ダイバーシティ経営のメリット・デメリット

企業がダイバーシティ経営に取り組むと、どのようなメリット・デメリットが生じるだろうか。

<ダイバーシティ経営のメリット>
・多様な価値観やアイデアが生まれやすくなる
・人材不足の解消につながる
・ステークホルダーからの評価が高まる

<ダイバーシティ経営のデメリット>
・コミュニケーション障害が起こりやすい
・現場からの理解を得られない場合がある
・施策にコストや労力がかかる

見落としがちなメリットが、ステークホルダーからの評価が高まる点である。SDGsの考え方が広まった影響で、近年では環境問題・社会問題への関心が高まっており、ESGの観点(※)から投資先を選ぶ投資家も見られるようになった。そのため、ダイバーシティ経営に取り組むと消費者、投資家、金融機関などから評価される可能性がある。

(※)ESGとは

ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。投資家が企業の株式などに投資するとき、これまでは投資先の価値を測る材料として、主にキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われてきました。それに加え、非財務情報であるESGの要素を考慮する投資が「ESG投資」です。

引用:年金積立金管理運用独立行政法人「ESG投資

しかし、社内に多様な人材が増えると、文化や言語の違いによるコミュニケーション障害が起きやすい。施策を進める上ではコストや労力もかかるため、ダイバーシティ経営は事前の計画が必要になる。

日本でダイバーシティ推進が進まない要因

欧米諸国に比べると、日本のダイバーシティ推進は進んでいるとはいえない。国際労働機関(ILO)のレポート「A QUANTUM LEAP FOR GENDER EQUALITY」によると、2018年における世界の女性管理職比率は27.1%であるのに対し、日本は主要7ヵ国で最下位となる12.0%だった。

ダイバーシティ経営
(引用:国際労働機関「A QUANTUM LEAP FOR GENDER EQUALITY」)

また、世界経済フォーラムのレポート(※)によると、日本のジェンダー・ギャップ指数は146ヵ国中125位であった。健康分野・教育分野では完全平等に近い社会を実現できているものの、経済参画分野・政治参画分野の評価は平均を下回っている。

(※)参考:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2023

なぜ日本ではダイバーシティ推進が進まないのか、主な要因を解説しよう。

【要因1】男性優位のアンコンシャス・バイアスが根付いている

アンコンシャス・バイアスとは、無意識のうちに偏見をもつことである。日本は古くから男性優位の社会であったため、「昇進は男性がするもの」や「男性のほうが長く働いてくれる」といったバイアスがかかりやすい。

アンコンシャス・バイアスの難しいところは、本人にその自覚がない点だ。被害者しか気づけないケースも多いため、他人や外部からの指摘が困難な場合がある。

アンコンシャス・バイアスを防ぐには、社内の意識改革を徹底する必要があるだろう。

【要因2】意識改革が追いついていない

ハラスメント問題が取り沙汰されたり、SDGsが世界的に有名になったりした影響で、ジェンダー平等の重要性は多くの人が理解している。しかし、企業側が行う意識改革については、十分に追いついているとは言えない。

従来の国内企業では、チームワークを高めるために統一性が重視されてきた。しかし、ダイバーシティ経営では多様性を受け入れる必要があるので、個々のアイデンティティを押さえつけるべきではない。

上層部はその点をしっかりと理解した上で、意識改革に取り組む必要がある。

【要因3】慣例主義の企業が多い

慣例主義とは、これまで培ってきた文化や風習を優先し、変化を好まない考え方である。国内には慣例主義の企業が多いと言われており、特にトップダウン型では「命令を出すのは上司」のように凝り固まった思考に陥りやすい。

慣例主義の企業は、変化を徹底的に排除しようとするため、時間の経過だけでは新しい価値観が生まれない。つまり、個々のアイデンティティを排除してしまうため、ダイバーシティを進めるには慣例主義からの脱却が前提となる。

【要因4】経営戦略との連携が取れていない

ダイバーシティはあくまで手段であり、企業にとってのゴール(目的)ではない。海外展開やイノベーションなど、ダイバーシティの実現後には取り組みたい施策があるはずだ。

この点を誤解すると、経営戦略との関連性がないプランになってしまう。経営面にメリットがなければ、ダイバーシティはただコストがかかるだけの施策になるため、どうしても推進が難しくなってしまう。