この記事は2022年6月10日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「ECB政策理事会-量的緩和は終了、声明に利上げの道筋も明記」を一部編集し、転載したものです。
目次
結果の概要:量的緩和は終了、声明文に今後の利上げを明示
6月9日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・APPの7月1日での純資産購入の終了を決定(従来は7-9月期に購入終了予定としていた)
・利上げのフォワードガイダンスが満たされていることを確認
・7月理事会での0.25%ポイント利上げについて記載
・9月理事会でのさらなる0.25%ポイント以上の利上げについて記載(中期的なインフレ見通しが持続・悪化した場合は、大幅な利上げが適切と補足)
・9月より先の、段階的かつ持続的な利上げについて記載
・理事会は金融政策の実行に際して選択肢(optionality)、データ依存(data-dependence)、漸進主義(gradualism)、柔軟性(flexibility)を維持する(データ依存を追加)
【記者会見での発言(趣旨)】
・スタッフ見通しでは、GDP成長率を22年2.8%、23年2.1%、24年2.1%と予想
・インフレ率を22年6.8%、23年3.5%、24年2.1%と予想
金融政策の評価:利上げへの下地を整備
ECBは今回の会合でAPPの終了を決定した。
APPについてはこれまで、7-9月期に終了予定としていたが、7-9月期の中で最も早い7月1日の終了となった。
また、利上げのフォワードガイダンスが満たされたとの判断を示し、APP終了後の7月以降の利上げについても声明文に具体的な形で明示している。具体的には、「7月の0.25%ポイント」の利上げ、「9月の0.25%ポイント以上」の利上げ、「それ以降の段階的かつ持続的な」利上げである。特に、9月の利上げ幅については、中期的なインフレ見通しが持続か悪化した場合はより大幅な利上げが適切であることにも言及されており、9月の0.50%ポイントの利上げも想定内であるようだ。
こうした状況を受けて、質疑応答では利上げに関する質問や、また事前に南欧金利の急上昇(いわゆる「分断化(fragmentation)」)を防ぐ手段の導入が検討されているとの報道が見られたことから分断化に関する質問が多くみられた。
ラガルド総裁は、現在のスタッフ見通しにおけるインフレ率(24年の2.1%)でも9月に0.50%ポイントの利上げが正当化されること、中立金利については現時点で具体的な想定を置いていないこと、3つの政策金利(預金ファシリティ金利、主要リファイナンスオペ金利、限界貸出ファシリティ金利)のすべての引き上げを予定しているが、その幅(スプレッド、コリドー)については、今後の検討事項であると回答している。
また、分断化に対応するための手段としては、既存のPEPPの再投資による柔軟性に言及しつつ、新しい手段も必要があれば導入するとしたが、具体的な検討事項などには踏み込まなかった。
ECBは、今回の決定で利上げへの下地を整備したと言える。
今後、7月および9月の理事会は、今回声明文に提示されたように利上げを着実に進める段階となる。ユーロ圏では11年ぶりの利上げであり、市場の反応(とりわけ「分断化」)や、実体経済に利上げがどのように波及するか、また、それらをECBがどのように評価するのかが注目される。
声明の概要(金融政策の方針)
6月9日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
●高インフレは我々全員の主要課題である
- 理事会は中期的にインフレ率を2%に戻すことを確認する
●5月のインフレ率は、戦争の影響などを受けて、エネルギーと食料品価格が主導し、再び急激に上昇した
- しかしながら、インフレ圧力は拡大し、また強まっており、多くの財・サービスが強い伸び率となっている
- ユーロシステムのスタッフはベースラインのインフレ見通しを大幅に上方修正した
- これらの見通しは、インフレ率がしばらくの間好ましくない高い伸び率に維持されることを示している
- しかしながら、エネルギー価格が緩やかになり、コロナ禍に関連した供給網の混乱が解消し、金融政策の正常化が進めば、インフレ率は低下してくと見られる
