本記事は、根来秀行氏の著書『老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方』(ワニ・プラス)の中から一部を抜粋・編集しています
人は800歳まで生きられる!?
秦の始皇帝は、中国全土をはじめて統一した人物です。皇帝の座に就き、絶対的な権力と富、名声を手に入れた始皇帝が、求めてやまなかったものがあります。不老不死です。2002年に中国で発見された大量の木簡の中には、始皇帝が不老不死の薬を探すよう命じた布告が書かれていました。
世界の歴史を見ても、一定の地位や富を得た人が不老不死を願ったという話は珍しくありません。さまざまなものを手に入れたからこそ、その状態をできるだけ長く維持したいと思うようになり、結果として不老不死を望むようになるのでしょう。これはなにも、歴史上の偉人に限りません。職業柄、いろいろな人と話をする機会がありますが、オーナー社長さんのように一代でなにかを築き上げた人は、その傾向が強いように感じます。
いずれにしても不老不死は、始皇帝の時代から2200年ほど経過したいまも実現していません。ただ、ヒトの寿命は確実に延びています。たとえば、日本人の平均寿命は、1955年は男性が63.60歳、女性が67.75歳でしたが、2019年には女性が87.45歳、男性が81.41歳となっています。さらに、2040年には、女性の平均寿命は89.63歳、男性は83.27歳になると推計されています(令和2年「厚生労働白書」より)。
私たちの寿命はいったいどこまで延びるのでしょうか。
これまで、ヒトの寿命の限界は120歳あたりではないかといわれていました。ところが近年、老化のメカニズムについての研究が進み、120年以上生きることも可能ではないかと考える研究者が増えています。寿命に関しては、世界中の第一線の研究者が集う健康長寿をテーマにしたハーバード大学のシンポジウムでもよく話題になりますが、概して「ヒトは150歳あるいは180歳くらいまでは生きられるようになるのではないか」という結論になります。
また、これはある親しい著名科学者の見解ですが、「人間は医学とテクノロジーの進歩によって、いずれ800歳まで生きられるようになる」という説を唱えています。
このようにヒトの寿命についてはさまざまな学説があるものの、寿命を積極的に延ばすアプローチ法は大きく2つに分けられます。
1つは、ダメになった臓器を交換する方法です。
私たちのからだは、寿命が近づくにつれて少しずつ老います。けれど、そのスピードや度合いは臓器によって異なります。「老いる」と聞くと、なんとなく、全身が足並みそろえて老化して、不具合がからだのあちこちで多発するイメージを抱きがちです。しかし実際は、喫煙、飲酒、ストレスほか、悪しき生活習慣が原因で弱っている臓器の機能がまず衰え、それが全体のバランスを崩すことにつながり、全身へと不具合、老化が広がっていきます。そして、機能が衰えた臓器が致命的であればあるほど、寿命も早く尽きます。
たとえば、血管障害が手や足で起きたとしましょう。血管障害により血流が止まれば、手足の切断という重大な事態を招くかもしれません。けれど、即座に死に至るわけではありません。一方、脳や心臓が血管障害を起こせば、たとえその障害自体は軽度であっても、脳梗塞や心筋梗塞で死亡するリスクは非常に高くなります。また、脳や心臓ほどでなくても、肝臓や腎臓もダメージを受けやすく、なおかつ、機能の衰えが生死に関わる臓器です。
医学が進歩し、臓器ごとの病態への理解が進んだいま、このようにダメになった、あるいはダメになりそうな臓器を、臓器ごと交換することが可能になりつつあります。亡くなった方から心臓の提供を受け移植する心臓移植は、海外ではかなり広がっていますし、2022年1月には、遺伝子操作を受けたブタの心臓の移植が世界ではじめて行われました。
また腎臓に関しては、人工透析の進歩によってその機能を補うことができるようになっており、腎移植も数多く成功するようになっています。心臓や腎臓に限らず、臓器移植や、人工臓器での置き換えは、今後ますます普及するはずです。そうなれば、私たちの寿命はさらに長くなるに違いありません。
もう1つは、全身の細胞にはたらきかけて、老化をできるだけ均等に遅らせる方法です。テーマである、テロメアの短縮を防ぐ、あるいは伸ばすという考え方もこちらに該当します。また近年は、特定の遺伝子にはたらきかけて長寿をめざすというアプローチ法もさかんに研究されています。その代表ともいえるのが、「サーチュイン遺伝子をオンにする」という方法です。
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