本記事は、伊藤佑介氏の著書『インターネット以来のパラダイムシフト NFT1.0→2.0』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています
NFT × Web3.0 「HashPalette」
ブロックチェーンの社会応用への可能性を広げるソリューションを提供し、Web3.0時代のデジタル・アセットプラットフォーマーを目指すHashPortが設立した、NFTに特化した子会社のHashPalette(ハッシュパレット)。2021年に日本初となるIEO(Initial Exchange Offering=イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)という、企業やプロジェクトが発行するトークンを、暗号資産取引所に上場して資金調達を行う取り組みを実施した。
HashPaletteの吉田氏の話をもとに、Web3.0時代のNFTの未来について著者が解説する。
コミュニティの中で自分を表現する手段としてのNFT
コロナ禍において、仕事の場、そしてプライベートな時間の活動は、フィジカルからデジタルに移りました。
人と会う機会が少なくなり、デジタルシフトも相まって、フィジカルな交流が減ってきています。そのため、デジタル空間において自分を表現し、コンテクストを誰かと共有できるNFTの価値が、急速に高まってきています。
Web3.0の時代になると、所有しているNFTの種類ごとに、複数のコミュニティへ所属できるようになり、NFTはそのコミュニティの中で、自分の人格を表現できる手段となるでしょう。
NFTによって生まれる新しいアセット
これまでは、好きなゲームをプレイしたり、好きなアーティストを応援したりすることは、あくまでも遊びや趣味であって、それでお金を稼ぐことはできませんでした。
しかし、NFTの普及により、例えばファンクラブのコミュニティを盛り上げることでアーティストの特別な限定NFTがもらえたり、もしくはコミュニティからの公認を受けてファンがコンテンツのNFTを二次創作できたりするようになります。
コミュニティでの活動により得られたNFTにやがて価値が付くと、NFTは売買できるアセットになり、お金を稼げるようになります。
つまり、遊びや趣味の活動の結果として得たNFTが、デジタルのアセットとして保有できるようになるということです。現在は、アセットというと証券や債権など金融資産が中心となっていますが、NFTによって、遊びや趣味で活動した結果として手に入れたデジタルデータも、アセットとみなされるようになります。そして、そのような新たなデジタル・アセットを生み出すことを、HashPaletteは目指しているのです。
世の中には、価値があるにも関わらずアセットとして評価されていないものがたくさん存在しています。金銭的な価値を持つものだけがアセットなのではなく、好きなコミュニティで好きなことをして、その行動として生まれるデジタルデータが、NFTによってアセットになる未来がくるでしょう。
NFTによって進化するプラットフォームとユーザーの関係
Web2.0の時代は、プラットフォームの登場によって、コンテンツを制作する主体が企業側からユーザー側に移り、インターネット上のコンテンツの流通量は飛躍的に増加しました。
その結果、多くのユーザーを集めてたくさんのコンテンツが流通するようになったプラットフォーム企業は、大きな収益を上げるようになり、企業価値を高めて企業株主に富をもたらしました。
Web3.0の時代になると、プラットフォームとユーザーの関係がさらに発展的な進化をします。
これまでは、ユーザーがプラットフォーム上でコンテンツを生み出し貢献しても、プラットフォームが成長して得られた収益が手元に入るのは企業株主だけで、ユーザーには何も残りませんでした。
しかし今後は、プラットフォーム上でユーザーが活動すると、その活動量に応じて、限定NFTをもらえたり特別なイベントへの参加券のNFTをもらえたりするようになります。そして、プラットフォームの成長に従って、そのNFTのデジタル・アセットとしての価値も上がり、ユーザーも共に収益を得られる、そんな時代になっていくでしょう。
HashPaletteも、2022年4月にNFTマーケット「PLT Place」をローンチして、ユーザーと共に成長する新たなWeb3.0時代のプラットフォームとして事業展開しています。
