マルチプル法の計算例

ここからは次のモデルケースを用いて、マルチプル法による企業価値の計算例を見ていこう。

○マルチプル法のモデルケース

マルチプル法とは?

分かりやすく説明をするため、以下では対象会社をA社、類似会社をB社として解説を行う。

PBRから算定する計算例

PBRを使用する場合は、「対象会社の純資産×類似会社のPBR(マルチプル)」の式で企業価値を算定する。したがって、まずは類似会社のPBRを計算する必要がある。

類似会社のPBR=B社の株式時価総額÷B社の純資産
            =120億円÷100億円
            =1.2倍

対象会社の企業価値=A社の純資産×B社のPBR
         =7,000万円×1.2倍
         =8,400万円

PBRを使う方法は分かりやすいが、類似会社の選び方や経営状態によっては実態と乖離することもあるため、企業価値はほかの方法でも算定しておきたい。

PERから算定する計算例

PERから算定する場合は、「対象会社の当期純利益×類似会社のPER(マルチプル)」の式を用いる。PERはPBRと混同しやすいため、計算の流れをひとつずつ確認していこう。

類似会社のPER=B社の株式時価総額÷B社の当期純利益
       =120億円÷5億円
      =24倍

対象会社の企業価値=A社の当期純利益×B社のPER
         =800万円×24倍
         =1億9,200万円

PBRによる計算結果と比べると、最終的な企業価値に大きな差があることが分かる。これは、計算方法によってベースとなる指標(PBRでは純資産、PERでは当期純利益)が異なるためだ。

どちらが適しているのかについては、対象会社の状況によって変わってくる。例えば、現時点での財務状況を重視する場合はPBR、収益性を重視するケースではPERによる算定が適しているだろう。

売上高倍率から算定する計算例

売上高倍率から算定する場合は、マルチプルとして類似会社の売上高倍率を計算する。あとは「対象会社の売上高×類似会社の売上高倍率(マルチプル)」の式に当てはめれば、対象会社の企業価値を算定できる。

類似会社の売上高倍率=B社の株式時価総数÷B社の売上高
          =120億円÷80億円
          =1.5倍

対象会社の企業価値=A社の売上高×B社の売上高倍率
         =5,000万円×1.5倍
         =7,500万円

上記の2つ(PBR・PER)に比べて企業価値は小さくなったが、この方法では対象会社の売上高が多いほど企業価値も高くなる。本業による収益が強く反映されるため、事業の収益力を重視したいケースに適した算定方法と言えるだろう。

EV/EBITDA倍率から算定する計算例

EV/EBITDA倍率から算定する場合は、「対象会社のEBITDA×類似会社のEV/EBITDA倍率(マルチプル)」の式で企業価値を計算する。したがって、まずは下準備として以下の2つを算出する必要がある。

対象会社のEBITDA=A社の営業利益+A社の減価償却費
        =3,000万円+600万円
        =3,600万円

類似会社のEV/EBITDA倍率=(B社の株式時価総額+純有利子負債)÷(B社の営業利益+減価償却費)
            =(150億円+45億円)÷(50億円+3億円)
           =約3.68倍

ここまで進めば、あとは対象会社のEBITDAにマルチプルを乗じるだけだ。

対象会社の企業価値=A社のEBITDA×B社のEV/EBITDA倍率
         =3,600万円×3.68倍
         =約1億3,248万円

なお、上記のEBITDAにはさまざまな計算方法があり、代表的なものとしては「経常利益+支払利息+減価償却費」や「当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費」などがある。重視すべき項目に合わせて計算方法を変えれば、より実態に近い企業価値を算出できるはずだ。