本記事は、野崎敏彦の著書『水族館のアシカはいくらで買える?』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。

道路工事
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

毎年3月に道路工事が増えるのはなぜ?

あなたも知ろう「道路工事はなぜ一度にまとめてできないのか?」

  • 水道管、下水道管、ガス管や電気ケーブルの工事を一度に行おうとしたら、工程が長期化し、その期間道路が使えなくなり、周辺住民の生活に支障を来す
  • 工事が非常に難しくなってしまい、現実的ではない
  • 水道管の入れ替え工事は3工程(仮設管の埋設/新しい本管の埋設/本復旧)

【現状&問題点】道路工事が3月に集中する3つの理由

公共工事の筆頭といえば、道路工事。皆さんはなぜ、年度末の忙しい時期に道路工事が集中するのかをご存じでしょうか。ここでは、その理由を3つ挙げます。なお、専門用語がいくつか出てきますが、KEY WORDとして詳しく説明しましょう。

《理由その1》単一年度内に完成させないといけないから

まちの道路工事は、法律(地方公務員法)で1年の予算を作成して、4月から翌年3月の期間で行うことが定められています。道路工事は、まちの職員が自ら行うことはほとんどなく、業者(土木建設会社など)に発注して行われます。4月以降に業者に発注し、年度末の3月までに完了するようになっているのです(ただし、まちが将来にわたる債務を負担する「債務負担行為」を実施すれば、年をまたぐことができます)。

《理由その2》道路工事費用の多くは国からの補助金で賄うから

道路工事費用の多くは、国からの補助金で賄われます。しかし、国からの補助金が決定するプロセスは長く、時間がかかるため、どうしても工事が年度末にずれ込んでしまうのです。

国の予算が成立するのは3月末です。自治体はそれまでに、「道路工事のために必要な補助金は○○○円です」と国に要請します。4月になり、自治体の要望に対する国の内示が出ます。それから自治体は正式な補助金申請を国に対して行うのです。

自治体の申請内容を国が審査し、問題がなければ、決定通知を送付します。これを受けて自治体は、道路工事を行うための設計書(仕様書)を作成し、その後入札を行って工事業者を選定します。

【KEY WORD】入札

入札とは、自治体などの公的機関が業者に対して業務を発注する調達制度のことです。

自治体における発注は、資金が税金によって賄われるものであるため、「より良いもの、より安いもの」を入札で調達しなければなりません。

談合などの不正防止のため、入札制度が非常に複雑化し、業者選定に時間がかかり、実際に発注するのは、秋ごろとなります。そこから工事の準備(測量・現地調査など)を始め、翌年の3月までに急ピッチで工事が行われます。

《理由その3》工事の手順が複雑だから

道路の下には、水道管や下水道管、ガス管、電気ケーブルなどが埋設されていますし、都会にはさらに地下鉄や地下街もあります。一定区間において、各ジャンルの業者それぞれが工事を行う場合、まず、1つの業者が工事を終えたのち、次の業者が工事に着手できるように道路の仮舗装を行います。これらを繰り返し、最後の仕上げとして、道路の本舗装工事が行われます。そのため、同じところを何度も掘ったり、埋めたりしているように見えるのです。

何度も掘ったり、埋めたりするよりも一度にまとめて工事を行うほうが合理的ではないかと思われるかもしれませんが、それでは工事が非常に難しくなってしまい、現実的ではありません。

なかでも、掘り返す回数が多いのは水道管の入れ換え工事です。第二次世界大戦後、鉛製の給水管が長らく使われてきましたが、これが健康に良くないということと、管の老朽化対策で多くのまちが入れ換えを行っています。

一般的に水道管の入れ換え工事は、掘って埋めるを3回繰り返す工程になっています。

  • 1回目:仮設管の埋設(本管の交換工事を行う間に給水が止まるのを防ぐために、仮設管を埋めます)
  • 2回目:新しい本管の埋設(古い本管を抜いて新しい本管を入れて、各家庭に接続します)
  • 3回目:本復旧(仮設管を抜き、道路の路面をきれいにします)

一度にすべての工事を行うと作業が長期化し、その期間は道路が使えなくなり周辺住民の生活に支障を来すため、地域へ配慮してこのような工程となっているのです。

別の観点でみると、実はアスファルトの温度と工事の時期にも要因があります。敷き直したときのアスファルトは110度という高温です。道路を開通するためには50度以下に下げる必要があり、アスファルトが早く冷える寒冷期に工事を行うことが多くなります。

