本記事は、藤野英人氏の著書『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=polkadot/stock.adobe.com)

好き嫌いを大事にする

投資先を決めるのは「損得」ではなく「好き嫌い」

私が投資先を決める際に重視しているのは、「その会社が好きかどうか」です。

おそらく株式投資をしている人であれば、「そんなゆるい基準で投資判断をするのはいかがなものか」と思うでしょう。

実際、多くの人は「好きか嫌いか」で判断するよりも「損か得か」を重視し、「好きではないけれど、損はしないだろう」という理由を優先して、判断を下しがちなものではないかと思います。

しかし「儲かりそうか、損をしそうか」を見極めるのは、さまざまな状況に左右されることもあってなかなか難しいものです。

一方、「好きか嫌いか」という判断基準はあくまでも主観であり、そこにはその人が持つ価値観や哲学が反映されます。状況に左右されることなく一貫性があるため、判断がブレにくいのです

さらに言えば、儲かって利益を伸ばす企業というのは、多くのお客さまから「好き」を集めている会社なのです。

人がものを売るときは、本音が出るとは限りません。「仕事なのでいやいや商品を売っている」という人は少なくないでしょう。

しかし人がものを買うときは、その行動に必ず本音があらわれます。コンビニで買うお菓子やお弁当にだって、自分がほしい、食べたい、好きだといったむき出しの本音や自分の意思がストレートに出ているものなのです。

ですから、たくさんのお客さまに商品を買ってもらって「好き」を集めている会社、自分も「好き」と言える会社を選ぶのは、投資判断を下すうえで非常に重要なポイントと言えます。

レオス・キャピタルワークスでも、投資先を決めるときは企業調査をするアナリストに「その会社の商品が好き?」「その会社の社長が好き?」「その会社、好き?」と必ず聞いています。

例えば、レオスの運用部には新規上場のよい会社を発掘する「名人」がいます。

その彼が「絶対に買ってください」と言ったのが、アウトドア用品メーカーのスノーピークでした。

私が「儲かるの?」と聞くと、「それはわかりません」と言います。

しかし彼は、山を愛する人間として「スノーピークは日本の宝」だと言い、「儲かるか損するかに関係なく投資をしてください。万が一儲からなかったら、レオスを辞めてスノーピークに入社します」とまで熱弁したのです。

私は、彼がここまで気持ちを込めて「日本の宝」と呼ぶ会社が長期的に儲からないわけがないと思いました。

そしてスノーピークへの投資を決め、リターンを上げることができたのです。

好きなことをやっている集団の方が勝ちやすい

私は日本企業と外資系企業の両方で働いた経験があるのですが、かつてはその文化には大きな違いがありました。

外資系企業は「個人主義」で、社員がプライベートを優先するのは当たり前。配偶者の誕生日や子どもの行事などが仕事より重要という位置づけでしたし、「今日はデートがあるので残業はしません」と言えば、誰もが「デートだったら仕方ないね」と考えていました。

一方で、もし上司が多くの仕事を抱えて残業していたら、外資系企業ではみんなが自然に「手伝いましょう」と言うのではないかと思います。

これは、「みんなでどの方向を向いてどのように行動すればチームとして勝てるのか」ということ、チーム戦略の中で一人ひとりがなにをすべきかということが明確に示されているからです。

「個人主義」でありながら集団行動が得意で、チームとして結果を出していくのが外資系企業のやり方なのです。

日本企業は、「集団主義」です。

会社の繁忙期に「妻の誕生日だから帰りたい」などと言ったら、それはエゴだという考え方が主流だったと思います。

上司が残業していたら、「自分だけ先に帰るわけにはいかない」と考えて仕事をしているふりをしながら残業したりしますが、上司に手伝いを申し出ることはありません。

「集団主義」でありながら個人行動が多く、チームワークがよいとは言えなかったように思います。

日本の組織のあり方を象徴するのは、第二次世界大戦時の「神風特攻隊」です。

「君の命はそれほど大切ではない。大事なのは日本という集団であり、それを助けるためには犠牲になってほしい」というのですから、いかに集団主義が重視され、「組織のために個人がいる」というのが標準的な考え方だったかがわかります。

自分自身の経験もふまえて感じるのは、日本においては働くことが集団主義の組織に属することとほぼ同義になっているということです。

所属する組織の中で上司と部下の関係は絶対であり、仕事とは「上から下」に命令が降ってきたものをタスクとしてこなすことだと思っている人が多いのではないかと思います。

そして、そこに「好き嫌い」が入る余地はありません。

そもそも日本では、一般に「好き嫌い」は大切にされていません。それどころか、「好き嫌い」を言うのはわがままだと捉え、「嫌いだけれど我慢してやる」ことを称える人も少なくありません。

仕事も、嫌なことを我慢してやるのが当たり前で、お給料はその我慢料のようなものだと考える人さえいます。

しかし本来、人間は好きなことをする方がよいパフォーマンスを上げることができ、嫌いなことをするのはストレスを感じるものです。

例えば野球をいやいややっている人たちのチームと、野球が好きで好きでたまらない人たちのチームがあったとします。

どちらが強くなれるかといえば、野球が好きで心の底から熱心に取り組む人たちの方が強くなりやすいのは明らかでしょう。

好きなことをやっている集団の方が、勝ちやすいのです。

私は、日本では「好き嫌い」を大切にしないことが生産性の低さにつながっていると考えています。

世界で「自分の勤務先に対する信頼度」を調査したデータによれば、日本で勤務先を信頼していると回答した人は6割しかいません。

これは調査が行われた28カ国中、下から2番目という低さです(図3)

プロ投資家の先の先を読む思考法
(画像=プロ投資家の先の先を読む思考法)

勤務先を信じることができないのは、自分が好きではない会社で働いているからでしょう。嫌いな会社の悪口を言いながら、我慢していやいや働き続けていては、生産性が上がるはずもありません。

アメリカや中国など他の国で企業への信頼度が高いのは、そもそも信頼をおけないような会社や自分が好きになれない会社だったら辞めるという人が多いからでしょう。

好きな会社を選んで働いている人が多ければ、パフォーマンスが上がりやすく、生産性も高くなるのは当然です。

私たち日本人は、あらゆる意味で、もう少し「好き」を大切にした方がよいのではないかと思います。

=プロ投資家の先の先を読む思考法
藤野英人
投資家・ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長。1966年富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。主な著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。

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