本記事は、伊藤佑介氏の著書『インターネット以来のパラダイムシフト NFT1.0→2.0』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています
NFT×メタバース 「PocketRD」
メタバースにとって重要な基盤技術である3Dアバター自動生成システム「AVATARIUM」と、3DCG NFTマーケット「Pocket Collection」の開発をしているPocketRD。今後、更なるコンテンツの充実化が求められ、3Dモデルが急激に増えることを見込み、アバター、3DCG、ブロックチェーンの技術を統合したメタバース関連のソリューションを提供している。
PocketRDの籾倉氏と羽野氏の話をもとに、メタバース領域でのNFTの未来について著者が解説する。
「裏側の基盤技術」としてNFTは普及する
ブロックチェーンの技術体系から、NFTという非代替性技術トークンができました。それは、仮想通貨とは異なる文脈で唯一無二のトークンが誕生したとも言えます。今後は、この唯一無二化を価値として作られたNFTを、どのような領域でどう使うかということが重要になります。そして、そのひとつがメタバースの領域です。
メタバースの領域では、3Dアバターを使ったサービスが普及していくでしょう。この3DアバターへNFTを付与すれば、メタバースの空間において、個人の3Dアバターを特定するために必要不可欠な識別子として利用できると期待されています。
NFTは3Dアバターに限らず、アート作品、定期券、チケット、会員証などを唯一無二に特定する「裏側の基盤技術」として使われていくでしょう。
さまざまなコンテンツがNFTを通して取引され、将来的に一般のユーザーは、NFTという言葉や技術を、ほぼ意識することなく利用するようになっていくと考えられます。
メタバースにおけるNFTが提供する「価値」
PocketRDは、3Dアバター自動生成システム「AVATARIUM」と、3DCG NFTマーケット「Pocket Collection」を提供しています。
AVATARIUMは、3Dスキャナーで全身を撮影したデータから、自動で自分の3Dアバターを制作できるだけでなく、スマホアプリからそのオリジナル3Dアバターを簡単にカスタマイズすることもできます。これまでは、作るのに専門的な知識が必要だったオリジナル3Dアバターを、誰もが簡単に制作できるようにしたのです。
自分のアバターを持って、自分らしく魅力的にカスタマイズできるようになれば、ゲームやオンライン会議、メタバースなど、いろいろな場所で利用したくなるでしょう。
また、アバターの利用が広がっていくと、キャラクターアバターとのコラボレーションキャンペーンや、アバター向け限定アイテムのプレゼントキャンペーンなどの、企業キャンペーンにアバターが活用されていくことも考えられます。これらのキャラクターアバターや限定アイテムは、デジタル空間において、唯一無二なデータであることが重要となります。NFTを使って唯一無二化ができれば、そのデータの価値を高めることが可能です。
このように、将来的にアバターを利用したコミュニケーションが一般的になると、「NFTが付与されたキャラクターアバターや限定アイテムを持っている」ということが価値になるでしょう。
子どもたちが動かすメタバースの世界とNFT
今の子どもたちは「ROBLOX」や「Minecraft」など、自分でワールドが作れるゲームにハマっています。また、「Scratch」などでプログラミングを学んだりゲームを作ったりもしています。そんな子どもたちが大人の想像を超えた素晴らしいワールドを作ることもあります。こうしたゲームで作られたワールドやアイテムにNFTが付与されるとしたら、新たな可能性が生み出されるでしょう。
例えば、NFTが付与されたワールドで、NFTが付与されたアイテムを、NFTが付与された自身の3Dアバターを介して遊ぶ、といった世界がやってくると考えられます。
子どもが作ったワールドで大人がゲームをプレイするという、子どもに大人が圧倒されるような世の中がくるかもしれません。子どもたちが構築したワールドが販売されるようになれば、NFTは「ゲームをプレイしながら稼げる」という世界観の実現に寄与するでしょう。
NFTの所有者証明がないと危険なメタバース
メタバースにおけるNFT活用で、一番の課題は「メタバースを創ること自体が目的となっている」現状です。
「メタバースを創りたい」という企業が増えてきた結果、開発工数のほぼ全てが「メタバースという仮想空間を作ること」に割かれている傾向にあります。そのため、唯一無二に特定できる技術であるNFTを意識してコンテンツを作る余裕がないのです。
また、「メタバースにおけるコンテンツはNFTを使わないと守られない」ということを、まだ理解しきれていないのが現状と言えます。ではなぜ、NFTがないと危険なのでしょうか。
メタバースはブラウザやアプリで動きますが、3Dモデルを表示するために、メモリーやハードディスクに、事前に3Dデータが読み込まれてしまいます。つまり、技術に詳しい人であれば、そのダウンロードされたデータを引き抜くことができる状態であるということです。
コンテンツデータにNFTが付与されておらず、所有者証明ができないと、ダウンロードされたデータをいくらでもコピーして、その複製を利用できてしまうことになります。これほど危険なことはありません。
NFTで、誰のアバターなのか、誰のアイテムなのかを証明できないと、違法に引き抜いたデータによりメタバースの世界で「なりすまし」ができてしまうことになります。また、引き抜いたデータを勝手にNFT化されてしまう危険性もあるのです。
同一ゲーム内で楽しむだけであれば大きな問題にはならないかもしれませんが、メタバース上でワールドを作り、アバターやアイテムを交換したいという世界観を作るのであれば、所有者を特定するための技術であるNFTを、コンテンツやアバターに付与することが必須となると考えられます。
