この記事は2022年9月3日に「CAR and DRIVER」で公開された「ホンダNSXラストモデル、タイプSに試乗! NSXが世界のスーパースポーツに与えた衝撃を考えた」を一部編集し、転載したものです。

ホンダNSXタイプS  価格:2,794万円(販売終了) 試乗記

生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
タイプS(写真右)は第2世代の最後を飾るスペシャルモデル 生産台数は世界限定350台(日本販売30台) パワーユニットを610psにパワーアップしただけでなくすべてを「NSXらしい走り」のために調律 開発陣が「完成形」と呼ぶ逸材

生産を終了するNSX。そのメカニズムは世界に多くの追随者を産んでいる

生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
タイプSのフロント部はシャープな造形 エンジン冷却性能と空力特性を高める機能重視デザイン 専用仕様の電子制御アクティブダンパーを装着

第2世代(NC)のNSXが、その短い歴史に幕を下ろそうとしている。1990年に登場し、都合16年にわたって作り続けられた1stモデル(NA)は、モデルライフ中も、そして生産を終えてからはいっそう高く評価された。1st・NSXは、世界中のスーパースポーツの商品性を高め、品質を画期的に向上させた偉大な存在だった。

1stモデルが与えた衝撃が大きかったゆえ、2ndモデルにはNSXの名前が重圧だったのだろうか。

10年間の紆余曲折があって、2016年に登場したNSXは、2+1モーターの先進的なハイブリッドシステムを組み合わせた縦置きV6パワートレーンを搭載。ミッドシップの4WDスーパーカーとして誕生した。アメリカホンダ主導で企画/開発/生産が行われ、第1世代と同様に多くのスーパーカー・ブランドに影響を与えた。

日本での販売価格は2,000万円を超えたが、10年間に及ぶ断絶と日本経済の低迷こそが、日本人に「高い!」と感じさせた要因だった。その内容を仔細に観察すれば、決して高い買い物でなかった。

NSXは、残念ながら2022年末をもって生産を終える。時代に先駆けて登場したにもかかわらず、わずか6年でモデルライフを終えるとは! なんともったいない話であることか。

ホンダという国際ブランドの中長期にわたる経営戦略が、NSXの生産終了というスーパーカー・ファンにとっては最悪のシナリオを描かせた。もちろんホンダはこれでスポーツカーを諦めたとは公言していない。むしろ未来に向け、新たなカタチ(電動化!?)で提案し続けることを宣言している。

けれどもスポーツカービジネスは継続こそが力になる。歴史の途絶えた状態からの再興は非常に難しい。ホンダはそれをよく知るメーカーである。それにもかかわらず、生産中止を最終決断したのだ。筆者にとって、にわかには信じがたいことでもあった。

何しろ世界はいま、NSXに追いつこうとしている。スーパーカー・ブランドがこぞってV6エンジンを新開発し、ターボチャージャーと電気モーターを付加する技術でマルチシリンダー時代よりも高性能を手に入れている。

フロントアクスルに2基のモーターを組み込み、エンジンとミッションに組み込まれたもう1基のモーターとともに集中制御する先進性は、2nd・NSXのデビューから遅れること数年、イタリアの雄がよく似たシステム構成のミッドシップスーパーカー(フェラーリSF90)をようやく商品化したことからもうかがえる。まもなく消えるNSXの先進性を評価して、これをしすぎるということはない。

生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
NSXは独創のSH-AWDシステムを採用 タイプSは絶妙なチューニングで車体をより軽く感じるパフォーマンス実現 操縦性はまさに意のまま
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
3,492cc・V6DOHC24Vツインターボ(529ps/600Nm)+3モーター システム出力610ps/667Nm
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
タイヤは専用設計のピレリZゼロ アルミは軽量鍛造タイプ
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
タイプSは開口部を拡大 バンパーサイドの造形はリアインタークーラーへの流速アップを図る
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
リアエンドはディフューザー形状 高速走行時に有効なダウンフォースを生む

