この記事は2022年8月16日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「2022・2023年度経済見通し(22年8月)」を一部編集し、転載したものです。
目次
要旨
<実質成長率:2022年度1.7%、2023年度1.6%を予想>
2022年4-6月期の実質GDPは、まん延防止等重点措置の終了を受けて、民間消費が前期比1.1%の高い伸びとなったことなどから、前期比年率2.2%のプラス成長となった。
実質GDP成長率は2022年度が1.7%、2023年度が1.6%と予想する。海外経済の低迷が続くため、輸出による押し上げは当面期待できないが、緊急事態宣言などの行動制限がなければ、高水準の家計貯蓄や企業収益を背景とした民間消費、設備投資の増加を主因として、2022年7-9月期以降もプラス成長が続くことが予想される。
ただし、金融引き締めに伴う米国経済の急減速、ゼロコロナ政策継続による中国経済の下振れ、ウクライナ情勢の深刻化、冬場の電力不足による経済活動の制限、新型コロナウイルス感染拡大時の政策対応の不確実性、など下振れリスクは大きい。
消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は、2022年度が同2.4%、2023年度が同1.0%と予想する。食料品の上昇ペースが加速すること、円安に伴う輸入物価の上昇を受けて、幅広い品目で価格転嫁の動きが広がることから、2022年秋頃には2%台後半まで伸びが高まる。しかし、原材料価格上昇の影響が一巡する2023年度後半にはゼロ%台後半まで伸びが鈍化するだろう。
2022年4-6月期は前期比年率2.2%のプラス成長
2022年4-6月期の実質GDPは、前期比0.5%(前期比年率2.2%)と3四半期連続のプラス成長となった。
まん延防止等重点措置の終了を受けて、外食、宿泊などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比1.1%の高い伸びとなったことが、プラス成長の主因である。高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比1.4%と2四半期ぶりに増加したことも成長率を押し上げた。1-3月期に成長率を大きく押し下げた外需は、輸出がロックダウン影響で中国向けが落ち込んだことから、前期比0.9%の低い伸びにとどまる一方、ワクチン購入の減少などから、輸入も同0.7%の低い伸びとなったため、前期比・寄与度0.0%(年率0.2%)と成長率に対してほぼニュートラルとなった。
2022年4-6月期の実質GDPは2019年10-12月を0.2%上回り、ようやくコロナ前の水準を回復した。需要項目別には、民間消費がコロナ前を1.3%上回ったほか、医療提供体制整備費用やワクチン接種等を反映し、政府消費がコロナ前を大きく上回った。一方、住宅投資(▲13.3%)、設備投資(▲2.6%)、公的固定資本形成(▲6.4%)は依然としてコロナ前の水準を下回っている。また、輸出はコロナ前を2.3%上回っているが、海外経済の回復や円安を背景に財の輸出が増加傾向を続ける一方、インバウンド需要が大きく落ち込んだ状態が続いていることから、サービスの輸出はコロナ前の水準を大きく下回っている(▲20.2%)。
なお、日本は消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期に前期比年率▲11.3%の大幅マイナス成長となっており、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に経済活動の水準が大きく落ち込んでいた。直近のピークである2019年4-6月期と比較すると、2022年4-6月期の実質GDPは▲2.7%、民間消費は▲1.8%低い。経済の正常化までにはかなりの距離があるといえるだろう。
海外経済の減速が鮮明に
世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年に急減速した後、2021年はその反動もあって高成長を記録したが、ここにきて減速傾向が鮮明となっている。
コロナ禍からの回復ペースが速かった米国の実質GDPは、2022年1-3月期に続き、4-6月期も前期比でマイナスとなり、一般的にテクニカル・リセッションとされる2四半期連続のマイナス成長となった。正式な景気循環は、全米経済研究所(NBER)が判断することになっているが、その際に重要視する雇用、個人消費などの経済指標は概ね堅調を維持しており、テクニカル・リセッションが必ずしも景気後退を意味するわけではない。
