本記事は、『相続と遺言のことならこの1冊』(自由国民社)の中から一部を抜粋・編集しています
相続欠格・廃除 どんな場合に相続人になれなくなるのか
法定相続人が必ず相続人になれるわけではない
■被相続人が死亡すれば相続人になれる地位にいる者を「推定相続人」といいます。推定相続人だからといって必ず相続人になれるわけではありません。民法では、相続人の地位を剥奪される2つの場合を規定しています。1つは「相続欠格」であり、他の1つは「相続人の廃除」です。いずれの場合も、相続人にはなれなくなってしまいます。
どんな場合に相続欠格になるか
早く遺産を相続したいために被相続人を殺害した、あるいは自分が多く相続するために兄弟を殺害した、このような者に相続を認めてもいいものでしょうか。
相続制度の基礎にあるものは、被相続人を中心とした妻、子、父母、兄弟姉妹といった家族的共同生活です。この家族的共同生活を破壊してまで、自分に有利な相続を図ろうとして、反社会的な行為をした推定相続人にまで、相続権を認めることは、妥当ではありません。
そのような行為をした推定相続人は、被相続人の意思とは関係なく、法律上当然に相続人になる資格を失う(民法891条)としたのが、「相続欠格」の制度なのです。
民法では、次に述べる5つの欠格事由が発生した場合には、法律上当然に相続人になることはできないとしています。
(1)故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者
殺人(未遂含む)の故意が要件となっていますので、不注意で交通事故により死亡させた場合や傷害致死の場合は該当しません。また、執行猶予の判決の場合には、猶予期間の満了により刑の言渡しが効力を失い、欠格の要件を欠くことになり欠格の効果が生じません。
(2)被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者
これは、被相続人が殺害されたとき、告訴や告発するのは相続人の義務であり、告訴も告発もせずに犯罪の発覚を妨げ、または遅らせたことに対して制裁を加えるという趣旨に基づきます。
したがって、告訴や告発のできない者、およびできにくい者、すなわち幼児や被成年後見人など是非の弁別のできない者、加害者の配偶者または直系血族にある者は除かれることになっています。
(3)詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、またはこれを変更することを妨げた者
これは被相続人の遺言の自由を保障するために設けられたものです。対象になる遺言は有効な遺言であることが必要です。
(4)詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
(5)相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
相続欠格になるとどうなるか
相続欠格事由があった場合には、その時に欠格の効力が法律上当然に発生しますので、裁判所に申し立てるなど、なんら手続きは必要とはしません。
欠格事由が相続開始後に発生した場合は、相続開始時に遡って効果は発生します。
欠格事由のある者が、事実上相続をしたときは、他の相続人はこの者に対して、相続回復の請求をすることができます。
また、欠格の効果は、被相続人との間で相対的に発生するだけです。たとえば、父親が被相続人の場合に欠格ありとされても、母親の相続については相続する権利があるということです。
相続欠格の効果は、その本人に限られますので、欠格者の子は欠格者に代わって代襲相続をすることができます。
相続人の廃除とはどういうことか
遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法892条)。
相続人の廃除も、推定相続人から相続権を剥奪する旨の規定ですが、相続欠格とは異なり、被相続人の意思によって、遺留分の権利を含む相続権を完全に奪うもので、廃除をするには、家庭裁判所の審判により行うことにしています。
廃除の申立てを受けた家庭裁判所は、申立人の一方的な言い分のみで廃除を認めるわけではなく、相手方の言い分も聞いて、公平な判断をします。
すなわち、表面に現れた暴力行為のみを問題にするのではなく、そこに至るまでの原因や、被相続人の側に挑発的な行為がなかったかどうか、あるいは一時的なものではなかったかなど慎重に判断されます。
審判で廃除が認められますと、廃除された推定相続人は、被相続人の財産を相続する相続人としての地位を失います。
しかし、その者に子がいれば子が代襲相続人として相続できることは、相続欠格の場合と同様です。
廃除の審判が確定したときは、申立人は審判確定日から10日以内に、その旨を市区町村役場の戸籍課へ届けることが必要です。
被相続人が生きているうちに廃除の申立てをすると、また暴力を振るわれるおそれがある場合もあります。そこで、廃除の申立ては遺言によってもすることが認められています(893条)。
この場合は、遺言執行者が家庭裁判所に遺言に基づく相続人廃除の申立てをすることになります。
廃除後に、被相続人は、廃除を受けた推定相続人が心を入れ替え真面目に働くようになったなどの理由がある場合でも、特に明確な理由がない場合でも、廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
この廃除の取消し請求は遺言によっても行うこともできます。
昭和3年、山口県に生まれる。中央大学卒業。元弁護士(東京弁護士会所属)。相続問題に造詣が深く、多くの難事件も処理している。日本および世界の相続制度は研究テーマの一つ。著書に『財産相続トラブル解決なんでも事典』「みんなが安心遺書の正しい書き方・活かし方」『遺産分割と紛争解決法』『訴訟は本人で出来る(共著)』(以上、自由国民社)など多数。平成27年逝去。
▷第8版から監修
國部 徹(くにべ・とおる)
昭和35年生。東京大学法学部卒業。平成4年弁護士登録、平成10 年國部法律事務所開設。
一般民事・家事事件をはじめ、労働事件や倒産事件、刑事事件など日常の出来事全般、また主に中小企業向けの法務を扱う。著書に『労働法のしくみ』『労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる』(共著)「戸籍のことならこの1冊』(共著)<いずれも自由国民社>などがある。
昭和27年、山梨県生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。フリーライター。著書に『男の離婚読本(共著)』『戸籍のことならこの1冊(共著)』 『非正規六法』(以上、自由国民社)などがある。
内海 徹(うつみ・とおる)
昭和16年、宮崎県生まれ。早稲田大学法学部卒業。法律ジャーナリスト。著書に『債権回収のことならこの1冊(共著)』『「遺言」の書き方と文例集(共著)』『(以上、自由国民社)等がある。
真田 親義(さなだ・ちかよし)
昭和24年、熊本県生まれ。熊本大学法学部卒業。(有)生活と法律研究所所長。著書に『自己破産借金完全整理なんでも事典(共著)』『交通事故の示談交渉手続マニュアル』『示談・調停・和解による解決事典(共著)』などがある。
矢島 和義(やじま・かずよし)
昭和26年生まれ。鹿児島県出身。税理士(東京税理士会所属)。著書に『有限会社経理事務』(西東社)などがある。
和田 恵千子(わだ・えつこ)
島根県出身。税理士( 東京税理士会所属)。
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