【解決策1】工事の分散とスピードアップを図る取り組み 「さ・し・す・せ・そ」

国も道路工事が年末に集中していることを考慮し、それを防ぐための「『さ・し・す・せ・そ』の推進」という取り組みを推奨しています。

(さ) 債務負担行為の活用→複数の年度にまたがって工事を行う

1つの年度内で工事の少ない閑散期(4月〜6月)においても工事を行えるため、工事が込み合う時期をずらして効率よく進めることができます。

工事期間(工期)が1年未満でも、年度をまたいで工事を行えます。

(し) 柔軟な工期の設定→業者が自由にスケジュールを立てられる

業者が工事開始日や工期末を自由に選択できるため、人材や資材・機材の調達・調整 ―― を行いやすくなり、工事がスムーズに進みます。

(す) 速やかな繰越制度の適用→予算を早めに次年度へ繰り越せる

道路工事は、1つの年度内に完結するのが原則ですが、この原則が適用できない場合があります。悪天候や道路用地の確保ができないなどにより、年度内に工事が終わらないことがあります。この場合、速やかに繰越手続を開始することにより、業者は、年度内の完成を早く見直すことができ、余裕をもって人材や資材・機材の調達・調整を行うことができます。

【KEY WORD】繰越制度

予算の繰越制度とは、一定の条件のもと、一会計年度内に使い切らなかった予算を次年度に繰り越して使用するのを認めることです。

(せ) 積算の前倒し→工事にかかる費用を早めに見積もる

前年度のうちに道路工事の設計・見積り(積算)を完了させることにより、年度当初に速やかに発注手続きを行うことができます。

【KEY WORD】積算

積算とは、設計図(仕様書)をもとに、使用する材料や数量を計算し、工事費(見積り)を算出することです。積算を行うためには、「設計図(仕様書)の読み方」「使用する資材・機材の価額」「工事の工程や工法」などの、工事に関する多くの専門知識が必要となります。

(そ) 早期執行のための目標設定→工事の少ない時期に早く取りかかれるように目標を立てる

工事の終了時期(工期末)が3月に集中しないように、上半期(特に4〜6月)に工事着工の目標を設定し、早い時期の発注を目指します。自治体が発注のおおよその時期を公表することにより、業者は人材や資材・機材を計画的に準備できます。

【解決策2】予算使い切りの問題を考え直そう!

道路工事は、入札によって業者が決まります。入札では、最低落札価格に最も近い見積りを提示した業者が選ばれます。まちが本来想定していた落札金額よりも安く工事ができれば、予算は余ります。そこで年度内に余った予算を使い切るため、住民からの要望の多い小さな工事(ガードレールの架け替えなど)を行っているまちもあります。そうなると、優先度が低かった道路工事が年度末に集中して行われることになります。

また、近年増加している自然災害に対応するために、道路の補修・改修予算は、全体的に残すようにしている自治体もあります。年度末の3月が近づくと、確保していた予算を一気に使い、溜まっている補修・改修工事に充てるため、道路工事が集中してしまうということになるのです。

読者の皆さんも何となく知っていると思いますが、使い切りという慣習がまだまだ残っています。予算使い切りというのは、「予算を使い切らないと、来年度の予算が削られてしまう」という職員の恐怖感からくるものでした。しかしながら、まちのお金が不足している現在、税金を最大限有効に使うために、このようなことは見直されなければなりません。

宮崎県では、2007年からの東国原英夫知事の時代にこの対策として、「年度初めに予定した工事が完了後、予算が余った場合、来年度にその額を上乗せして決定予算額としよう」ということにしました。

具体的には、100万円の予算で工事予定だったものを80万円で施工した場合、余った20万円を次年度に付けるというものです。

2019年度 予算額 100万円→実施後 80万円(余った額 20万円)
2020年度 予算要求額 200万円+20万円=決定予算額 220万円

この対策は、これまでの慣習を打ち破った画期的なものだったのです。

現代の車社会では、安全で快適な道路づくりは、住民の生活に欠かせないものです。地方のまちでは、平均するとすべての移動手段の60〜70%程度が車となっているそうです。

交通のインフラについて考える場合、鉄道や空路、航路だけでなく、まずは身近な道路に目を向けたいものです。

=水族館のアシカはいくらで買える?
野崎敏彦
地方財政コンサルタント
一般社団法人日本行政マネジメントセンター 代表理事
中小企業診断士
1955年名古屋市生まれ。北海道大学理学部数学科卒業後、通信機器大手の沖電気工業に入社。その後、印刷会社、ベンチャーキャピタル、コンサルティングファームなど、異業種6社の企業勤務を経て、2012年、57歳で新地方公会計制度の普及を目指し起業。2015年、公認会計士、税理士、ITのプロ、合意形成コンサルタントなどの専門家を構成員とする一般社団法人日本行政マネジメントセンターを設立、代表理事に就任。自治体やその外郭団体(一部事務組合、広域連合等)など、約50団体と業務契約を結んでいる。新地方公会計制度を応用した公共施設マネジメント、行政評価を多数手がけているが、自治体の総合計画策定に寄与することを通じて、地域活性化に貢献できる事業分野への拡大を目指している。

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