当研究所は、現時点では米国の景気後退が回避されることをメインシナリオとしているが、金融引き締めの影響で当面は潜在成長率を下回る成長が続くことが予想される。また、FRBは景気後退を招くとしても、インフレ抑制のために金融引き締めを継続する姿勢を示していることから、ソフトランディングのハードルは上がっている。
1970年以降の日米の景気循環を振り返ると、円高不況の1980年代半ば、消費税率引き上げ時の1997年のように、日本だけが景気後退に陥った例はある。その一方で、米国が景気後退局面入りした時には必ず日本も景気後退に陥っている。米国が景気後退を回避できるかどうかが、日本経済の先行きを大きく左右することになりそうだ。
また、ユーロ圏経済は、インフレ抑制のための金融引き締めに加え、ロシアのガス供給削減による経済活動への悪影響が大きいことから、2022年終盤から2023年初め頃にかけて景気後退に陥ることが予想される。さらに、ロックダウンの影響で2022年4-6月期に前年比でほぼゼロ成長となった中国経済は、先行きについても「ゼロコロナ政策」による下振れリスクの高い状況が続く公算が大きい。
日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は、新型コロナウイルスの影響で2020年に▲2%程度のマイナスとなった後、2021年はその反動で6%程度の高い伸びとなったが、2022年は3%程度へと大きく減速することが見込まれる。中国の実質GDP成長率が2021年の8.1%から3%台へ急低下することに加え、米国が2021年の5.7%から1.6%へ、ユーロ圏が2021年の5.3%から2.7%に減速することが予想されるためである。
2023年は、中国の実質GDPが6%台の成長へ回復するものの、米国、ユーロ圏がそれぞれ1.2%、0.5%へとさらなる減速が予想されるため、日本から見た海外経済の成長率は3%台半ばにとどまり、引き続き1980以降の平均成長率の4%程度を下回るだろう。
輸出は2020年度に前年比▲10.0%と大きく落ち込んだ反動もあり、2021年度は同12.5%の高い伸びとなった。2022年度は円安による押し上げはあるものの、海外経済減速の影響が大きく、前年比1.5%と伸びが大きく鈍化し、2023年度も同1.8%と低めの伸びが続くことが予想される。
世帯属性にみた物価高の負担と過剰貯蓄
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2022年4月以降、前年比で2%台前半となっているが、家計が実際に直面している「持家の帰属家賃を除く総合」は約3%とそれよりも高い。コアCPIに含まれない生鮮食品が高い伸びとなっていること、コアCPIに含まれるが、実際に支払うことのない持家の帰属家賃の伸びがゼロ%程度と低いことが、両者の差につながっている。
現時点では、2022年度のコアCPIは前年比2.4%、持家の帰属家賃を除く総合は同3.0%と予想している。
物価高による負担は世帯属性によって異なる。2022年度の物価予想をもとに、物価高による一世帯当たりの負担額を試算すると、勤労者世帯が10.0万円、無職世帯が8.7万円となる(二人以上世帯、以下同じ)。勤労者世帯を所得階層別にみると、負担額は年間収入の低い層よりも高い層のほうが大きくなるが、これは高所得者ほど消費額が大きいためだ。実質的な負担を比較するため、物価高の負担額を可処分所得比でみると、勤労者世帯よりも無職世帯、勤労者世帯では年間収入の低い層のほうが負担は重くなる。物価上昇率が相対的に高い「食料」、「光熱・水道」のウェイトが無職世帯、年間収入の低い世帯ほど高いことがこの背景にある。
2022年度は物価高による負担増が個人消費の重石となるが、その一方でコロナ禍の度重なる行動制限によって家計には過剰な貯蓄が積み上がっている。2019年と比べた2020、2021年の貯蓄増加額のうち、貯蓄率の上昇によって生じた部分を過剰貯蓄とみなした場合、勤労者世帯の過剰貯蓄は2020年が39.3万円、2021年が30.1万円、合計69.4万円となる。
