この記事は2022年10月13日(木)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田・松本賢 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『日本経済ピッチ(シナリオ):積極財政と金融緩和のポリシーミックスの継続がデフレ完全脱却の鍵』を一部編集し、転載したものです。
目次
日本のメイン・シナリオ:積極財政と金融緩和のポリシーミックスの継続
1.岸田内閣の分配政策と成長投資の両輪による財政拡大の継続で、ネットの資金需要(財政収支+企業貯蓄率)が回復し、家計に所得が回るマクロの構図となり新しい資本主義が稼働する
2.日銀の粘り強い金融緩和の継続で、2023年度の外需の減速の下でも、強い信用サイクルが堅持され、ネットの資金需要をマネタイズする形で量的金融緩和の効果は強くなり、内需の回復を支える
3.為替環境が円安で、グリーン、デジタル、先端科学技術、経済安全保障が中心の政府の成長投資を呼び水に、内需回復による企業の期待成長率の上振れとともに、企業の設備投資サイクルは強い回復へ
4.人手不足で失業率が低下するとともに総賃金の強い拡大で、企業の投資が新しい商品・サービスを生むこともあり、2024年度に、消費は強い回復に
5.消費の回復による収益環境の改善で企業の設備投資サイクルが上振れ、2025年度に、企業貯蓄率がマイナス化(正常化)し、企業の過剰貯蓄という内需低迷とデフレの原因が払拭され、デフレ構造不況脱却の機運が高まる
6.内需の拡大と投資による生産性の向上が潜在成長率を押し上げ始め、日銀は長期金利の誘導目標を景気・マーケットの拡大と物価上昇率の加速を阻害しない形で引き上げ始める
7.物価上昇率が目標の2%台で安定するようになり、インフレ期待がアンカーされ、2026年度に政府はデフレ完全脱却宣言をし、日銀は短期の政策金利の誘導目標をプラスに戻して緩和政策から脱却する
8.企業貯蓄率の低下とともに景気拡大は加速し、2027年度に、税収の増加で財政収支は赤字を脱する
リスク・シナリオ−政策の拙速な引き締め
1.新たな変異株の感染拡大と地政学上の問題などで経済活動の回復が遅れ、企業の負債の負担の増大と政策支援の先細り、または円安を恐れた日銀の拙速な金融政策の正常化の動きで、信用サイクルが腰折れる
2.財政負担を懸念するあまり、増税などの緊縮財政に転じ、ネットの資金需要をまた消滅させ、リフレ・サイクルが腰折れる
3.グローバルな政策当局がインフレを過度に警戒し、引き締め政策を急ぎ、経済活動をオーバーキルしてしまうことが、新興国を中心とする経済危機を招く
4.グローバルな投資活動の拡大に日本の企業がついていけず、急激に競争力を喪失する
米国のメイン・シナリオ:金融財政引き締めのポリシーミックスー
1.2023年後半から景気後退入り、利下げは2024年前半を予想
- FF金利は2022年末:4.25〜4.50%、2023年末: 4.75〜5.00%を予想
- 雇用需給緩和(需要抑制=雇用悪化)の達成まではタカ派姿勢を維持
- 利下げはインフレ率が2%近辺にまで鈍化するまでは実施せず:2024年を予想
- 財政政策も抑制的になる見込み
- FRB利上げ停止の条件は、賃金上昇率の鈍化(=雇用悪化)、CPI(PCE)の連続的な上昇幅縮小(特に前月比ベース)
2. 失業率の悪化は2%ポイント程度、比較的「浅い」景気後退か
- 2023年後半に雇用悪化(景気悪化)が顕在化すると予想
- リーマンショック、新型コロナ時のような規模の景気悪化ではなく、比較的浅い、マイルドなリセッションを想定
- 銀行の財務健全性は保たれており、深刻な信用不安は発生しない
- 過度な金融引き締めは回避されると想定
- 景気サイクルの反転は2024年か:FRBのハト派転換による資産価格の持ち直しや高インフレの鎮静化が投資/消費マインドの持ち直しに
ユーロ圏のメイン・シナリオ:政府とECBの協調
