本記事は、根来秀行氏の著書『老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方』(ワニ・プラス)の中から一部を抜粋・編集しています

テロメアは「健康寿命の指標」と考える

健康寿命
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

テロメラーゼを活性化してテロメアの短縮を防ぐ、あるいは長くするのは、簡単なことではありません。また、がんのリスクを考えると、テロメラーゼをサプリメントなどで強制的に活性化するような方法には、安易に飛びつかないほうがよさそうです。

加えて、テロメアの長さだけが細胞の寿命を左右しているわけではありません。細胞は、DNAが著しく損傷したり、がん化のおそれがあるときは、テロメアの長さが十分にあったり、テロメラーゼが活性化していても、老化することがあります。テロメアの長さイコール寿命の長さ、とはいえないのです。ちなみに、マウスのテロメアは非常に長く、細胞が老化するほどテロメアが短くなることはまず起こりません。それにもかかわらず、マウスの寿命は最長で36か月ほどです。

一方で、80代や90代まで生きる人は概して長いテロメアをもっています。また、テロメアが長い人は健康で、テロメアが短くなるにつれ、病気にかかりやすくなるというデータもあります。

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(画像=『老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方』より)

テロメアと老化、そして寿命について、私たちはどのように考えればいいのでしょうか。

私は、テロメアは「健康寿命の指標」ととらえています。健康寿命とは、平均寿命から、認知症や寝たきりなど介護が必要な状態の期間を差し引いた期間のことです。要は、心身ともに健やかで、自分らしく、自立して生活できる期間をいいます。

2016年の女性の平均寿命は87.14歳で、健康寿命は74.79歳でした。男性の平均寿命は80.98歳、健康寿命は72.14歳でした。女性は亡くなるまで12年以上、男性は8年以上、介護が必要な状態ですごしているわけです。日本は世界随一の長寿国として知られていますが、健康寿命は欧米に比べると短く、要介護の期間が長いといわれています。

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(画像=『老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方』より)

すでにお話ししたように、私たちのからだの細胞はつねに入れ替わっています。けれど、けがをしたり、病気をしたり、強いストレスがかかったりして組織がダメージを受けると、それを修復・維持するために、細胞分裂が促進されます。健康な状態であれば起きなかったはずの分裂が行われるわけです。

細胞が分裂すればするほど、テロメラーゼ活性が弱い細胞ではテロメアが短くなっていきます。老化した細胞の一部は除去され、幹細胞によって新しい細胞が補充されますが、度重なる補充によって幹細胞が疲弊したり、加齢や免疫の低下によってはたらきが衰えたりすれば、新しい細胞の補充がとどこおり、老化細胞が増えつづけます。

体内に長く居すわる老化細胞は、炎症や発がんの原因となります。そのようなトラブルが起きれば、その組織では修復・維持のために細胞分裂が必要となり、テロメアがますますムダ使いされるという悪循環に陥りかねません。

反対に、けがや病気、強いストレスを防ぐことができれば、細胞は必要以上に分裂せずにすみます。テロメアを節約できるわけです。幹細胞の負担も減って、新しい細胞の補充も適切に行われるでしょう。

こうしてテロメアを適切に節約する生活をつづければ、健康寿命は確実に延びるはずです。加えて、サプリメントなどで強制的にテロメラーゼを活性化してテロメアを維持・延伸する場合はがん化のリスクがつきまといますが、生活習慣によってテロメアを保つようにはたらきかけるのであれば、がん化の心配はないと思われます。

テロメアを「健康寿命の指標」と考え、テロメアをムダ使いしない生活を心がけること。

それこそが、人生100年時代といわれるこれからの長寿社会において、私たちが目指すべき生き方ではないでしょうか。

老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方
根来秀行(ねごろ・ひでゆき)
東京都生まれ。医師、医学博士。東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床、研究、医学教育の分野で国際的に活躍中。新型コロナに対する新しい治療メカニズムをつきとめ、2022年1月にその論文が英国医学誌に掲載され国内外にてトップニュースとなる。『第二の人生の質が劇的に向上する 定年睡眠』(ワニプラス)、『ハーバード&ソルボンヌ大学Dr.根来が教える ストレスリセット呼吸術』(KADOKAWA)など著書多数。

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