本記事は、野崎敏彦の著書『水族館のアシカはいくらで買える?』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。

自治会,ボランティア
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

町内会ってボランティアなの?

あなたも知ろう「まちの補助金支給」

  • まちが支給する補助金は、行政目的を効果的に達成する上で重要な役割を担う
  • 補助金制度はルール化し、住民への説明が必須
  • あいまいな公金運用をなくすために5つの基準でジャッジする

【現状】実はまちからお金をもらっている

読者の皆さんは、自治会(町内会)の会費を払っていますか?

会費の金額は地域によってかなり差があり、年間2,400円から2万4,000円程度といわれています。この金額を高いと感じるか、当然と思うかは別として、一般的に都会よりも地方のほうが高いようです。

この自治会費が何に使われているかというと、自治会のさまざまな活動のための経費に充てられています。その活動は、広報誌の配布、回覧板による情報伝達、ゴミ集積所の管理やイベント開催(お祭り、レクリエーション)、大規模な災害時の人命救出や避難所暮らしのサポートなど、多岐にわたっており、行政の業務の一端を担っているのです。これらの活動は完全なボランティアではなく、ゴミ集積所の整備作業に日当が支払われている場合もあります。

ただし、これらの多岐にわたる活動を支えるための費用は、ほとんどの場合自治会費だけでは足りません。そこで自治体は、自治会に補助金として活動資金を提供しています。

この補助金は、行政業務の補完という意味からもこれまで一定の成果を挙げ、行政目的(住民の福祉の向上など)を効果的かつ効率的に達成する上で重要な役割を担ってきました。

まちから支給される補助金は、財務書類(新しい家計簿)の行政コスト計算書の「移転費用・補助金等」という項目に記載されています。全体の財政規模からみれば小さいのですが、意外に大きな金額であることに驚く読者の方もいると思います。

ところで、この補助金制度は、何の問題もなく、管理・運用されているでしょうか?

自治体からの補助金は公金であり、元は住民が納めた税金です。従って、補助金制度は、ルール化し、住民への説明がなければなりません。しかしながら、そうなっていないのが現状です。

【問題点】給付はどんぶり勘定だった!?

2019年、全国市民オンブズマン連絡会議(名古屋市)が、岐阜県内の全42市町村を含む全国171市町村を対象に補助金についての調査を実施しました。その結果、複数の自治体において、明確なルールを設けずに左記のようにあいまいな公金運用を続けている実態が明らかになったのです。

  • 自治体が条例や要綱(重要な事項)、ガイドラインを定めずに補助金を交付している
  • 事業(業務)を委託しているにもかかわらず、契約書を作成していない場合がある
  • 公金を支出しているが、実施報告書や会計報告書の提出を義務付けていない

これらのことを踏まえ、連絡会議は、公金の使い方が不透明化し、時折マスコミで報道される公金横領などの不正の温床につながりかねないと指摘しています。

どうして公金である補助金があいまいな運用のまま、現在に至ってしまったのか? 現状の補助金制度の背景には、いくつかの問題があります。

《問題点その1》わかりにくさ

補助金の種類や目的が多岐にわたり、個々の補助金に関する根拠法令もあいまいであることから、わかりにくくなっています。

《問題点その2》補助金の硬直化(長期化・固定化)

いったん補助金が創設されると、長期にわたり効果や成果の評価がなく、存続しがちで硬直化します。それにより、「既得権化」「前例踏襲」の傾向にあることも否定できません。

また、自治体が毎年同様の扱いをするため、支払われて当然という感覚となり、補助金の使途について目的にかなっているかどうかの判断がおろそかになりがちです。そのため、目的を達成したにもかかわらず、「慣例」として廃止されない場合も生じています。

《問題点その3》公平性の問題

交付先が限定されるなど、補助金交付団体とそうでない団体とで公平性の問題が生じています。同様の活動を行っていても、交付される団体とそうでない団体があります。

《問題点その4》縦割り行政の弊害

多くの自治体では、補助金業務は交付する所管部署が独自に行っており、全庁的な管理がなされていません。そのため、類似の事業への重複交付の心配があり、住民からの問い合わせにすぐに答えられないといった問題も生じています。

それでは、これらの問題を解決するためには、自治体はいったい何をしなければならないのでしょうか?

