ジェンダー不平等はなぜ問題なのか?

ジェンダー不平等が大きくなると、社会にはどのような弊害が生じるだろうか。ここからはビジネス面に着目して、企業や従業員が抱えるリスクを紹介しよう。

暴力による被害

男性と女性には身体的な違いがあり、分かりやすい例としては「力の差」がある。この力の差を利用する社会になると、性暴力や虐待などの被害を受ける女性が増えてしまう。

内閣府男女共同参画局の資料(※)によると、日本でも女性の約7人に1人は配偶者からの暴力を受けている。ビジネスシーンにおけるデータはないが、もし性差による暴力が会社で起これば、大問題に発展することは想像に難くない。

また、男性が身体的な有利をふりかざすと、パワハラやセクハラなどのハラスメント問題にもつながるだろう。

(※)参考:内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査報告書

子どもの権利侵害

子どもの権利侵害は、社会進出や活躍のきっかけを奪う恐れがある。

例えば、児童婚(18歳未満の結婚)は精神面の成長に悪い影響を及ぼし、若い年齢での妊娠は女性のライフスタイルを制限する要因になる。また、虐待やいじめの被害者になった子どもは、教育や就職の機会を失ってしまうかもしれない。

権利侵害と聞くと大事に思えるかもしれないが、日本でも児童虐待やいじめ、体罰などは毎年報告されている(※)。

(※)参考:法務省「こどもの人権を守りましょう

教育格差による社会での不平等

ジェンダー・ギャップ指数だけを見ると、日本の教育分野は完全平等に近いと言える。しかし、日本にも数字に表れないジェンダー不平等はいくつか存在する。

例えば、「女性は数学が苦手」といった固定観念があると、理工学系の学校に進む女子生徒は減ってしまう。また、結婚や出産を見越した助言を行ったり、研修内容を男女で分けたりするケースも、広義では教育格差に含まれるだろう。

海外の教育格差はさらに深刻であり、2015年に紛争が始まったイエメンは、200万人強の子どもが学校に通えない状況にある(※)。なかでも女児への影響は大きく、男女の成人識字率には約2倍の差が生じている(男性が76%、女性が39%)。

(※)参考:ユニセフ「イエメン 紛争による教育崩壊、600万人に影響 教師の3分の2が定期的な給与得られず

このような男女の教育格差は、雇用機会や賃金、政治面でのジェンダー不平等につながってしまう。

日本におけるジェンダー不平等の事例

日本においては、主にどのようなジェンダー不平等が問題視されているのだろうか。ここからはジェンダー・ギャップ指数のスコアが低い「経済分野・政治分野」に絞って、日本が抱えている課題や事例を解説する。

【事例1】コロナ禍で女性の失業者や貧困者が増加

現在では国内にも、ダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでいる企業は多い。目標値を設定して女性管理職を増やす企業も見られるが、コスト面の問題でこのような取り組みが難しいケースもある。

例えば、コロナ禍が始まった2019年末からは、サービス業などの接触型産業が大きなダメージを受けた。特に2020年には多くの企業が人員削減をした影響で、女性の労働力人口が前年比で14万人ほど減少している。

日本のジェンダー不平等の問題は? 事例から考える対策について解説
(引用:男女共同参画局「労働力人口(前年差)」)

新型コロナのような災害や経済ショックが発生すると、企業は採用コストが大きい人材から削減する傾向にある。実際に、「管理職や正規ではないから」「結婚などで退職する可能性があるから」といった理由で女性が解雇されるケースはあるだろう。

仮に新型コロナが収束したとしても、現在の社会構造に変化がない限りは、有事の際に同様の問題が顕在化すると考えられる。

【事例2】著名人による性差別発言

日本の政治界は男性社会が形成されており、衆議院における国会議員の女性比率は9.7%に留まっている(※2022年3月時点)。働き方改革や女性活躍推進法なども打ち出されているが、本当の意味でジェンダーレスの政治が行われているとは言い難い。

それを象徴する出来事が、著名人による性差別発言である。

<性差別発言の例>
・女性はいくらでもウソをつける
・女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる
・セクハラと思ってやっているわけではなく、当たり前の世界である

2007年には当時の厚生労働大臣が「女性は産む機械」、2019年にはオリンピック大臣が「子どもを3人くらい産むようお願いしてもらいたい」と発言し、世間やマスコミから大きな批判を浴びた。著名人による性差別発言は広く報道されるため、世間に影響しやすい部分も懸念点だろう。

【事例3】女性によるワンオペ育児

2017年のユーキャン新語・流行語大賞では、「ワンオペ育児」というワードがノミネートされた(※)。これは、1人で仕事・家事・育児をこなすことであり、日本では女性の状況を表すケースが多い。

(※)参考:生涯学習のユーキャン「「現代用語の基礎知識」選 2017ユーキャン新語・流行語大賞 ノミネート語発表

育児・介護休業法が実施されてはいるものの、家事・育児のほとんどを女性に任せている家庭は多く存在する。仮に専業主婦であったとしても、「家事や育児は女性がやるもの」といった考え方は、深刻なジェンダー不平等につながるだろう。

このような状況を是正するために、女性が進出・活躍しやすい社会や、男性が家事・育児に参加しやすい環境づくりが求められている。

【事例4】職場での各種ハラスメント

性差によるセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントも、日本ではよく見られる事例だ。厚生労働省の資料(※)によると、労働局雇用均等室に寄せられたセクハラの相談件数(2019年度)は年間7,000件を超えている。

(※)参考:厚生労働省「令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況

例えば、仕事でミスをしたときに「女性だからミスをした」「もう女性には任せない」のように怒られた人もいるだろう。また、年齢によって呼び方を変えたり、プライベートな質問(過去の恋愛歴など)をしたりすることもハラスメントにつながる。特に男性社会が形成された企業では、本人に自覚がないハラスメント行為も少なくない。

「女性だから」という理由でお茶くみをさせるなど、ジェンダー不平等につながる慣習が残っているケースも多いため、中小経営者は企業文化まで見直す必要がある。

【事例5】男女間の賃金格差

先進国や主要国の中でも、日本は男女による賃金差が特に大きいとされている。以下のデータは、経済協力開発機構(OECD)が公表した「男女間賃金格差」の国別のグラフである。

日本のジェンダー不平等の問題は? 事例から考える対策について解説

2022年時点での調査によると、男性所得の中央値に対する男女の所得中央値の差は、日本で21.3%である。OECD加盟国の中で、日本の男女間賃金格差は4番目に大きい水準となった。

日本では男性社員と同じ業務をこなしていても、「なかなか昇進できない」「昇給幅が少ない」のように悩む女性が存在する。やむを得ない賃金差もあるが(労働時間の問題など)、明確なジェンダー不平等については是正する必要があるだろう。