ただし、物価高の負担と同様に、世帯属性によって過剰貯蓄には差が生じている可能性がある。そこで、世帯属性別の過剰貯蓄を試算すると、無職世帯は64.1万円と勤労者世帯より若干少ない。勤労者世帯では年間収入の高い層の過剰貯蓄が多く、第IV階級では100万円を上回っている。物価高負担に対する過剰貯蓄の比率は勤労者世帯・第II階級の5.2倍から第IV階級の10.5倍まで差があるが、いずれの世帯でも2022年度に想定される物価高の負担を過剰貯蓄が上回っている。
このことは、貯蓄率の引き下げや積み上がった貯蓄の取り崩しによって、物価高の悪影響を緩和することが可能であることを示している。
実際、まん延防止等重点措置終了後の個人消費は、消費者物価上昇率が2%台へと大きく高まる中でも、コロナ禍で急速に落ち込んだ外食、旅行などの対面型サービスを中心に明確に回復している。2022年4-6月期の実質家計消費支出は前年比で3.1%、前期比で1.2%の高い伸びとなった。家計消費デフレーターの上昇(前年比2.3%、前期比1.1%)が消費の下押し要因(物価要因)となったものの、行動制限の解除に伴う貯蓄率の低下(*1)が消費を大きく押し上げた。
*1:2022年4-6月期の貯蓄率は家計消費支出、雇用者報酬の実績値を基にニッセイ基礎研究所が試算
実質成長率は2022年度1.7%、2023年度1.6%を予想
まん延防止等重点措置の終了を受けて、対面型サービス消費は急回復
まん延防止等重点措置が3/21に終了したことを受けて、サービス消費との連動性が高い小売・娯楽施設の人出は持ち直し、5月のGWにはコロナ前を明確に上回る水準まで回復した。
総務省統計局の「家計調査」によれば、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、まん延防止等重点措置の適用を受けて、2022年1月が前月比▲15.5%、2月が同▲9.5%と大きく落ち込んだが、3月から6月までの4ヵ月で60.0%の急増となった。コロナ禍前(2019年平均)の水準を100とした指数は、6月には85.5とコロナ禍では最も高い水準にまで回復した。
7月以降、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、人出の回復は足踏み状態となっている。政府は、これまで感染拡大のたびに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を発令してきたが、今回は特別な行動制限を課していない。このため、従来の感染拡大時のような人出の落ち込みは生じておらず、3年ぶりに開催される夏祭りや各種イベントが増えるなど、感染拡大下でも平常時に近づく動きがみられる。先行きの個人消費は、その勢いは鈍化するものの、回復基調は維持される公算が大きい。
物価の上昇ペース加速が実質所得を押し下げ
一人当たり名目賃金は、2020年度に新型コロナの影響で大きく落ち込んだ後、2021年度入り後は増加傾向が続いているが、消費者物価上昇率が大きく高まったため、2022年4月以降は実質賃金の伸びがマイナスとなっている。
2022年の春闘賃上げ率は前年(1.86%)に比べ0.34ポイント改善し、2.20%(厚生労働省の民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況)となった。賃上げ率は4年ぶりに前年を上回ったが、1.7~1.8%程度とされる定期昇給を除いたベースアップはゼロ%台にとどまる。2022年度の消費者物価は2%台の伸びが続くことが見込まれるため、実質賃金の伸びはマイナス圏の推移が続く可能性が高い。
2023年の春闘賃上げ率は、前年から0.20ポイント改善の2.40%となることを想定している。2022年度の企業収益は、原材料価格の上昇や海外経済の減速に伴う輸出の低迷を受けて、2021年度から伸びが大きく鈍化するが、前年度の物価上昇が一定程度反映されることが賃上げにはプラスに働くだろう。
ただし、近年は賃金交渉の際に物価動向がほとんど考慮されなくなっていることには注意が必要だ。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」によれば、賃金改定に当たり「物価の動向」を重視した企業の割合(複数回答)は1980年には60%を上回っていた。その後の物価安定に応じてその割合は急速に低下したが、1990年代後半までは10%以上の水準を維持していた。しかし、1999年に10%を割り込んでからは20年以上にわたって一桁の低水準が続き、2021年は0.8%と過去最低となった。足もとの物価上昇が、企業の価格設定行動に変化をもたらしている可能性はあるが、原材料価格上昇による物価上昇は企業にとっては収益の圧迫要因でもあるため、物価高による賃金の押し上げ効果は限定的にとどまる公算が大きい。
