マルチプル法で使われる4つの指標とは?
マルチプル法では、対象会社の価値を細かく精査するためにさまざまな経営指標が用いられている。ここからは、マルチプル法でよく使用される4つの指標について解説する。
1.PBR(株価純資産倍率)
PBRは、1株あたりの純資産に対して「株価がどれだけ高いか?」を表す指標である。株価の割安度・割高度を簡単にチェックできるため、投資家の判断材料としてもよく使用されている。
PBR(倍)=株式の時価総額÷簿価純資産額
東証一部上場企業(※)の平均は1.2~1.3倍ほどと言われており、この数値が低いほど株価が割安である(=のれんが大きい)ことを表す。時価総額以外の要素を加味できるため、一時的に株価が変動している場合は積極的に計算しておきたい。
(※)現在の東証プライム市場。
2.PER(株価収益率)
収益力に対する株価の割安度・割高度を表すPERは、一般投資家から特に重視されやすい指標だ。簡単に言えば、純利益に対する株式の時価総額を評価する指標であり、計算時点における業績が強く反映される。
PER(倍)=株式の時価総額÷当期純利益
一般的な上場企業の場合、PERは15倍前後が目安と言われている。ただし、業種や規模によって平均値は大きく異なるため、可能であれば類似企業の数値と比較しておきたい。
なお、対象会社が自身で保有する株式は純資産から控除されるので、PERの計算時には自己株式を除外する必要がある。
3.PSR(株価売上高倍率)
PSRは、売上高に対する企業価値の大きさを判断するための指標である。現時点での売上高が強く反映されるため、PSRは成長率が高いベンチャー企業などの算定に多く用いられている。
PSR(倍)=株式の時価総額÷売上高
PSRは20倍以上で割高、0.5倍以下で割安と判断されるが、実際の目安は業種や規模によって異なるので注意が必要だ。東証一部上場企業の平均は0.6~0.9倍と言われているものの、注目されたベンチャー企業では数十倍になるケースも多い。
なお、売上高をベースにした指標であるため、収益構造が酷似した企業の比較にも適している。
4.EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率は、企業価値を表すEVをEBITDAで割って算出する経営指標である。M&Aにおいては特に重視されており、倍率が低いほど割安な企業であることを表す。
EV/EBITDA倍率(倍)=企業価値÷EBITDA
(※企業価値は「株式の時価総額+純有利子負債」、EBITDAは「営業利益+減価償却費」で計算。)
経営戦略を立てる際には、上記の式で使われている「EBITDA(イービッダー)」も重要な指標となる。純利益に支払利息や税金などを加えたEBITDAは、その会社の収益力を端的に表しているためだ。
したがって、自社分析のために経営指標を活用する場合は、EBITDAとEV/EBITDA倍率の両方を確認しておきたい。
○EBITDAとEV/EBITDA倍率の目安
・EBITDA:中央値は約20億円。業種によって目安が異なるため、類似企業との比較が重要。
・EV/EBITDA倍率:8~10倍程度が平均値。8倍以下の企業は割安であると判断される。