本記事は、『相続と遺言のことならこの1冊』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています

相続と遺言のことならこの1冊
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子供の相続 様々なケースでの子供の相続問題

離婚した夫婦の間の子、非嫡出子、養子の相続問題

■シェイクスピアのリア王の話を持ち出すまでもなく、古今東西を問わず、相続をめぐる肉親同士の争いは跡を絶たないものです。相続争いの当事者は大人です。そのため、子供の相続権はややもすれば無視されがちです。ここでは子供特有の相続の問題を取り上げてみました。

両親の離婚と子供の相続権

令和3年中の離婚件数は18万4,386組(概数)で、2分51秒に1組の夫婦が離婚する状況です。

夫婦が離婚する場合に問題になるのは、財産分与、慰謝料といった金銭問題です。しかし、それより大事なのが、子供の親権者をどちらにするか、です。親権者が決まらないことには、離婚届は受け付けられず、離婚はできないからです。

夫婦が離婚すれば、法律上は赤の他人になるわけですから、離婚後に元夫婦の一方が死亡したとしても、その元配偶者には相続権がないことは当然です。

しかし、離婚を前提に別居し何年もの期間がたっていた、あるいは離婚訴訟中に配偶者が死亡したという場合には、夫婦の実態はなかったとしても、籍があれば残された配偶者は相続権を持つことになります。

ポイントは、離婚届が受理されているかどうかで、離婚夫婦の相続は決まります。

しかし、離婚した夫婦間に子がいた場合には、そう簡単にはいきません。夫婦が離婚したとしても、また親権がどちら側にあろうとも、子供との親子関係は切れるわけではないからです。

離婚した夫婦の子は、父親または母親が再婚していても、また姓が変わっていても、親子の縁は切れないわけですから、両親のどちらについても相続権を持つことになります。

また、親が再婚し、その相手との間に子が生まれれば、他の子と同じ割合で相続権を持ちます。連れ子には相手配偶者の相続権はありません。

非嫡出子の場合には不利益を被るのか

正式な夫婦の間に生まれた子のことを「嫡出子」、正式な夫婦以外の間で生まれた子のことを「非嫡出子」と言います。

たとえば、内縁の夫婦の間に生まれた子、夫と恋人や愛人との間に生まれた子は非嫡出子となります。ただし、父親が自分の子であると認知(市区町村役場に認知届を出す)しないと、非嫡出子としての間の法律上の親子関係は生まれず、相続権も発生しません。

非嫡出子も父親の子に変わりはありませんから、父親が死亡すれば、当然相続権を取得します。

相続分は、民法では法律婚を前提としていますので、法律の認めていない婚姻関係外から生まれた非嫡出子は、以前は嫡出子の相続分の2分の1でした(旧900条4号)。

これについて、生まれてきた子には何の責任もなく、嫡出子との間に相続分において差別を設けているのは憲法14条の法の下の平等に反するとして、裁判で争われてきました。

最高裁判所はかつては、「民法の法律婚主義を採用している以上、非嫡出子に区別が生じるのも止むを得ない」として合憲の立場を維持してきましたが、平成25年9月24日の大法廷の決定によって、「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されない」との判断を下しました。これを受けて平成25年12月5日、民法の一部を改正する法律が成立し、嫡出でない子の相続分は嫡出子の相続分と同等となりました(同月11月公布・施行)。この改正は、平成25年9月5日以後に開始した相続に適用されます。また、最高裁決定で「少なくとも平成13年の7月において憲法違反」としていることから、平成13年7月1日以後に開始した相続で遺産分割協議が終了していないものについても適用があると考えられます。

養子や特別養子の相続分は

養子制度は血のつながらない親子関係のない者の間に、人為的に法律上の親子関係を作りだす制度です。

養子縁組をするには、当事者間に養子縁組をする意思が必要です。子が15歳未満の場合には、親などのその子の法定代理人が、子に代わって縁組の合意をします。また、未成年者の養子縁組には、家庭裁判所の許可を得ることが必要です。

法律上は、嫡出子も養子も、子であることに変わりませんので、同じ順位で、等分に相続します。また、養子と実親の間にも親子関係はありますので、養子は実親の相続についても、相続権を失うことはありません。すなわち、養子は、養親と実親との両方の相続権を持つわけです。

なお、養親が死亡したときにすでに養子となった人が死亡していた場合に、養子の子が代襲相続できるかという問題があります。この点については、養子縁組前に生まれていた子(連れ子)には代襲相続権はなく、養子縁組後に生まれた子(被相続人の孫)には代襲相続権があります。

昭和62年の民法改正により、今までの養子縁組制度の他に、「特別養子制度」が設けられました。

特別養子制度は、未成年の子の福祉を目的とし、養親と養子との間に実の親子と同様の強固で安定した親子関係を設立させるために設けられたものです。

この特別養子制度の成立によって、従来の養子制度のことを「普通養子制度」と呼び区別しています。

特別養子制度には、いろいろと条件が付けられています。図示しましたので参照してください。

特別養子の場合、養親と養子との間に嫡出子と同様の親子関係が生ずるのは、普通養子の場合と同様ですが、縁組の成立により実親と親子関係が終了する点が一番の違いです。

その結果、特別養親子関係が成立することにより、実親との間では、相続関係も扶養関係も生じません。

相続と遺言のことならこの1冊
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相続と遺言のことならこの1冊
●監修・執筆代表者紹介
石原 豊昭(いしはら・とよあき)
昭和3年、山口県に生まれる。中央大学卒業。元弁護士(東京弁護士会所属)。相続問題に造詣が深く、多くの難事件も処理している。日本および世界の相続制度は研究テーマの一つ。著書に『財産相続トラブル解決なんでも事典』「みんなが安心遺書の正しい書き方・活かし方」『遺産分割と紛争解決法』『訴訟は本人で出来る(共著)』(以上、自由国民社)など多数。平成27年逝去。

▷第8版から監修
國部 徹(くにべ・とおる)
昭和35年生。東京大学法学部卒業。平成4年弁護士登録、平成10 年國部法律事務所開設。
一般民事・家事事件をはじめ、労働事件や倒産事件、刑事事件など日常の出来事全般、また主に中小企業向けの法務を扱う。著書に『労働法のしくみ』『労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる』(共著)「戸籍のことならこの1冊』(共著)<いずれも自由国民社>などがある。
●執筆者紹介
飯野 たから(いいの・たから)
昭和27年、山梨県生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。フリーライター。著書に『男の離婚読本(共著)』『戸籍のことならこの1冊(共著)』 『非正規六法』(以上、自由国民社)などがある。
内海 徹(うつみ・とおる)
昭和16年、宮崎県生まれ。早稲田大学法学部卒業。法律ジャーナリスト。著書に『債権回収のことならこの1冊(共著)』『「遺言」の書き方と文例集(共著)』『(以上、自由国民社)等がある。
真田 親義(さなだ・ちかよし)
昭和24年、熊本県生まれ。熊本大学法学部卒業。(有)生活と法律研究所所長。著書に『自己破産借金完全整理なんでも事典(共著)』『交通事故の示談交渉手続マニュアル』『示談・調停・和解による解決事典(共著)』など がある。
矢島 和義(やじま・かずよし)
昭和26年生まれ。鹿児島県出身。税理士(東京税理士会所属)。著書に『有限会社経理事務』(西東社)などがある。
和田 恵千子(わだ・えつこ)
島根県出身。税理士( 東京税理士会所属)。

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