創作の積み重ねを管理できるNFT
例えば、ロボットの3Dデータを作ったクリエイターがいたとします。一次創作者であるこのクリエイターが、そのデータに対して利用許諾のNFTを付与してコンテンツデータとして販売します。
次に、購入したユーザーが二次創作者となって、ロボットの3Dデータを、そのユーザー自身が制作した他のゲームに取り込めるデータ形式に変更し、ゲーム内のアイテムとして販売します。販売されたロボットアイテムは、利用許諾のNFTによって一次創作者のデータをもとに作ったことが分かるため、ゲーム内で販売されるごとに、一次創作者にも収益の一部が還元される仕組みを構築できます。
これまで、二次創作はデザインセンスがある一部の人しかできない創作行為でした。しかし、プロシージャルモデリング(数式や処理の組み合わせを利用して3DCGのモデル物体を生成すること)という技術を活用することで、新たな二次創作のスタイルが生まれるでしょう。
例えば、「ロボットの3Dデータ」と「ビーム砲の3Dデータ」を組み合わせるだけで、「ビーム砲を備えたロボットの3Dデータ」を簡単に創作できます。また、「ビーム砲を備えたロボットを、鎧兜を備えたロボットに変更する」というような設定をするだけで、絵をサクサクと変えることもできます。プロシージャルモデリング技術の登場で、誰もが二次創作のクリエイターになれるでしょう。
また、今までコンテンツを作るには、一から3Dモデルなどの全てのアセットを作る必要があり、膨大な時間がかかっていました。これからは利用許諾のNFTが付与されたコンテンツデータや、プロシージャルモデリングのような技術の組み合わせによって、コンテンツの制作工数が大きく下がると思われます。例えば、CG映画の総制作期間が2年かかっていたとすると、その半分の1年間は新規の3Dモデルの制作に費やされていました。利用許諾のNFTが付与された、既存の3Dモデルを活用するという新しい制作方法を用いることで、制作期間を大幅に短縮できるようになるでしょう。
有体物にNFTを付与することで……
NFTは、メタバースのようなデジタル空間と相性がよいと思われがちですが、商品やキャンペーングッズなどの有体物に付与する活用方法も期待されています。
例えば中古車流通市場にNFTを活用して、車の購入履歴を管理したとします。すると、購入を検討する際に、その中古車のNFTを確認すれば ―― 個人を特定できるわけではありませんが――ワンオーナーカー(前オーナーが1人しかいない、状態のよい中古車)だったということも分かるようになります。
また、リアルな物に、自分が所有していることを証明するNFTが付与されることで、デジタルの世界のアイテムへシームレスにつなぐことも可能になります。例えば、新しいスマートフォンを購入して所有証明のNFTが付与されたタイミングで、メタバース内の自分のアバターに同じスマートフォンを持たせることができます。つまりNFTが、メタバースとリアルの架け橋となるのです。
このように有体物にNFTを付与することで、**有体物の取引がメタバース内の所有証明のNFT取引と連動するようになるでしょう。
多種多様なNFTの誕生とエクスチェンジ市場の勃興
今後、デジタルデータや有体物に付与されるNFTは、多種多様なタイプのものが誕生するでしょう。各社が異なるブロックチェーンを使って、独自フォーマットのNFTを発行すると考えられます。しばらくはNFTのフォーマットは共通化されず、GAFAなどは、Google NFTやAppleNFTを発行して、それぞれのNFTが流通する経済圏を作るでしょう。
一方で、NFTの所有者側に視点を移すと、OAuth(オーオース:異なるSNSやWebサービス間でアクセス権限の認可を行うためのプロトコル)を利用したログインのように、共通したひとつのIDでログインして、各社多種多様なタイプのNFTの所有を一元管理し、異なるブロックチェーンを横断してエクスチェンジできるような仕組みが現れると思われます。
最終的には、所有者が各社の独自経済圏を意識することなく、自由にNFTを取引できるようなエクスチェンジ市場が勃興するでしょう。
NFTによる利用許諾と二次創作の管理
既存のコンテンツデータの組み合わせにより、二次創作できるようになると、必ず権利の管理が必要になってきます。PocketRDが提供する3DCG NFTマーケット「Pocket Collection」は、NFTを利用して二次創作者が一次創作者から利用許諾を受けたことを証明できます。さらに、利用許諾を得たコンテンツデータを改変して二次創作物を創作した場合には、その創作の積み上げをNFTで管理することもできます。
今後、特に流通が拡大していくと予想される3Dデータは、さまざまなクリエイターの創作の積み重ねでできています。
例えば、クリエイターAが3Dスキャナーでロボットのプラモデルをスキャンし、そのスキャンデータを作ったとしましょう。ただし、スキャンデータなので、色は付いていません。これを一次データとします。
そして「このロボットに赤色を付けてほしい」という要望を受けて、クリエイターBが赤色を付ければ、そのデータは二次データとなります。他にもいろいろな要望が出て、さまざまなクリエイターがロボットのデータを二次創作していったとすると、それらのデータの権利は、創作に関わったそれぞれのクリエイターが持つことになります。
このように、3Dデータのみならず、今後はあらゆるコンテンツデータにおいて利用許諾の有無と二次創作の管理が必要となるため、Pocket Collectionでは、この2つをNFTで管理できるようにしています。
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