- 新しいスタッフ見通しは3月の見通しよりも高く、22年6.8%となった後、23年3.5%、24年2.1%と低下する
- これは、ヘッドラインインフレ率が見通し期間の終わりまで理事会の目標をやや上回ることを意味している エネルギーと食料品を除くインフレ率もまた3月の見通しよりも高く、22年平均で3.3%、23年2.8%、24年2.3%である
●ロシアの不正なウクライナ侵攻は引き続き欧州やそれ以外の経済の重しとなっている
- 貿易は混乱し、原材料不足をもたらし、資源・商品価格の高騰を招いている
- これらの要因は、特に短期的に見て、引き続き景況感の重しとなり、成長を抑制する
- しかしながら、経済は、経済再開、堅調な労働市場、財政支援策とコロナ禍期間中に積みあがった貯蓄の恩恵を受けて、引き続き成長が続くという環境にある
- 現在の逆風が軽減すれば、経済活動は再び上向くだろう
- この見通しは、広くユーロシステムのスタッフ見通しに反映されており、GDP成長率は22年2.8%、23年2.1%、24年2.1%と予想している
- 3月の見通しと比較すると、22年と23年の成長率を大幅に引き下げたが、24年は上方修正した
●最新の評価に基づいて、理事会は金融政策の正常化へのさらなる段階に進むことを決定した
- この過程全体で、理事会は、金融政策の実施に関する選択肢(optionality)、データ依存(data-dependence)、漸進主義(gradualism)、柔軟性(flexibility)を維持する
資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP
●APPの実施(7月1日での終了を決定)
- 理事会はAPPによる純資産購入について、7月1日をもって終了することを決定した(APPの終了決定)
●APPの元本償還分の再投資(政策の変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 政策金利を引き上げ、十分な流動性と適切な政策姿勢を維持するために必要な限り実施(表現を若干修正、政策の変更なし)
●PEPP元本償還分の再投資実施(政策の変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
●PEPP再開の可能性について(表現を一部移動、政策の変更なし)
- コロナ禍に関連して、市場の分断(fragmentation)が再発する場合には、いつでもPEPPの再投資は、実施期間、資産クラス、国構成を柔軟に調整する(変更なし)
- これには、国構成に関して購入が中断され、コロナ禍の余波からの回復途上にあるギリシャ経済への金融政策の伝達が阻害されることを避けるために、償還再投資についてのギリシャが発行する国債を購入することも含まれる(変更なし)
- PEPP下での純資産購入は、コロナ禍の負の影響に対抗するため、必要があれば再開する(変更なし)
政策金利、フォワードガイダンス
●理事会は、政策金利の引き上げ前にフォワードガイダンスに関する条件を注意深く調査し、それが満たされているかを確認した(利上げ条件が満たされていることについて記載)
- 理事会は評価の結果、これらの条件が満たされていると結論付けた
●したがって、理事会の次なる政策として、理事会は政策金利を7月の理事会で0.25%ポイント引き上げるつもり(intends)である(次の理事会での利上げについて記載)
- それまでの間、理事会は政策金利を維持することを決定した
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
●その先、理事会は政策金利を9月にも引き上げるつもり(expects)である(さらなる利上げについて記載)
- これらの利上げの調整は最新化された中期的なインフレ見通しに依存する
- 仮に中期的なインフレ見通しが持続的、あるいは悪化すれば、9月会合でより大幅な利上げが適切となるだろう
●9月より先は現時点での評価に基づいて、理事会は段階的だが、持続的な政策金利の引き上げが適切であると見込んでいる(利上げスタンスについて記載)
- 理事会の中期的な2%目標というコミットメントに沿って、理事会の金融政策の調整ペースは、最新のデータと中期的なインフレ動向への評価に依存する
●利上げのフォワードガイダンスは条件が満たされたため削除
資金供給オペ
