ほとんどの富裕層はお金に関する悩みを抱えているものだが、一般論として、それをあまり表に出す方は少ない。あまりにオープンに話してしまうと、彼らを食い物にしようする“搾取者”を呼び寄せてしまうためだ。そのため、富裕層が実際にどのようなことに悩んでいて、どのような解決策を取るかは、意外と知られていないように思う。
そこで本連載では、筆者の元に届いた富裕層の資産運用相談の実例を紹介していきたい。この連載を通じて「富裕層がどのような悩みを抱えており、どのような解決法があるのか」の参考になれば幸いだ。
今回は、富裕層向けに資産運用コンサルティングを行なっているペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会 社代表の山口聰氏に、富裕層の資産運用相談の実例を聞いた。なお、守秘義務の関係から、諸条件は多少修正していること、脚色を加えていることをご容赦いただきたい。
資産100億円の超富裕層「まずは100億円のうち5億円を運用してほしい」
それではまずは、今回の相談者の概要を見ていこう。この相談者をFさんと呼ぶことにする。
<Fさんのプロフィール>
・経営していた会社を売却して100億円の資産を得た
・現在は海外に住んでいる(Fさんは日本人である)
・現在の本業は自身の資産を元手とした資産運用業
・その他に、趣味の範囲内で飲食店や小規模事業を行っている
<Fさんの運用方針>
・資産の大半を米ドルで保有する(通貨配分は後述)
・資産の約9割は海外で運用中
・不動産を除く資産の大半は、複数のプラベートバンクに5〜10億円ずつ預けて、基本的に一任勘定で運用してもらう
・一任勘定の運用判断は「3カ月」を1つのタームとして、2ターム連続(2四半期連続)で運用がマイナスだった場合は解約を検討する
<Fさん資産の通貨配分>
米ドル:70%
日本円:20%
ユーロ:10%
<相談事項>
・まずは100億円のうち5億円を運用してほしい
Fさんは「M&Aで多額の現金を得た元オーナー経営者」だ。このタイプの富裕層は、潤沢な手元資金を運用に回すことが多いため、金融機関にとっては最もお近づきになりたい“上客”と言える。しかし、そんなM&A長者のなかでもFさんは特に合理主義者であり、複数のプラベートバンクに5〜10億円ずつ預けて、運用成績を競わせていた。
そのうちの5億円が山口氏に託されたという。Fさんは、明確な目標年間リターンがあるわけではなく、安定したプラスリターンを求めるタイプなので、リスクをコントロールした運用が求められる。