この記事は2022年7月8日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「景気ウォッチャー調査(22年6月)~景況感は改善を続けるも、先行きへの悲観的な見方が広がる」を一部編集し、転載したものです。

景気ウォッチャー調査
(画像=StockerThings/stock.adobe.com)

目次

  1. 現状判断DIは4か月ぶりに悪化、先行き判断DIも5か月ぶりに悪化
  2. 景気の現状判断DI:企業動向関連は50を割り込む
  3. 景気の先行き判断DI:先行きへの警戒感が強まる

現状判断DIは4か月ぶりに悪化、先行き判断DIも5か月ぶりに悪化

7月8日に内閣府が公表した2022年6月の景気ウォッチャー調査(調査期間:6月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DIは52.9と前月から1.1ポイント下落した(4か月ぶりの悪化、3か月連続の50超え)。また、2~3か月先の景気の先行き判断DIは47.6と前月から4.9ポイント下落した(5か月ぶりの悪化、4か月ぶりの50割れ)。

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現状判断DIは前月から悪化したが、引き続き50を超えており、全体としてみれば、減速しつつも、景況感の改善は続いている。他方、先行き判断DIは50を割り込み、景気悪化への懸念が強まっていることが示された。また、景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DIは47.7となり、前月から低下したものの、依然として第6波前の昨年12月(47.4)を超えている。

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今月の結果は、資源価格高騰による値上げへの懸念が大きくなっていることを示すものであった。また、先行きについては、調査期間中に、新型コロナウイルスの感染再拡大への兆しがみられたこともマイナスに寄与した。感染者数の増加傾向がみられており、増加傾向が継続するかどうかが今後の試金石となるだろう。

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景気の現状判断DI:企業動向関連は50を割り込む

現状判断DIは、3月でまん延防止等重点措置が解除された後に上昇に転換し、今月(6月)は前月から低下したものの、3か月連続で50を超えた。

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現状判断DIの内訳について、家計動向関連は53.4(前月差▲0.4ポイント、4か月ぶりの悪化、50超えは3か月連続)、企業動向関連は48.0(同▲2.4ポイント、4か月ぶりの悪化、2か月ぶりの50割れ)、雇用関連は59.6(同▲3.3ポイント、5か月ぶりの悪化)と、全てで悪化した。家計動向関連や雇用関連は50を超えており、改善が続いているものの、原材料価格の高騰にも関わらず、不十分な価格転嫁や、供給制約による納期遅れなどの理由から、企業動向関連の景況感は悪化に転じた。

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<企業動向関連の景況感悪化に関する回答者の主なコメント>

・通信・IT業界において、コロナ禍の影響による景況感悪化は軽微であったが、半導体のひっ迫に伴って納期遅れが生じており、業績への影響が拡大している。景況感はやや悪くなっている(北海道・非製造業)

・物価が上がっているにもかかわらず、価格を据え置いて対応しても、前年売上のクリアが難しい。経費の増加分を吸収できていない(北関東・食料品製造業)

・取引先に対して値上げの交渉を行っているが、理解を得ることができ、まずは順調に進んでいる。極端な円安やウクライナ危機、気候要因による不作といった要因により、足元で物価は軒並み上がっている。長らく賃金が上がっていないところに、久しぶりの物価上昇となったことで、景気は良くない(近畿・窯業・土石製品製造業)

家計動向関連の内訳では、観光関連産業の好調さを背景に、サービス関連(前月差+1.0ポイントの61.1、5か月連続の改善、2か月連続の60超え)は上昇した。飲食関連(前月差▲0.2ポイントの62.0、4か月ぶりの悪化、2か月連続の60超え)と小売関連(前月差▲0.7ポイントの49.5、2か月ぶりの悪化)はほぼ横ばいとなったが、飲食関連は引き続き好調を維持している。他方、住宅関連(前月差▲4.0ポイントの44.2、5か月ぶりの悪化)は、建設資材や不動産価格の高騰などから大きく悪化した。

<サービスの好調さに言及した回答者の主なコメント>

・今月はプロスポーツの試合やイベント、コンサートが開催されており、そこに集まる県内外からの客が大勢いる。また、観光地にも多くの流入が認められる(東北・タクシー運転手)

・県民割を利用する宿泊客が増加している。また、コロナ禍で自粛していた年配者の昼間の宴会の件数が増加してきている(中国・観光型ホテル)

<住宅の景況感悪化に言及した回答者の主なコメント>

・新型コロナウイルス感染症から続いて、ロシアのウクライナ侵攻の影響で材料費が高騰しているために、設計費が上がってしまい、なかなか前に進まないというのが現状である。1つの仕事が2年間くらい掛かるので、非常に厳しい(南関東・設計事務所)

・不動産価格の高騰は続いており、検討客の動きは鈍くなっている。また、住宅の建設現場での労働力不足や資材の調達不足により、施工遅れの問題も顕在化している(近畿・その他住宅)

回答者のコメントの全体像からは、景況感が改善したと判断した回答者のコメントには、旅行、解除、イベントといった単語が多く含まれる傾向にあった。一方、景況感が悪化していると判断した回答者のコメントには、値上げ、価格、物価、高騰、不足、ウクライナなどの単語が多く含まれる傾向がみられた(*1)。

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*1:KH Coderによる対応分析を実施。


景気の先行き判断DI:先行きへの警戒感が強まる

2~3か月先の景気の先行き判断DIは5か月ぶりに悪化し、4か月ぶりで50を割り込んだ。

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先行き判断DIの内訳について、家計動向関連は48.0(前月差▲4.2ポイント)、企業動向関連は42.8(同▲7.8ポイント)、雇用関連は55.2(同▲3.7ポイント)と、全ての内訳で前月より低下に転じた。家計動向関連や企業動向関連は先行きの景況感が悪化するとの予想が広がっている。

また、家計動向関連の内訳も全て低下した。飲食関連(前月差▲5.7ポイントの50.5)とサービス関連(同▲3.2ポイントの54.6)は依然として50を超えているものの、小売関連(前月差▲4.8ポイントの45.1)は4か月ぶりに50を割り込んだ。住宅関連(前月差▲2.6ポイントの40.8)は低迷したままだ。

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回答者のコメントからは、先行きへの懸念を示すコメントには原材料、円安、高騰、物価、価格、値上げ、ウクライナといった単語が含まれる傾向がみられた。他方、先行きの改善を予想するコメントの中には全国、旅行、支援といった単語が含まれており、全国旅行支援への強い期待が伺われた。

<回答者の主なコメント>

・物価高が非常に厳しく、必要最低限の日用品しか売れなくなりそうである。必要性の低い商品は、全く売れない状況が続きそうである(東海・商店街)

・2~3か月先の8~9月は、新型コロナウイルスの感染状況が収まり、全国旅行支援が始まれば、これまで2年半以上新型コロナウイルス感染症の影響で外出していなかった反動で、客が出掛けるという希望もある。需要喚起策もあって外出需要は底固く、良くなると考える。もっとも、新型コロナウイルスの感染状況がこのままか、それほど増えないことを前提にしているため、予測し切れない余地もある。(東海・観光型ホテル)

・まん延防止等重点措置が解除され、人が街に戻ってきているが、新型コロナウイルスの新規感染者数が増えてきたことが気掛かりである。また、円安の影響で消費者物価もかなり上がっている。(近畿・不動産業)

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山下 大輔(やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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