●流動性供給策の監視(変更なし)
- 理事会は銀行の資金調達環境を監視し、TLTROⅢの満期が金融政策の円滑な伝達を阻害しないよう保証する(変更なし)
- 理事会はまた、条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する(変更なし)
- 以前に公表したように、TLTROⅢの特別条件は今年6月23日に終了する(具体的な日付に言及、政策の変更なし)
- (準備預金への付利の2階層制度の適切な運用に関する記述を削除)
その他
●金融政策のスタンスと柔軟性について(政策の変更なし)
- インフレが2%の中期目標に向け推移するよう、必要があれば柔軟性を組み込み、すべての手段を調整する準備がある(「責務の範囲内で(within its mandate)を削除」)
- コロナ禍による緊迫した環境下で、資産購入の設計・実施の際の柔軟性が、金融政策の伝達への悪影響に対抗し、理事会の目標達成への取り組みをより効果的にすることを示した(変更なし)
- 我々の責務の範囲内において、緊迫した環境下で、金融政策の伝達性が脅かされ物価の安定が危うくなる場合には、柔軟性が引き続き金融政策の一要素となるだろう(変更なし)
記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
冒頭説明
(クノットオランダ中銀総裁への感謝の言葉)
(声明文冒頭に記載のインフレ・経済見通しと今後の利上げに関する言及)
経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
経済活動
●短期的に、我々は高いエネルギー価格、交易条件の悪化、高インフレによる所得への悪影響の不確実性のために経済活動が鈍化すると見ている
- ウクライナでの戦争と中国でのコロナ禍に対する規制が再度実施されたことにより、供給制約が再び悪化している
- その結果、企業はコスト高と供給網の混乱に直面しており、生産見通しは悪化した
●しかしながら、経済活動の下支え要因もあり、今後数か月でこれらが強化されると見ている
- コロナ禍で大きな影響を受けた産業での経済再開や雇用が回復し堅調な労働市場は所得と消費の下支え要因となる
- 加えて、コロナ禍期間中に積みあがった貯蓄は緩衝材(buffer)となる
●財政政策は戦争の影響を緩和する助けになる
- 的を絞った一時的な財政手段は、さらなるインフレ圧力を助長するリスクを避けつつ、高いエネルギーに耐えている人々を守る助けになる
- 「次世代EU」「Fit for 55」「REPowerEU」計画の下での投資・構造改革を迅速に実施することは、ユーロ圏経済が持続的な成長加速と、世界的なショックに対する強靭性(resilience)強化の助けになるだろう
インフレ
●インフレ率は5月に8.1%となった
- 政府が介入し、エネルギーインフレの抑制に努めているものの、エネルギー価格は前年比39.2%となっている
- 市場の指標はエネルギー価格が短期的に高止まりするものの、将来的にはやや緩和することを示唆している 食料品価格は5月に7.5%上昇し、一部は農作物の国際的な生産者としてのロシア・ウクライナの重要性を反映したものとなっている
●物価は供給制約の再発と、特に経済再開に伴うサービス産業における域内需要の高まりによって力強く上昇している
- 物価はより幅広い産業で上昇するようになっている
- したがって、インフレ基調もさらに上昇している
●労働市場は改善を続けており、失業率は4月には6.8%という歴史的な低水準を維持している
- 多くの部門では求人件数から、労働需要の強さが示されている
- 時間が経過し、経済が強くなること、またキャッチアップ効果(catch-up effects)により賃金上昇が支えられるだろう
- 金融市場やサーベイ調査による長期のインフレ期待の様々な指標が2%付近にあるなかで、これらの指標が目標を上回る兆候には注視する必要がある
リスク評価
●コロナ禍に関するリスクは低下する一方で、戦争が経済成長への大きな下方リスクとなっている
- 特に、スタッフ見通しの悲観シナリオにも反映されている(*1)通り、ユーロ圏のエネルギー供給のさらなる混乱は主要リスクである
- さらに、戦争がエスカレートすれば、経済の景況感悪化、供給制約の深刻化、エネルギーと食料品価格の想定以上の高止まりの可能性がある
