法人のお金を合法的に個人に還流させる2つの方法

しかし、いくら法人に現金が積みあがっても、100%株主のオーナー経営者とはいえ、それを自由に使うことは許されない。税務上は、法人と個人(オーナー経営者)は異なる人格であるためだ。現実世界においては、法人のお金を個人のものと見做し、プライベートの支出に充ててしまうオーナー経営者は多いが、本質的には許されている行為ではない。

それでは、法人のお金を合法的に個人に還流させる方法はないのだろうか。一般的には、以下の2つが検討される。なお、実際は第3の選択肢として「資産管理会社の設立」が検討されることも多いが、個人に直接還流させる方法ではないため、今回は説明を割愛する。

1. 役員報酬
2. 配当

1. 役員報酬

役員報酬とは、取締役や監査役といった役員に対して支給される報酬のことだ。100%株主のオーナー経営者であれば、基本的に自分の気持ち1つで金額を決定できるため、「自分がどれくらいの収入が欲しいか」から逆算して報酬を決めることができる。

しかし、当然ながら、役員報酬を受け取るためには税金や社会保険料の負担が発生する。所得税は累進課税であり、給与所得は他の所得と合算(総合課税)されて税率が決定されるため、高額の役員報酬を受け取ると税金負担が増してしまう。

所得4,000万円以上の所得税率は45%であり(累進課税における最高税率)、そこに住民税10%が足される。つまり実質的に55%の負担だ。Cさんは年間6,000万円の役員報酬を受け取っており、すでにかなりの税金負担を負っているため、これ以上役員報酬を増やすことはあまり合理的ではないだろう。

2. 配当

それでは、配当として法人のお金を吸い上げる選択肢はどうか。上場株式等からの資産収入に慣れている人は「配当なら20%の分離課税なのだから、この選択肢が効率的だろう」と思ったかもしれない。

しかし、確かに上場株式等の配当は原則として20%分離課税だが、未上場企業の配当は分離課税ではなく、総合課税扱いとなってしまう。当然、所得税の扱いとなり、累進課税が適用される。つまり、Cさんが配当で法人のお金を吸い上げようとしても、すでに大きな税金負担を負っている役員報酬に上乗せされて税金(税率)が決まるだけであり、こちらもあまり合理的な選択肢とは言えないのだ。

法人から個人へ貸付し、債券投資でインカムゲインを確保する

このように、法人のお金を「合法的」かつ「低い移転コスト」にて個人に還流させる方法は、そうそう見つかるものではない。と言うよりも、前述のように、税務上は法人と個人(オーナー経営者)は異なる人格であるため、低い移転コストで個人に還流させることは許されていないと見るべきだろう。

それでは、Cさんはどのような選択肢を取れば良いだろうか。筆者はCさんと相談したうえで、以下のような結論を出した。

・法人が持つ10億円の現金を順次Cさんに貸し付けていく(貸付金利は1%を想定)
・大量の現金を得たCさんは、それを債券運用に回すことで、安定的なインカムゲインを得る(運用利回りは5〜6%を想定)
・そのインカムゲインを元手に、Cさんは法人へ利息を支払う
・利息を支払った後のインカムゲインは個人資産として蓄える
・上記を長期的に繰り返すことで、法人のお金の有効活用と個人資産の増加を狙う

法人のお金を個人に貸し付ける行為は違法ではない。株式会社は営利目的で成り立っているため、無償(金利0%)で貸し付けてはいけないが、適切な利息を得られるなら、オーナー経営者に貸し付けることは問題ない。「適切な利息がいくらか」は議論が分かれるところだが、今回は1%を想定する。

そして、Cさんは借り入れた資金にて、プライベートバンクなどで債券運用を行う。債券で運用しないといけないわけではないが、債券運用は相対的にインカムゲインと運用パフォーマンスを確保しやすく、今回のCさんのニーズに適しているだろう。なお、昨今は米国10年債利回りが急上昇しており、米ドル債券に投資することで、5〜6%の利回りを得るのはそこまで難しいことではない。

仮に10億円を6%利回りで債券運用できれば、利息返済後のイールドスプレッドは5%を確保できる。税引き前で5,000万円が手元に残るわけだ。現在の役員報酬6,000万円を据え置けば、Cさんの個人年収は1億円を超える。すぐに10億円全てを貸し付けるかどうかはさておき、上記を長期的に繰り返すことで、法人のお金の有効活用と個人資産の増加を狙えるだろう。

なお、Cさんはしっかりと法人へ利息を払い続けるが、法人の100%オーナーであるため、早期の元本返済を求められるわけではない。極端な話、利息さえ払い続けていれば、元本返済は20年後でも30年後でもよいわけだ。米ドル債券のなかには、償還まで20年以上ある“足の長い”銘柄もある。相場観次第だが、金利水準が高い今のうちに、長期のインカムゲインを固定しておく選択肢もあるだろう。

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