PLT Placeでは、ゲームやアートを始めとするさまざまな分野のNFTを、企業やクリエイターが出品できます。ユーザーは、それらのNFTをただ購入できるだけでなく、ユーザー同士でNFTを売買したり、NFTを使って交流したりすることができます。
また、ユーザーはガス代を支払うことなく売買ができ、決済方法はHashPaletteが発行している暗号資産「PLT(Palette Token)」以外に、クレジットカードにも対応しています。
今後は、クロスチェーン(あるブロックチェーンから他のブロックチェーンにNFTを移動する)機能も追加して、HashPaletteのブロックチェーン「PaletteChain」から、イーサリアムなど他のブロックチェーンへ自由にNFTを移動させられるようになります。
そして1番の特徴は、独自の暗号資産PLTを活用しているNFTマーケットであるということです。
PLT PlaceがよりよいNFTマーケットになればなるほど、新たな利用者が増え、NFTを取引するためにPLTが購入されることで、もともと保有しているユーザーのPLTの価値も上がる可能性があります。
韓国でも音楽レーベルが、NFTを活用したプラットフォームによってアーティストとファンの経済圏を作り上げ、共に成長して、一緒に収益を得られるようにする取り組みを始めています。
Web3.0時代は、これまでのWeb2.0時代とは違い、ユーザーを、コンテンツを生成したり消費したりするコンシューマーとして捉えるのではなく、一緒にサービスを成長させていく仲間として巻き込んでいくことが大切になります。
既存のWebサービスにまで活用の場を広げるNFT2.0
NFT1.0では、コレクティブルなNFTが大きく市場をリードしてきました。その中でNFT1.0を代表する「CryptoPunks」においては、NFT自体がひとつのコミュニケーションツールとして成り立ち、そのコミュニティがユーザーの活動で活性化すればするほど、それに伴ってユーザーが保有するNFTの価値も上がりました。
さらにNFT2.0になると、ゲームの中のキャラクターとして操作できるNFTや、メタバースの中でアバターとして利用できるNFTなどに進化し、所有価値に加えてユーティリティ価値も持つようになります。
NFT1.0のコレクティブルなNFTは、その所有価値をNFTマーケットの中で売買するしかありませんでしたが、NFT2.0で利用できるNFTは、そのユーティリティ価値を生かして、既存のWebサービスの中でも利用できるようになります。狭いNFT市場に閉じずに、広く世界中の人が利用している一般的なWebサービスにまで活用の場が広がることになるでしょう。
NFTの普及拡大のための課題
NFTは、現状ではまだマス化できていません。
その要因のひとつに、NFTを入手、保有するために必要となるウォレットや秘密鍵、ガス代という存在があります。一般ユーザーにとってそれらを理解することは難しいだけでなく、その利用方法もとても煩雑なのです。それを、いかに誰にとっても分かりやすく、かつ手軽に利用できるようにするかというのが、NFTを普及させるための大きな課題となっています。
また、NFTの購入で利用する暗号資産に関しても課題があります。それは、日本円の価値と紐付いた価格の安定した暗号資産、いわゆるステーブルコインがないということです。
日本は、決済の電子化すらまだ進んでいない国なので、多くの人は日常生活の中で、日本円という法定通貨を主に使っています。そのため、価格が上下する暗号資産にまだ慣れていないのが現状です。
そうした中で、価格の変動がないため比較的一般の人が受け入れやすいと考えられているステーブルコインが日本にもあれば、NFTの利用障壁を下げられる可能性があると期待されています。
ルールの内側からWeb3.0を実現
日本で事業を行うためには、石橋を叩いて叩いて叩き割るぐらいの慎重さが求められます。だからこそ、最初にチャレンジして、その橋を渡れることを、周りに示す存在が必要となります。
そのような中で、ベンチャー企業には、日本の発展のためにその石橋を最初に渡ることにトライし、新たな社会制度や技術革新をリードすることが期待されています。そして、ベンチャー企業が、新しいビジネスモデルを切り開くことで、その後、大きな社会インフラになるような企業が参入できる礎が築かれます。
そのように社会からの期待を受けるベンチャー企業には、国で定められた法律という与えられたルールに対して、「ルールをハックして結果を出す方法」と、「ルールに従って結果を出す方法」の2つの選択肢があります。つまり、ルールの外側で社会を前進させる方法と、ルールの内側で社会を前進させる方法のどちらか、ということです。