【解決策】5つの基準でジャッジされるべき

補助金交付は法的には、地方自治法第232条の2に、「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる」と定められています。

この法律の下で、補助金に関するあいまいな公金運用をなくすためには、個々の補助金を一定の基準で評価する必要があります。

評価基準としては、次のものが考えられます。

《評価基準その1》公益性

法律に定められているように「公益上必要のある場合」に限られており、公益性は絶対条件です。具体的な評価の視点としては、「住民のニーズがあるか(住民がやってほしいと思うことなのか)」と「不特定多数の利益の実現を図るものか」になります。

《評価基準その2》公平性

補助金は、ややもすれば硬直化(長期化・固定化)してしまう懸念があります。事業の対象が特定の個人や団体に片寄らず、「公平性」が担保されている必要があります。

具体的な評価の視点としては、「同様の活動を行っていれば、誰でも補助金が支給される機会があるか」と「特定の個人・団体にだけに恩恵を与えるものではないか」になります。

《評価基準その3》必要性(妥当性)

補助金が自治体の政策の目的を達成するためのものか、さらに社会情勢に合致するものであるかということが問われます。

具体的な評価の視点としては、「自治体の政策的課題につながるものであるか」と「社会情勢を踏まえて事業実施が適切か」になります。

《評価基準その4》適正性(補完性)

これは、自治体が直接行うよりも、補助金による事業のほうが適切かという点です。

また、補助金による事業の内容が、住民(個人、企業・団体)の自主的な行動支援に貢献している必要があります。

具体的な評価の視点としては、「自治体が直接執行するよりも、補助金による個人・団体による事業執行のほうが適切か」と「住民の自主的な行動支援に貢献するものか」になります。

《評価基準その5》透明性

補助金の支給に当たっては、対象となる事業の目的や内容に関して広く公開し、住民に周知することが必要です。

具体的な評価の視点としては、「補助金の概要、要綱などが広報誌やホームページなどに記載されているか」です。

これらの評価基準を点数化するなどして、現在支給されている個々の補助金について、事業の拡充、継続、縮小、統合および廃止を判断します。

明確なルールを設けることで、あいまいな公金運用をなくすことができるはずです。

すでに補助金の見直しを積極的に行っている自治体もあります。

トヨタの城下町で財政的には比較的恵まれている愛知県豊田市でさえも、2018年6月、『補助金・交付金の交付ルール』を新たに公表し、補助金の見直しを図っています。

また、北陸の中核都市である富山県高岡市(人口:約17万人)は、2019年、『補助金ガイドライン』を策定しました。そして同市は、2020年に480事業(予算約39億円)に対する「補助金評価手法の確立」に取り組むことになりました。

補助金は、交付額が少ない事業も数多くあり、これまであまり議論されてきませんでした。ただし、現在ほとんどの自治体は、財政改革においてコスト削減を目指しており、補助金事業の大幅な見直しも必要になってきました。

財政課題の解決には、長い年月を必要とするものが多いですが、補助金の見直しは比較的短期間で行うことができます。見直しの取り組みをぜひとも進めていただきたいと思います。

=水族館のアシカはいくらで買える?
野崎敏彦
地方財政コンサルタント
一般社団法人日本行政マネジメントセンター 代表理事
中小企業診断士
1955年名古屋市生まれ。北海道大学理学部数学科卒業後、通信機器大手の沖電気工業に入社。その後、印刷会社、ベンチャーキャピタル、コンサルティングファームなど、異業種6社の企業勤務を経て、2012年、57歳で新地方公会計制度の普及を目指し起業。2015年、公認会計士、税理士、ITのプロ、合意形成コンサルタントなどの専門家を構成員とする一般社団法人日本行政マネジメントセンターを設立、代表理事に就任。自治体やその外郭団体(一部事務組合、広域連合等)など、約50団体と業務契約を結んでいる。新地方公会計制度を応用した公共施設マネジメント、行政評価を多数手がけているが、自治体の総合計画策定に寄与することを通じて、地域活性化に貢献できる事業分野への拡大を目指している。

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