特集「不動産業界トップランナーに聞く。アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。

中国など海外の投資家向けを中心とした不動産事業を展開する株式会社谷町君。不動産開発、売買、管理、そして日本への移住サポートにいたるまで幅広い事業を手掛け、YouTubeやSNSを活用した集客力とIT技術を強みに、世界中の海外投資家から支持を受けている。CEOの谷町洋氏に、同社のあゆみ、コロナ禍で激変した不動産業界の今、そしてアフターコロナの成長戦略について伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

集客力とIT技術を強みに不動産投資をサポート―― 株式会社谷町君
谷町 洋(たにまち・よう)
株式会社谷町君CEO

繁星グループおよび株式会社谷町君のCEO。2012年に日本で起業した在日中国人。10年以上にわたる起業経験を通し不動産事業、システム開発、インバウンド旅行事業、外食事業等を幅広く展開。その他、海外投資家向けに最適な融資プランのコンサルディングを提供している。YouTubeで海外個人投資家、海外富裕層向けに、日本ビジネス、不動産投資、文化の情報も発信している。

株式会社谷町君

2016年3月に繁星グループの新会社として設立。東京・大阪・京都の都市圏を中心とした不動産開発、売買、賃貸、管理等の不動産全般業務を展開している。自社開発の投資家向けアプリケーションは、24時間不動産収支、納税等の管理に対応。管理物件は累計1,000件以上。

目次

  1. 株式会社谷町君について
  2. 競合他社との違い、強みとは
  3. アフターコロナにおける株式会社谷町君の戦略
  4. 日本における不動産市場の課題と解決策
  5. 株式会社谷町君の展望

株式会社谷町君について

― 谷町君様の創業から現在までの状況をお聞かせください。

株式会社谷町君CEO・谷町洋氏(以下、社名・氏名略): 2016年3月の設立以来、中国人投資家(具体的には使用言語が中国語である人)を主な顧客ターゲットとして、日本の不動産物件の売買、管理、そして移住サポートも行っています。新型コロナの影響がある現在も、日本への移住ニーズはかなり多いのです。中国人投資家は中国だけでなくシンガポール、台湾、香港、アメリカなどにもいらっしゃいます。ちなみに中国語を使用言語とする人々は世界で4,000万人ほどいるといわれていますから、非常に大きなマーケットです。

競合他社との違い、強みとは

― 競合他社と差別化できるポイントはどこにあるとお考えですか?

2つありまして、1つは集客力です。2017年ごろより、私自身がYouTubeやWeibo(ウェイボー)を活用して投資に関するアドバイスを発信しています。YouTubeのチャンネル登録者数※は13万人ほどになります。長年にわたりSNSを使った情報発信を続けてきたことで会社の認知度や信頼度が増し、売買につながっていると考えています。特に中国人向けの集客力においては、日本でトップクラスだと自負しています。

参考:谷町氏が運営するYouTubeチャンネル「社長劉洋

もう1つの強みはIT技術です。もともと中国でIT事業会社を創業した経緯があり、システムを自社開発していたのです。谷町君においても培ってきたIT技術を生かし、自社システムによるデータドリブンな投資サービスを実現しています。顧客向けのオリジナルアプリはその一例です。他社の場合、顧客への投資状況の報告は1ヵ月~4ヵ月ごとのメール連絡が一般的ですが、当社の場合は顧客がアプリ上から24時間いつでもチェックできるのです。物件の状態や収益、収入支出の明細といった詳しい状況を確認できるため、顧客からも喜ばれています。このアプリがきっかけで紹介につながった例も多いです。

アフターコロナにおける株式会社谷町君の戦略

― コロナ禍にはどのような影響がありましたか?

