この記事は2022年11月4日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「「日本以外」の世界中で進む金融引き締め」を一部編集し、転載したものです。
(FRB「Selected Interest Rates」ほか)
世界中でインフレが続くなか、日本以外の各国は今年、相次いで利上げに踏み切った。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標について、2020年3月から続けてきたゼロ金利政策を解除し、2022年3月に0.25%、5月には0.5%引き上げた。
その後も利上げを加速し、2022年9月までに3回連続で0.75%引き上げている。消費者物価指数の急激な上昇が続き、特に変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数の上昇率が高まっていることへの対抗措置だろう。
ただ、これだけ急ピッチに利上げしているにもかかわらず、2022年9月の消費者物価指数でも「コア指数」の伸びが加速しており、インフレが収まる兆しは見えない。米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者のFF金利の見通しは、年末に4.4%程度となっており、年内残り2回のFOMCで0.5%ないしは0.75%の引き上げが続くこととなっている。
また、2023年末のFF金利も4.6%程度と、さらに金利を引き上げる見込みだ。おそらくFRBは、こうした急激な利上げを行っても、インフレの終息が容易でないとの見通しを立てているものと思われる。
欧州中央銀行(ECB)も2022年7月に、11年ぶりの利上げを断行した。なかでも民間金融機関がECBに預け入れていた余剰資金の一部に、マイナス金利が適用されていた預金ファシリティー金利を0%とし、2014年6月から続いていたマイナス金利政策を8年ぶりに解除した。
利上げの背景には、インフレの加速だけではなく、その裾野が着実に広がっていることがある。インフレに対するエネルギーの寄与度は大きいが、財やサービスの価格も上昇している。このため、ECBは2022年9月にも0.75%の利上げを実施した。ECBは当面、消費者物価上昇率が目標の2%程度を上回るとみており、追加利上げを進める方針だ。
日本でも物価が徐々に上昇しているが、日本銀行は引き続き、金融緩和の姿勢を崩していない。足元もマイナス金利政策を維持しつつ、イールドカーブ・コントロール(YCC)の下、10年物国債金利が0.25%を超えないよう、指定した利回りの国債を原則として無制限に買い入れる指し値オペを複数日にわたり実施した。だが、それにより海外との金利差が拡大し、急激な円安をもたらしている。
欧米では、過度の財政依存から、エネルギー価格上昇だけでは説明できない歴史的な物価高騰を招き、急速な利上げでも物価上昇が収まる気配はない。それだけ財政依存の大きなツケを払っているといえる。日本は、現状では欧米ほどの物価上昇とはなっていないものの、欧米以上に財政に依存しながら金利上昇を抑えつけており、将来的に欧米以上のツケを払うリスクを抱えている。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員/廉 了
週刊金融財政事情 2022年11月8日号