名目雇用者報酬は2020年度に前年比▲1.5%と8年ぶりの減少となった後、2021年度は同1.8%と増加に転じた。2022年度は企業の人手不足感の高さを背景に雇用者数の増加が続く中で、春闘賃上げ率が前年を上回ることを反映し、所定内給与の伸びが高まること、企業収益との連動性が高い特別給与(ボーナス)も増加することから、名目雇用者報酬は前年比2.3%と前年度から伸びが高まるだろう。
しかし、同時に物価の上昇ペースが加速することから、実質雇用者報酬は2021年度の前年比2.1%から2022年度には同▲0.2%と3年ぶりの減少となることが予想される。2023年度は名目雇用者報酬が前年比2.5%と伸びを高める中、物価上昇ペースが鈍化することから実質雇用者報酬は同1.8%と増加に転じるだろう。
実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度末
2022年4-6月期は、対面型サービスを中心に民間消費が高い伸びとなったことなどから、前期比年率2.2%のプラス成長となった。
海外経済の低迷が続く可能性が高いため、輸出による押し上げは当面期待できないが、緊急事態宣言などの行動制限がなければ、高水準の家計貯蓄や企業収益を背景とした民間消費、設備投資の増加を主因として、2022年7-9月期以降もプラス成長が続くことが予想される。ただし、金融引き締めに伴う米国経済の急減速、ゼロコロナ政策継続による中国経済の下振れ、ウクライナ情勢の深刻化、冬場の電力不足による経済活動の制限、新型コロナウイルス感染拡大時の政策対応の不確実性、など下振れリスクは大きい。
新型コロナウイルス感染症を完全に終息させることは困難であり、新規陽性者数は今後も増減を繰り返すことが見込まれる。感染拡大時にも経済社会活動を制限することがないように、新型コロナウイルスの感染症法上の見直しや医療提供体制の整備が求められる。
実質GDP成長率は、2022年度が1.7%、2023年度が1.6%と予想する。
2022年4-6月期の実質GDPはコロナ前(2019年10-12月期)の水準を0.2%上回ったが、前述した通り、日本はコロナ前の段階で消費税率引き上げの影響から経済活動の水準が大きく落ち込んでいたため、コロナ前の水準に戻っただけでは、経済の正常化とは言えない。
実質GDPが直近のピークである2019年4-6月期の水準を回復するのは、2024年1-3月期になると予想する。
需要項目別には、これまでに比べれば感染動向に左右されにくくなったものの、引き続き感染症への警戒感が一定程度残ることが対面型サービス消費を抑制するため、消費の本格回復までには時間を要するだろう。2021年度の民間消費は前年比2.6%の増加となったが、2020年度の落ち込み(同▲5.4%)の半分も取り戻すことができなかった。民間消費は2022年度に前年2.9%の高い伸びとなった後、2023年度は同1.3%と増加を続けるものの、消費税率引き上げや新型コロナウイルス感染症による大幅な落ち込みを取り戻すまでには至らない。民間消費が直近のピークである2019年7-9月期を上回るのは2024年度にずれ込むだろう。
設備投資は、企業収益が高い伸びを続ける中でも、供給制約の影響もあって伸び悩みが続いてきた。日銀短観の2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)は、2021年6月、9月調査時点では前年度比で二桁の高い伸びとなっていたが、年度下期にかけて大きく下方修正され、実績は同0.4%の低い伸びにとどまった。
一方、2022年6月調査では、2022年度計画が3月調査から6.5%上方修正され、前年度比15.5%の高い伸びとなった。供給制約や先行き不透明感が緩和されれば、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応やテレワーク関連投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に増加傾向が続く可能性が高い。
GDP統計の設備投資は、2021年度の前年比0.6%の後、2022年度が同2.9%、2023年度が同4.2%と伸びを高めることが予想される。
経常収支の見通し
