンチャーとコラボレーションして開発。2020年に、日本のコンテンツ業界のデジタルトランスフォーメーションを業界横断で加速すべく一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブを発足し、代表理事として、加盟するコンテンツ企業との共創によりブロックチェーン技術を基点としたオープンイノベーションを推進中。

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