本記事は、藤野英人氏の著書『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

グローバルネットワーク
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

今、起きている変化を〝生活者〟として捉える

投資で勝つためには、いかに他の人よりも素早く情報を得るかが重要だと考える人は少なくありません。

「投資のプロ」「先の先を読む」などと聞いたとき、「他人を出し抜くために早耳情報をつかむ方法」のようなものをイメージする方もいるのではないかと思います。

しかし投資の世界では、必ずしも情報のスピードが重要なわけではありません。これが、投資が面白く素晴らしいところです。

例えば、スティーブ・ジョブズが「今日、Appleが電話を新たに発明します」と言って、初代iPhoneを発表したのは2007年1月のことでした。

このときに「iPhoneはきっと世界を変える」と信じてApple株を買っていたとすると、2022年1月時点でおよそ53倍になった計算です。

為替レートを考慮せずにざっくり言えば、「100万円投資していたら5,300万円になった」わけです。

ちなみに、2011年8月にジョブズがCEO辞任を発表したとき、Appleの株価は急落しました。

しかしそのときに「後任のティム・クックの頑張りに賭けよう」と思って同社の株を買っていた場合、2022年1月時点でおよそ13.5倍になった計算です。つまり「100万円投資していたら1,350万円になった」のです。

初代iPhoneの発表やティム・クックのCEO就任は、誰もが知ることのできた事実です。

そこからもたらされた世の中の変化は、決して「早耳情報」ではありません。

もしも皆さんが、「iPhoneという商品を多くの人が肌身はなさず身につけて使うようになる」ことや、「iPhoneが多くの人に支持され続ける」ということを、1人の生活者として確信し、Appleに投資していれば、何十倍にも資産を増やせたわけです。

「プロの投資家は、きっと特別な情報を得て株式投資をしているのだろう」と邪推する人もいますが、情報開示の透明性が強く求められる昨今、「一部の人だけが知るおいしい情報」などというものはありません。

実際のところ、投資の成功に直結するような「早耳情報」は存在しないのです。

それでは「先の先を読む思考力」を身につけるにはどうすればいいのかと言えば、Appleの例からもわかるように、「今、起きている変化」を知ることです。

そして、そこから「5年後、10年後の世界がどうなっているのか」を自分の頭で考える習慣を身につけることこそ、重要なのだと思います。

もし「足元の小さな変化」から5年後、10年後の世界をクリアに思い描くことができれば、先回りしてじっくり投資をすることもできるでしょう。

コロナ禍のずっと前からテレワークの普及を読んでいた

私自身が「足元の小さな変化」から先の先を読んだケースとしては、2020年2月にZoom Video Communicationsを大きく組み入れたことが挙げられるかもしれません。

それは、国内で新型コロナウイルスの感染者が見つかり、新幹線で移動していたというニュースが流れた頃のことです。

当時はその後のコロナ禍の状況はほとんど予測されておらず、とくにアメリカでは新型コロナウイルスをアジア特有の感染症だろうと軽視していた様子がありました。

しかし、ウイルスが人種を選ぶことなどありえません。私は、新型コロナウイルスによるパンデミックが起きる可能性を考え始めました。

パンデミックが起きれば、株式市場が暴落するおそれがありました。このため、最初に行ったのは現金をつくることでした。

当時は7,000億~8,000億円のお金を運用していましたが、このうち30~40%を現金化することに決め、2月中旬の10日間ほどで2,000億~3,000億円を売却しました。

もちろん、下げ相場で逃げるだけではパフォーマンスをあげられません。

そこで、パンデミックを前提とした場合の「攻めの銘柄」はなにかを運用チームでディスカッションしました。

「もしパンデミックが起きれば、人が家に閉じ籠もることになるだろう」
「しかし、仕事をしなければ社会は回らない。ではどうやって仕事をするのか?」
「おそらく、テレビ電話会議だろう」
「では、テレビ電話会議のツールとして使われるのはなにか?」

そこからみんなでさまざまなオンラインコミュニケーションツールを試用し、その中でもっとも使いやすかったのがZoomのツールだったのです。

その後、2020年2月末に105ドルだった同社の株価は、2020年10月に559ドルをつけるまでに値上がりしました。

パンデミックにより世の中の変化が急速に進むことになったため、Zoomの事例が「先の先」を読んだケースだというのはちょっとわかりにくいところがあるかもしれません。

しかしじつは、私はコロナ禍のずっと前から「テレワークの普及が進む」「仕事をする場所の制約はなくなる」と考えて、ウェブ連載などで発信し続けていました。

5Gの普及によって働き方や暮らし方が変わるという大きなトレンドは十分に予測できており、コロナ禍はその変化を早めただけだったのです。

おじさんには見えていない変化が若い人たちには見えている

私は1966年生まれで、50代も半ばを過ぎた「おじさん」です。放っておけば頭の中はどんどん古臭くなっていってしまうでしょう。

今は令和4年ですが、同世代の「おじさん」や私より上の「おじいさん」たちの中には、「昭和97年」の世界を生きている人も少なくありません。

その世界に引き戻されることなく、令和時代にとどまるために私が意識的に数を増やしているのが、20代前半の若い経営者たちとの面談です。

感性や価値観が古いままでは、今起きている変化に気づけず、先を見通すこともできないでしょう。

この点、若い人たちには、おじさんやおじいさんには見えていない変化が見えているはずだからです。

例えば、私が個人で投資もしているタイミーという会社があります。

「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするアプリ「Timee」を展開する会社で、「テレビCMなどで見たことがある」という人も多いでしょう。

Timeeが紹介するのは、応募も面接も履歴書も必要なく働ける「スキマバイト」です。

「いますぐ人手が必要」という場面で、かつては身内で手伝ってくれる人をかき集めたり、「フロアスタッフ急募!」などの張り紙をしたりするしか方法がなかったわけですが、Timeeはそのようなときに「今すぐ働きたい人が働ける」「今すぐ働いてほしいときに働いてもらえる」仕組みをつくったのです。

ワーカー(働き手)として、Timeeを利用する人は200万人を超えるまでに成長しています。

このタイミーを創業した小川嶺さんは、現役の大学生。起業したのは2017年、彼が20歳のときです。

最初に小川さんに会って話を聞いたとき、正直に言えば、私は彼に嫉妬しました

どうして自分がこのビジネスを思いつかなかったのだろうと悔しく思っただけでなく、ビジネスを数字で分析できること、ビジネスモデルやマーケティングに関してもいっぱしの社会人よりずっとよく勉強していること、謙遜と自信のバランスが絶妙なこと、希望に満ち溢れていて人から愛される力があることなど、「すごい」としか言いようがなかったからです。

小川さんは私にとっては令和時代を象徴する人で、将棋の世界で言えば藤井聡太さん、野球の世界で言えば大谷翔平さんのような「新時代人」の経営者版だと思っています。

タイミーは、2021年には伊藤忠、KDDI、香港を拠点とするヘッジファンドなどから53億円もの資金を調達するなど、多くの投資家がそのポテンシャルの高さを評価しています。

私は、小川さんがこれからその資金を使って大きな挑戦をし、タイミーの業績を伸ばしていく未来を確信しています。

そして小川さんをはじめ、できるだけ多く「令和型」の若い経営者と会い続けることは、私が「今、起きている変化」を知るための土台になっているのです。

=プロ投資家の先の先を読む思考法
藤野英人
投資家・ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長。1966年富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。主な著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。

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