実際に、海外に拠点を置いて日本向けにサービスを提供するといった、ルールの外側と言わざるを得ない取り組みも散見されます。しかし、ルールの枠組みの中でWeb3.0のビジネスを推進していくプレイヤーがいなければ、本当の意味で日本社会を前進させることはできないでしょう。
HashPaletteが日本国内の法律に従って、日本初のIEOをした意義は、まさにそこにあります。
暗号資産やブロックチェーン、NFTはまだまだ一般的には懐疑的な見られ方をされることがあります。だからこそ、ルールを守った形で世間的に評価されるサービスを作り、ルールの内側でWeb3.0の実現を示すことが、NFTを社会に浸透させるためにも重要なのです。
COLUMN 消費者を守るために一般社団法人JCBIが行う正規品NFT認定事業
作家やコンテンツ企業は、時間とお金を投資して価値あるコンテンツを創り出し、ファンにそれを楽しんでもらうために、コミックや小説、アニメ、映画、ゲームなど、さまざまな形の商品として提供しています。そのようなコンテンツビジネスを行う上で、とても大切になってくるのが、著作権をはじめとした各種権利です。なぜなら、作家やコンテンツ企業は、それらの権利に基づいて、商品を製造、販売してくれる企業へライセンスを許諾して、対価を得るからです。
しかし、海外のNFTマーケットを見てみると、日本の作家やコンテンツ企業の作品を無許諾で盗用して、著作権を侵害している違法なNFTが数多く発行、販売されています。そして、2022年1月28日に、世界最大手のNFTマーケットOpenSeaから、自社が提供する無料ツールで発行されたNFTの80%以上が、盗用された作品、偽のコレクション、およびスパムであったことが発表されました。それにより、2021年のNFTブームで急速に立ち上がった市場が、「不正なNFT」によって蝕むしばまれている実態が明らかになりました。
2017年の仮想通貨ブームでは、「無価値な仮想通貨」が数多く発行、販売され、それらを購入した消費者の被害が広がり問題になりました。しかし、今のNFTブームのような、他人の何かを盗用した「不正な仮想通貨」による問題はありませんでした。その理由は簡単です。仮想通貨はブロックチェーン上に記録された情報だけで完結した存在であり、他の何とも紐付いていないからです。
つまり、仮想通貨はもともとの構造上、不正に他人の何かと紐付けること自体ができないということです。それに対して、NFTは外部のWebサーバーにあるコンテンツデータと紐付きます。そのため、ライセンス許諾を得ずに、勝手に作家やコンテンツ企業のコンテンツデータと紐付けてしまえば、いとも簡単に不正なNFTが発行、販売できてしまうのです。実はこれは、ブロックチェーンという技術が抱えているオラクル問題に起因しています。
オラクル問題とは、「ブロックチェーン技術は、ブロックチェーンシステムに記録されたデータが改ざんされていないことは、管理主体がいなくとも保証できるが、ブロックチェーンシステムに記録されたデータと紐付く外部のWebサーバーのデータが正しいか否かは、信頼のある管理主体がいなければ保証できない」という問題です。
そのため、ブロックチェーンシステムに記録されたNFTの所有者情報や移転情報が決して改ざんされていないことは、管理主体がいなくても保証できるとしても、そのNFTに紐付く外部のWebサーバーのデジタルコンテンツのデータが、盗用された作品でも偽物の作品でもない正しいデータなのかは、信頼のある管理主体がいなければ保証できません。つまり、権利者本人が発行した正規品のNFTであることをファンに保証するためには、信頼たる管理主体が必要になるということです。
そこでJCBIは、NFT市場の健全な発展に貢献すべく、その役割を果たすために、正規品のNFTを認定する事業を開始しました。認定を受けるために、作家やコンテンツ企業は、JCBIに対して発行するNFTに関する申請書類を提出します。その後、JCBIが審査して認定すると、JCBI認定パートナーNFTマーケットの当該NFTの販売ページ上に、正規品であることを表す認定マークが表示されるようになります。JCBIは本事業を通して、作家やコンテンツ企業が不正なNFTからファンを守ることができ、NFTマーケットも安心してファンに正規品のNFTを届けられる、健全な市場環境を整備する一助を担いたいと考えています。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます