本記事は、根来秀行氏の著書『老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方』(ワニ・プラス)の中から一部を抜粋・編集しています
そもそも「老化」とはなにか
テロメアと老化の関係についてお話ししたいと思います。
染色体の末端にあるテロメアは、自らの塩基配列を差し出すことで、DNAが短くなるのを防いでいます。テロメアがある程度のところまで短くなると、細胞は「これ以上は分裂できない」と判断して分裂をやめます。分裂の寿命を迎えて二度と分裂しなくなった細胞を「老化細胞」といいます。
一方で、私たちのからだには分裂寿命を迎えない細胞もあり、そうした細胞では、テロメラーゼという酵素が活性化していて、テロメアの修復が行われています。
ヒトのからだの仕組みの巧妙さ・緻密さには感心するばかりです。同時に、疑問を覚えた方もいるかもしれません。テロメラーゼの活性がなく老化する細胞と、テロメラーゼの活性があって分裂寿命を迎えない細胞の両方が存在している状態で、ヒトという個体はなぜ老化するのか、と。
そもそも、「老化」とはなんでしょうか。まずはそこから考えていきましょう。
「老化」とは、一般的に次のように定義されます。
老化の定義 大人になってから起こる生理機能の衰えにより、さまざまなストレスに対する適応能力が低下すること。
生理機能とは、呼吸、消化、排泄、血液循環、体温調節、代謝など、生きていくために行われるからだのはたらきです。
たとえば、肺には袋状の形をした「肺胞」があり、吸い込んだ酸素と体内の二酸化炭素の交換作業はここで行われています。肺胞は肺に約3億個もあり、年をとると肺胞そのものや肺胞をとりまく毛細血管の数が減少したり、肺がふくらんだり縮んだりするのに必要な弾性力が低下したりして、呼吸機能全般が低下します。結果として、運動すればすぐに息が上がるようになり、病気をすれば呼吸系の疾患を生じやすくなります。つまり、運動や病気といったストレス(刺激)に適応しにくくなるのです。
心筋梗塞や心肥大、心不全、高血圧、骨粗鬆症、骨折、関節炎なども、老化によって起きやすい症状です。
なお、「加齢」と「老化」は別物です。「加齢」は生まれてからどれだけの時間が経ったかを示す「指標」です。同い年の友人や知人を思い出してみてください。「老けたな」と感じる人もいれば、「いくつになっても若々しくてうらやましい」と思う人もいるでしょう。同じ年に生まれた人たちは、50年後にはみな50歳です。そこに差はありません。しかし、老化のスピードや度合いには個人差があります。
遅かれ早かれ老化することに変わりありませんが、病的な因子を取り除きつつ、老化のメカニズムを理解した上で、今できる最善の対策を行うことが重要です。現在老化についてはさまざまな学説があります。
老化のメカニズムに関する主な学説
(1)プログラム説
寿命には生物や個体によってある程度のばらつきはあるが、生まれてから死ぬまでの時間は、遺伝子によってあらかじめプログラムされているという説。
(2)エラー蓄積説
さまざまな原因によってDNAが傷つけられ、それが蓄積した結果、細胞が機能障害を起こして老化するという説。
(3)フリーラジカル説
体内で発生したフリーラジカルが細胞機能を低下させ、これが老化を引き起こすという説。
(4)免疫異常説
加齢にともない、免疫を担当する細胞の機能が低下して免疫細胞が自分のからだを攻撃するようになり、それによって老化がもたらされるという説。
(5)突然変異説
DNAが損傷した結果、複製を通じて染色体の異常や突然変異が引き起こされ、からだのさまざまな機能が阻害されて老化するという説。
(6)ミトコンドリア異常説
ミトコンドリアに異常が起きて活性酸素がより多く発生し、その活性酸素がさらにミトコンドリアを傷つけた結果、エネルギー産生が落ちて老化するという説。
(7)テロメア説
テロメアの短縮が細胞老化を起こし、これが老化を招くという説。
以上は老化のメカニズムに関する学説の一部です。フリーラジカル説や突然変異説は1950年代あたりから提唱されています。70年近く前から研究されているにもかかわらず、いまだ多くの学説が否定されず、かといって全面的に肯定されることもなく存在しています。この事実は、老化のメカニズムの複雑さと、その解明の難しさを表わしているといえるでしょう。
ただ、多くの学説が、DNAや遺伝子、ミトコンドリア、テロメアなど、細胞の異常や老化が積み重なることが臓器の老化につながり、結果的にヒトという個体の老化を招いているという点で共通しています。詳細なメカニズムは解明されてはいないものの、「老いは細胞からはじまる」ということはできます。
では、細胞の老化は個体の老化にどのようにつながるのでしょうか。それについて理解するには、まずは、細胞分裂の仕組みについて知る必要があります。
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