●インフレ見通しをとりまくリスクも、主に上方に傾いている
- 変動しにくい中期的なインフレ見通しのリスクには、経済供給力の悪化、エネルギーと食料価格の高止まり、期待インフレ率の目標を上回る上昇、予想以上の賃金上昇がある
- しかしながら、中期的な需要が低迷すれば価格上昇圧力も抑制されるだろう
*1: 悲観シナリオは成長率が22年1.3%、23年▲1.7%、24年3.0%、インフレ率が22年8.0%、23年6.4%、24年1.9%である。前提に、22年7-9月期からロシア産エネルギー輸入が遮断され、大幅な商品価格の上昇や世界的な供給網問題の深刻化が置かれている、(例えば、ガス価格はベースライン対比で2倍と想定されている)。
金融・通貨環境
●市場金利はインフレと金融政策見通しの変化に反応して上昇した
- 基準金利の上昇により、銀行の調達コストも上昇しており、特に家計への貸出金利の上昇をもたらしている それにもかかわらず、3月の企業貸出は増加している
- これは、生産コストの上昇や供給制約の長期化、市場調達の依存度低下に対抗して、投資需要や運転資金確保の必要性があることが貢献しているとみられる
●我々の金融政策の戦略に基づいて、理事会は半年に1度、金融政策と金融安定の相互関係に関する詳細な評価を実施した
- 金融安定に関する環境は、特に短期的に見て、前回21年12月での評価から悪化している
- 特に、低成長と原材料価格の上昇圧力、無リスク金利や国債金利の上昇によって、借入主体の資金調達環境はさらに悪化する可能性がある
- 同時に、資金調達環境が厳格化すれば、中期的には既存の金融安定への脆弱性が解消する可能性もある 銀行は、年明けから確固たる資本を確保し資産の質も改善してきたが、現在は信用リスクの高まりに直面している
- 我々はこうした要因を注視するつもりである
- いかなる場合でも、マクロプルーデンス政策は金融の安定性を維持し、中期的な脆弱性に対処することが最善の手段であり続ける
結論
●要約すれば、ロシアの不正なウクライナへの侵攻はユーロ圏経済に深刻な影響を及ぼし、見通しを取り巻く不確実性は依然として大きい
- しかし、経済は回復を続けており、中期的なさらなる回復の途上にある
●インフレ率は好ましくない高さであり、しばらくの間我々の目標を上回り続けると見られる
- 我々は中期的にインフレ率を2%に戻すことを確認する
- 従って、我々は金融政策の正常化へのさらなる段階に進むことを決定した
- 我々の政策手段の調整は引き続きデータや見通しへの評価に依存し続ける
- インフレが2%の中期目標に向け推移するよう、責務の範囲内で、必要があれば柔軟性を組み込み、すべての手段を調整する準備がある
質疑応答(趣旨)
●あなたは、過去数か月、ユーロ圏経済は他の先進経済とは異なる場所にいると繰り返してきた。FRBが利上げを開始してから、3か月後に同じことをしようとしている。まだ違いがあるのか、それとも後追いをしているのか
- 我々は、12月に開始した正常化の段階をさらに進めるという課題に焦点をあてており、追い付くことは問題ではない
●分断化(fragmentation)リスクに関する議論がなされたか教えて欲しい。それに対処するための新しい提案はあったか
- 我々は、金融政策の伝播が地域全体に及ぶように、分断化がないようにする必要がある
- 既存の政策手段があり、過去にも記述したと思う
- PEPPの1.7兆ユーロの再投資は、時間、国、資産クラスに関する柔軟性を持って実施している
- 必要な場合は、過去に実施したように既存の手段を講じるか、新しい手段を利用する
- 我々は、適切な金融政策手段の実施にコミットしており、伝達を損なうような分断化は回避される必要がある
●今日の決定は全会一致だったか、議論の内容をさらに教えて欲しい
- 議論は前回一致の決定で終了した
●ECBは9月の会合で0.25%ポイント以上の利上げの可能性について言及している。7月会合でも同じことを考えているか
- 声明文では「我々は7月会合で0.25%ポイントの政策金利の引き上げを意図している」としている
●もしインフレ見通しが2%に引き下がらなければ、9月に0.50%ポイントの利上げをすることを意味しているか
- 重要な点は、「仮に中期的なインフレ見通しが持続的、あるいは悪化すれば、9月会合でより大幅な利上げが適切となるだろう」である