まったく予想できない事態でしたね。収益物件は自宅用の物件や賃貸物件よりも影響が大きく、当社の販売額も低下しました。特に民泊用物件やホテル、旅館などはニーズが縮小し、物件価格は今も値下がりしています。また移動制限により、海外投資家は現地を見に来日することが困難になりました。

こうした影響に対して私たちが始めた取り組みが「ライブコマース(動画のライブ配信によって商品紹介と物販を行う対面型の販売手法)」です。物件の内部をライブ配信でご紹介しながら、資料を用いてプレゼンを行います。ライブコマースは中国でかなり普及していることもあり、物件のような高額な商材でも効果が出ました。まるまる1棟のマンションが2時間のライブ配信で成約した例もあります。

今後の市場について、私たちは楽観的にとらえています。コロナ禍はいずれ終息するはずですし、日本の観光業もいずれは回復するでしょう。ですから値を下げている今のタイミングを狙って、民泊用物件やホテル、旅館の取得を進めています。今はコロナ禍前の70%ほどの価格で取得できるのです。いずれニーズが回復する、という私たちのご提案に納得いただける顧客も増え、現在は事業に関してコロナによる大きな影響はありません。顧客の多くは、融資ではなく現金で投資しています。ですから1、2年利益が出ないとしてもリスクが少ないため、長期的な視点でとらえていただけるのです。

日本における不動産市場の課題と解決策

― 日本における不動産市場の課題についてどうお考えでしょうか?

私たちは不動産管理事業で賃貸マンションを1,000件以上管理しています。賃貸マンションの収益物件というと、日本の投資家がメインで投資するものでしょう。賃貸マンションの問題点は老朽化です。現状では20年~30年ものの物件が多く、老朽化すれば修繕コストが必要になりますし、賃料の低下にもつながり、収益は下がる一方です。さらに日本に住む人々の収入はさほど上がっていませんから、賃料を上げるというのは簡単ではありません。

▽株式会社谷町君が取り扱う物件

株式会社谷町君
(写真=株式会社谷町君)

― 老朽化に対して、御社ではどのような解決策を考えていますか?

自社のIT技術を生かしたIoT(Internet of Things)システムの導入を予定しています。マンション共有部の電力コントロールや、室内の照明や家電のコントロールによって省エネを実現します。IoTを使った快適な住環境を提供すれば、物件価値を高めることができます。

高級ホテルではすでにIoT化されている物件もありますが、導入コストが高額であるため、なかなか普及しません。日本の有名メーカーなどのシステムを導入するとしたら100万~200万円ほどかかるのではないでしょうか。私たちの場合は自社開発できるため、導入コストが10万円程度にまで抑えられ、価格的にも高い競争力を誇ります。

株式会社谷町君の展望

― 今後の未来構想をお聞かせください。

2016年に設立した新しい会社ですが、2021年には61億6300万円もの不動産売買成約実績を出しました。2025年ぐらいまでの上場を目標に、さらなる展開を進めていきます。基本的に顧客の軸は海外の中国人投資家ですが、コロナ禍を経験してからは日本人向けの集客もスタートしました。また現在は関西の物件を中心としていますが、今後は関東圏にも積極的に拡大していく予定です。

▽株式会社谷町君が取り扱う物件

株式会社谷町君
(写真=株式会社谷町君)

― 最後に、読者へのメッセージをお願いします

投資家にとって、日本はこれからも魅力的な国であり続けるでしょう。近い将来、観光業も回復するでしょうから、民泊への投資もあきらめないでください。楽観的に未来を見てください。私たちのような海外の人間がそう信じているのですから、ぜひみなさんにも信じていただきたいです。日本の不動産市場の課題として挙げましたが、中古賃貸マンションは老朽化するほど収益が下がる一方です。そのリスクヘッジとしても民泊への投資はお得だと考えます。

不動産投資に重要なのは管理会社の選び方です。管理にしっかり力を入れてくれる会社であり、またIoT化のように物件の質を高める力を持つ管理会社に任せることをおすすめします。これらの考え方が負けない不動産投資のコツ、ですね。