タイプSはNSXの頂点。圧倒的なドライビングファン

ホンダはこの歴史的スーパーカーに惜別の花道を用意した。高性能グレードのタイプSである。世界限定350台。日本販売はわずかに30台だ。

NSXには、おそらくは積極的なマイナーチェンジプロジェクトが存在したのだろう。開発のメイン部隊が日本に戻されて以降、NSXは着実にスーパーカー・ファン好みのパフォーマンスを手に入れていた。結果的にラストモデルとなるタイプSではそれが一気に花ひらいた。

タイプSに対し、開発陣から「第2世代の完成形」という説明があった。そういわざるを得なくなったことが、なんともやるせない。想像するにタイプSはNSXとしての正常進化を模索した結果であり、それがそのままより高みを目指すための橋頭堡(きょうとうほ)になるはずだった。完成形などではなく通過点だったはずだ。

タイプSは、パワー、空力、軽量化。すべてにおいて性能アップが図られている。エアロダイナミクスに関しては追加モデルとは思えないスタイリングの変更で一目瞭然だろう。

パワートレーンはエンジン単体のみならずバッテリーパフォーマンスやトランスミッション性能も引き上げられた。エンジンサウンドの調律も徹底的に行っている。併せて制動パワーや冷却性能も向上した。ピレリPゼロ専用タイヤの採用もニュースのひとつだ。

もうすでに完売御礼のマシンだが、ホンダは公道走行可能な個体(000/350、すなわち限定枠外の非売品)を用意してくれた。幸運にも標準仕様と同じ舞台(一般道)で比べながらテストドライブを行った。両車の違いは明確だ。

そもそも最新の標準車でも初期に比べてハンドリング性能に意のまま感が増し、ミッドシップカーらしい操る楽しみが生まれていた。タイプSではそれに輪をかけて操る喜びが実感できる。一体感が明らかに増しており、電気モーターとV6エンジンの統合感もはっきりと上。電気の使い方が明らかに進化している。

結果、車体をより小さく感じ、数字以上の軽さを味わいつつ、切れ味鋭い変速を楽しみながら、ワインディングロードを駆け抜けた。

これぞ正にNSX。最後のタイプSになってようやく2ndモデルは1stモデルに連なる究極のドライビングファンを手に入れた。

生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
NSXのハイブリッド・パワートレーンはフェラーリをはじめ多くの追従車を輩出 その走りはまさにFUN!
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
室内デザインは標準モデルと共通 ワイドな視界は1stモデルから継承したNSXの美点
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
シートはプレス加工アルミ材をフレームに採用した軽量仕様 素材はセミアニリンレザーとアルカンターラのコンビ
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
シートのヘッドレストにNSXの刺繍入り
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
グローブボックスのタイプSロゴが限定車の証
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
シリアルプレート付き 試乗車は000/350の非売品
生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
第2世代NSXは当初アメリカホンダ主導で開発 数年前から日本メインの体制に変更された

ホンダNSXタイプS主要諸元

生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?

グレード=タイプS
価格=9DCT 2,794万円(販売終了)
全長×全幅×全高=4,535×1,940×1,215mm
ホイールベース=2,630mm
トレッド=フロント:1,665×リア:1,635mm
乾燥車重=1,790kg
エンジン=3,492cc・V6DOHC24Vツインターボ(プレミアム仕様)
最高出力=389kW(529ps)/6,500~6,850rpm
最大トルク=600ps(61.2kgm)/2,300~6,000rpm
モーター最高出力=フロント:27Kw(37ps)×2/リア:35Kw(48ps)
モーター最大トルク=フロント:73Nm(7.4kgm)×2/リア:148Nm(15.1kgm)
システム最高出力=449kW(610ps)
システム最大トルク=667Nm(68.0kgm)
WLTCモード燃費=未公表(燃料タンク容量59リッター)
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:ウィッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ=フロント:245/35ZR19/リア:305/30ZR20+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=2名
最小回転半径=5.9m

生産終了でもホンダNSXが世界から注目される理由とは?
Writer:西川淳、Photo:HONDA

(提供:CAR and DRIVER