この記事は2022年10月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「歴史的な物価高騰の原因はコロナ禍での財政支出」を一部編集し、転載したものです。


歴史的な物価高騰の原因はコロナ禍での財政支出
(画像=moonrise/stock.adobe.com)

(米労働省「Consumer Price Index」ほか)

足元では、世界中で物価高騰が続いている。米国の消費者物価上昇率は40年ぶりの高水準を記録し、ユーロ圏の統一基準消費者物価(HICP)も2022年9月に10%と2桁の伸びになるなど、過去最高を更新している。

ドイツ単独でも10%に達し、これも1956年以降初めての事態である。日本の消費者物価上昇率も、欧米ほどの高さではないが、消費増税時を除くと、2022年8月には約30年ぶりに前年比3%に到達した。近年の物価上昇率は、歴史的な水準となっている。

米国で物価上昇率が高水準だった「40年前」とは、1970年代末から1980年代初頭にかけての第2次オイルショックの時期である。イラン革命やイラン・イラク戦争の影響も重なり、原油価格が3年間で2.7倍にも跳ね上がった。当時は日本でも、消費者物価上昇率は7~8%台だった。

他方、足元の物価上昇を項目別に見ると、米国では幅広い項目で物価が上昇しているが、住宅供給不足ともいわれる中で、特に家賃・帰属家賃の上昇が目立つ。欧州については、エネルギー価格が上昇しているため、光熱費が特に高騰している。日本は、2021年春以降の携帯電話通信料の引き下げが物価を押し下げていたが、これが剥落しつつある状況だ。

こうした物価上昇を引き起こしたのは何か。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に原因を求める向きもある。欧米諸国がロシアに経済制裁をかけ、ロシア産の原油・天然ガス・石炭の購入を禁止ないしは縮小したことが、エネルギー価格を高騰させたことは事実である。ただし、物価高騰はこの軍事侵攻前から進んでいる。軍事侵攻はそれに拍車を掛けたと思われるが、大きな原因とは言い難い。

やはり影響が大きいのは財政支出で、特にコロナ禍関連の補助金支給だろう。欧米で物価上昇が始まったのは2020年後半以降であり、コロナ禍関連の財政支出が始まった時期と重なる。

この財政支出は、過去に例を見ない巨大な規模であったが、これは将来の成長に資する類のものではなく、大半はコロナ禍での損失を穴埋めするものである。そして、それを中央銀行が、低金利と量的緩和で支えてきた。

こうした支出は結局、将来の税負担が担保となっているため、応分の税負担を避けると、物価上昇となってツケを払うことになる。つまり、リーマンショック、あるいは新型コロナショック以降の財政依存が、足元の物価上昇に大きな影響を与えている。

約40年前には政策金利を、米連邦準備制度理事会(FRB)は20%、日本銀行は9%まで引き上げた。現在、日本を除く各国中銀が利上げを行っているが、物価上昇は鎮静化していない。短期間でこれを終息させるのは難しいだろう。

歴史的な物価高騰の原因はコロナ禍での財政支出
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員/廉 了
週刊金融財政事情 2022年11月1日号