- 例示すれば、24年あるいはその先に2.1%となったら、利上げ幅の調整が大きくなるかと言われれば、そうである
●9月までに利上げをしたいといっていたが、3つすべての金利を意味するのか
- 声明文の単数・複数を含むすべての言葉が重要である
- 「9月に再度」「政策金利(key ECB interest rates)を引き上げる」としており、(複数形であり)3つの金利すべてが含まれる
●タイムラグについての見解を聞きたい、7月の利上げはインフレ率やインフレ期待にいつごろ影響するのだろうか
- 即時の効果は期待していない
- 一方、インフレ期待は現在のところ固定されており、我々の政策によって引き続き固定させておく必要がある
●最終的には、新しい中立金利まで利上げをすることを意味するのか。中立金利には様々な推測があるが、何であると考えているか
- 中立金利は、この理事会で恣意的に議論しなかった事項である
- 中立金利の具体的な水準についてはうんざりする議論になるだろう
- 生産性や人口動態などの複数の理由で低下したことを把握するだけで十分でと言える
- 他の議論すべき事項が多くあったので、後の議論としてとってある
- 中立金利は、正確に観察し決定できるものではない
- さらに(中立金利に)近づけば、よりよく理解できるだろうし、その際に議論するつもりである
●APPの終了はフォワードガイダンスを調整するのに良い時期か。2013年にフォワードガイダンスが導入された際は、市場の期待を管理することを意図していた。今は、異常なインフレをもたらずウクライナでの戦争があるにも関わらず、約束があったために資産購入を早期に終了できなかったように思われる。金融市場であるしっぽは犬であるECBを振り回していないか
- 言及しているフォワードガイダンスは資産購入のフォワードガイダンスのことかと思う
- フォワードガイダンスは実際に変更されている
- 我々は実際に生じた変化を考慮している
- 過去11年間の多くのフォワードガイダンスや多くの道具は、反対の動きと関係しており、インフレ率が低すぎて、デフレのリスクを心配していた
- 今は逆の状況にあり、インフレ率が高すぎて中期的に2%に戻す必要がある
●ECBは24年までにインフレ率が目標に戻ると信じている。しかし、過去のほとんどの期間、ECBは一貫してより低いインフレ率に収束すると考えていたが、それは起こらなかった。歴史的には大きな信頼性がないなかで、どの程度、今回の成功を確信しているか
- 第1に予測は、スタッフが自覚とプロ意識をもって見通し作成を実施している
- 第2にこの予測はECBだけでなく、(各国中央銀行を含む)ユーロシステム全体の見通しである
- 第3にエネルギー価格の高騰、ウクライナの戦争、経済回復ペースの速さはすべての予測担当者にとって驚きであり、すべての予測担当者が同じ間違いをしている
- 第4にユーロシステムやECBは、過去を振り返り、間違いがどこから生じたのかを見てきている
- 予測誤差の3/4はエネルギー価格により生じており、残りの大部分について、供給制約が予想よりも長期化していることに起因している
●再投資について、これまであなたはフロー(購入額)に対してストック(残高)の重要性を数倍強調してきた。現在、特にPEPPの再投資が少なくとも24年末まで実施されることを再確認している。これは、数年間の金融緩和を意味している。これを金融政策の正常化と言うことは適切なのか
- 再投資については、(今後の)理事会で議論する予定であるが、今日の議論内容ではないと決めた事項である
- 理事会メンバーには、柔軟性に興味を持っているだけではなく、気候変動対策としての資金調達支援にも興味を持つ人もいる
- 以前に言及した緑の(green)LTROは興味深い事項である
- 今後、数か月あるいは数年のうちに決定される再投資については、こうしたもの(気候変動)に触発(inspired)されたものになるかもしれない
●7月の0.50%の利上げを除外しているのはなぜか
- 我々は11年間の金利の動きがない状況から抜け出しつつある
- 我々の本日の決定は7月単月だけではなく、中期的な2%への回帰に向けた全体の旅(journey)である
- 我々はまた、市場がどのように反応するかを観察したい
●本日の発表は、段階的な正常化を取りやめ、好ましくない高インフレに対処するため、何でもやる(whatever-it-takes)方法が好ましいとする合図(signal)なのか