1.2022年末にかけて景気減速、2023年以降は景気回復、インフレ抑制と財政支援が鍵
- ロシア・ウクライナ紛争によるエネルギー価格と食品価格のインフレが最大の重石。年末までにインフレピークアウト。
- ECBは2023年末に2.5%で利上げ打ち止め。ソフトランディングの実現には補助金などの財政支援が必要。ドイツの財政スタンスは拡大路線に転換。
- 2023年以降は供給制約とエネルギー供給問題の解消で景気回復。
2. リスク要因はエネルギー、インフレ、ユーロ安
- エネルギー供給問題が解決しなければ、冬にエネルギー主導のインフレ到来。省エネ対策で政府主導のエネルギー使用制限発令なら企業活動を下押し。
- 欧米金融政策スタンスの乖離の継続でユーロ安が進展するなら、インフレリスクが高まる。
- ロシア・ウクライナ紛争が長期化なら、エネルギー禁輸や制裁拡大も。マインドが回復するまで、消費と投資は回復せず。
為替−金融政策スタンスの違いは継続、円安の力に
FRBはインフレ抑制を重視しており、景気減速懸念がある中でも利上げを進めていくと見ている。2022年9月会合で公表された、2023年末時点の政策金利見通し(ドットチャート)は中央値4.6%を示している。
FRBがハト派に転じるには明確な物価上昇率の低下が必要であるが、それには大幅な需要減少による景気後退が伴うと予想する。2024年にはFRBは利下げに転じ、ドル高円安環境が転換すると見込む。ECBは2023年初まで追加的に1.5%ポイントの利上げを行うとみる。現在の高インフレは世界的な現象であり、ユーロ圏の物価が落ち着くタイミングも、米国など他国と連動するだろう。よって、ECBのタカ派スタンスが転換するのも2024年になると予想する。
日銀は、現行の金融緩和の枠組みを維持する中、2022年10月に政府が大規模な経済対策を実施し、政府の成長投資の拡大を含む成長戦略とともに、アベノミクスの3本の矢によるデフレ構造不況脱却を目指す形が堅持されると見込む。
こうした動きは、円が対ドル・対ユーロで現在の円安水準を下支えするだろう。リスクシナリオとして、日銀が金融緩和政策を引き締め方向ととられるような修正を行えば、信用サイクルは腰折れ、企業はデレバレッジ・リストラに走り、経済とマーケットは底割れるとともに、悪い円高に転じ、デフレが再燃することが考えられる。
名目GDPと総賃金を縮小から拡大に転じさせたのが、アベノミクスの最大の成果であった。膨張の力である名目GDP成長率が抑制の力である長期金利を持続的に上回るのはバブル期以来であった。長期実質金利はマイナスとなっていた。拡張する力が抑制する力を上回り、デフレによる縮小均衡から、リフレによる拡大均衡に変化したことになる。
新型コロナウイルス問題による名目GDPの急激な縮小で、一時的に再逆転を許していた。しかし、積極財政によるネットの資金需要の復活を、日銀の積極的な金融緩和でマネタイズし、名目GDPの回復が金利の上昇を上回り、マイナスの長期実質金利をともなう新たな拡大均衡の形はデフレ完全脱却まで継続するだろう。
ウイルス問題が小さくなる中で、実質GDP成長率が内需主導の自律的な形となるだろう。グローバルな金融引き締めの動きに対して、デフレ脱却を目標とする日銀の金融緩和の是正は最後となり、円安が急激に進行する局面は終わるが、輸出と国内投資に追い風となる円安の水準は持続的となり、日本のデフレ脱却の力となろう。
企業貯蓄率がマイナス化したことを確認し、2025年度に日銀は長期金利の誘導目標を景気・マーケットの拡大と物価上昇率の加速を阻害しない速度で引き上げ始めるだろう。短期の政策金利目標をプラスに戻し現行の緩和政策から脱却を始めるのは、2%の物価目標を達成し、政府がデフレ完全脱却宣言をできるようになる2026年度となろう。
▽名目GDP成長率と長期金利
▽日本経済見通し
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