経常収支は、2020年10-12月期の22.6兆円(季節調整済・年率換算値)をピークに黒字幅の縮小が続き、2022年4-6月期には5.4兆円となった。貿易収支が2021年7-9月期に赤字に転じた後、原油価格の高騰に伴う輸入の高い伸びによって赤字幅が急拡大していることが、経常収支の黒字幅縮小の主因となっている。一方、多額の対外純資産を背景に第一次所得収支が年率20兆円台と高水準の黒字が続いていることが、経常収支を大きく押し上げている。
先行きの経常収支は、海外経済減速を背景とした輸出の低迷、原油高や円安に伴う輸入の増加によって貿易収支の赤字幅が拡大することから、黒字幅がさらに縮小し、一時的に赤字となる可能性もあるだろう。サービス収支はインバウンド需要の持ち直しから赤字幅が徐々に縮小するものの、入国制限の緩和は当面限定的にとどまる可能性が高いため、大幅な改善は見込めない。
一方、為替は予測期間末にかけて円高傾向となることを想定しているが、2021年度までと比較すれば円安水準が維持されることから、第一次所得収支は高水準の推移が続くだろう。
2022年度後半以降は、原油高の一服によって輸入の伸びが鈍化することから、貿易収支の赤字幅は小幅ながら縮小に向かうことが予想される。しかし、海外経済の減速が続き、輸出の伸びが大きく高まることは期待できないため、2023年度末まで貿易収支の黒字化は実現せず、貿易収支の赤字を第一次所得収支の黒字が補う構図が続くだろう。
経常収支は2021年度の12.6兆円(名目GDP比2.3%)から2022年度に3.9兆円(同0.7%)と大きく縮小した後、2023年度も4.3兆円(同0.8%)と低水準の推移が続くと予想する。
物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2022年4月以降、前年比で2%台前半となっている。これまでコアCPIを大きく押し上げてきたのは、原油高に伴うエネルギー価格の大幅上昇だったが、ここにきて上昇ペース加速の主因は食料品(除く生鮮食品)へと移っている。
食料品は2021年7月に前年比0.1%と上昇に転じた後、2022年6月には同3.2%まで上昇率が高まったが、川上段階の物価は、輸入物価が前年比で30%程度、食料品の国内企業物価が前年比で5%台の高い伸びとなっている。川上段階の物価上昇を消費者向けの販売価格に転嫁する動きがさらに広がることにより、食料品(生鮮食品を除く)の物価上昇率は、夏場以降は4%台の高い伸びとなる可能性が高い。
一方、原油価格(ドバイ)は、世界経済の減速懸念の高まりなどから、1バレル=90ドル台まで低下したが、燃料油価格激変緩和措置(石油元売り会社への補助金)によってガソリン、灯油価格等が抑制されているため、市況の下落がエネルギー価格の低下に直結しない構造となっている。エネルギー価格は2022年3月の前年比20.8%をピークに伸びは鈍化しているが、2022年内は前年比で10%台の高い伸びが続くだろう。
コアCPIは、食料品の上昇ペースが一段と加速すること、円安に伴う輸入物価の上昇を受けて、日用品や衣料品など幅広い品目で価格転嫁の動きが広がることから、上昇率の拡大傾向が続き、携帯電話通信料の値下げの影響一巡、火災・地震保険料の引き上げが見込まれる秋頃には2%台半後半まで高まることが予想される。
ただし、物価上昇のほとんどは、原材料価格の大幅上昇を販売価格に転嫁することによって生じたものであり、消費者物価指数の約5割を占め、賃金との連動性が高いサービス価格は低迷が続いている。春闘賃上げ率は2022、2023年と改善が続くものの、ベースアップでみればゼロ%台の低い伸びにとどまることが見込まれる。サービス価格の上昇を通じて物価の基調が大きく高まることは期待できない。原材料価格高騰による上昇圧力が一巡することが見込まれる2023年度後半には、コアCPI上昇率はゼロ%台後半まで鈍化する可能性が高い。
コアCPI上昇率は、2022年度が前年比2.4%、2023年度が同1.0%と予想する。
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長
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・2022年4-6月期の実質GDP~前期比0.8%(年率3.2%)を予測~
・世帯属性別にみた物価高の負担と過剰貯蓄
・消費者物価(全国22年6月) ―― コアCPI上昇率は、夏場以降に2%台後半へ
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