- 重要な原則が声明文に記載されており、「この過程全体で、理事会は、金融政策の実施に関する選択肢、データ依存、漸進主義、柔軟性を維持する」としている
- 4つすべてが重要であり、環境によっては1つが他の重要性を上回ることもある
- 不確実性が高い状況では、漸進主義がおそらくより適切になるだろう
●分断化への対処について、新しい手段は既存のPEPPへの再投資がすべて使われた後にのみ設計・導入されるのか
- 我々は責務の範囲内で、ユーロ圏の分断化リスクを防ぐことにコミットしていることを再度強調したい
- 我々は、設計方法を知っており、必要がある場合の新しい手段を導入方法も知っている
- 過去にも実施してきたし、これからもそうする
●インフレは輸入されており、大部分が消費への税金である。このようなインフレに対して、金利は何ができるのか
- 第1に、我々は、前例のない75%の財・サービスが2%を超えるという状況を見ている
- 一部はエネルギーの価格転嫁要因であるが、それだけではなく非エネルギー財とサービスにも(物価上昇が)見られている
- 第2に、我々は賃金、賃金交渉と波及効果(second-round effect)と潜在的なスパイラル(spiralling)について注意している
- 我々は、スパイラルのリスクは観測していないが、賃金上昇は観測しており、特に3月以上は上昇が顕著である
- 例えば、ドイツで最低賃金が10月から引き上げられること認識している
- 物価上昇は、エネルギー関連分野よりも広範囲に拡大している
●なぜ景気後退のリスクについてそれほど見積もられていないのか
- 経済にはマイナス要因(negative)がプラス要因(positive)より多いかもしれないが、どちらもある
- 経済の全産業が回復しており、観光、宿泊、接客業の回復は速い
●3つの金利を引き上げると話したが、これらの間のスプレッドは維持されるのか、それとも将来は変わり得るのか
- 我々が議論した7月の利上げに関して、我々は、預金ファシリティ金利だけでなく、3つの金利が影響を受けると考えている
- 9月時点では、3つの金利に利上げの原則を適用するかもしれないが、まだ議論していない
- (金利を注視し)スプレッドを維持するのか、よりよい対称性に戻すのかを判断する
●PEPPの柔軟性のきっかけ(trigger)となる条件について、もう少し教えて欲しい。コロナ禍に特化したものでなければいけないのか、ウクライナでの戦争や他の想定していないショックの結果として、柔軟性が使われる可能性があるか
- 重要な点は、金融政策の伝達である
- 無条件にきっかけ(trigger)となる具体的な国債金利、貸出金利、スプレッドの水準はない
- 原則は金融政策の伝達を妨げるような分断化は容認しないということであり、国ごとの状況に鑑みて、顕在化しそうになった場合に、それを防止する
●我々は国債の売りを経験しているが、PEPPの再投資とECBの新たなコミットメントでは分断化を防止するのに十分ではないかもしれない。ECBの新しいあるいは調整された手段はどのようなものになりそうか
- 断片化を容認しないという、同じことを繰り返すことしか言えない
●データ依存の重要性について、四半期の経済見通しの公表に合わせた形での利上げを期待して良いのか
- 見通しを公表するときのみ、決定を行うという束縛を課すつもりはない
●金融の安定性について、資金調達環境の厳格化のために、銀行が信用リスクの増加に直面していると言及したが、戦争の状況下でどの程度、金融の安定性を懸念しているのか
- 声明文に記載されているように、短期的には金融政策の正常化によって追加的なストレスが生じる
- しかし、中期的に見て、脆弱性への対処のためには、金融調達環境の厳格化は好ましい
- 住宅について考えて欲しい
- 我々は短期だけでなく中期も含めて評価している
●(オランダとオランダ中銀への感謝の言葉)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
高山 武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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