自分で抱え込む人はなかなか活躍できない

一方でHさんは、Sさんとは正反対の性格。真面目すぎるところがあり、自分の苦手なものにも正面から向き合って、ちょっと無理をしてでも苦手なところを克服しようとするあまり、それに疲れてしまうような人でした。大変なことをすべて自分で抱え込んでしまうために、収拾がつかなくなるタイプです。

オールマイティになれることなんて、めったにないのです。

野球を例にしましょう。剛速球や変化球が自在に投げられ、ホームランを多く打てて、足が速くて、守備もうまいなんてことは稀でしょう。人は誰でも、得意・不得意があるもの。自分が不得意なところまで無理してカバーするよりも、得意なところを伸ばすほうがいい結果を出せますし、何より自分が楽しめるはずです。

Sさんは現在、国立大学の医学部で40歳そこそこにして准教授。しかも、哲学や音楽にものめり込むなど、好きなことばかりしています。いわゆる、よくありがちな「学者バカ」的なタイプとは一味違う研究者でしょう。

また、ヨーロッパ時代の先生や同僚とは、今でも交流を持っています。国境を越えて共同研究を積極的に展開するなど、仕事の上でつながりがあるのはもちろん、人間的にも一目置かれ、友人としてもリスペクトされています。

「空気を読まない」というと、「周囲に気遣っていない」だとか「わがままだ!」というイメージがあるかもしれません。でも、周囲に迷惑をかけたり不快な思いをさせたりするとは限らないのです。

Sさんの場合は、彼を助ける仲間がいい思いをするわけですから、空気を読まないことがむしろプラスに働いています。

「得意なことだけを貫く」。これは一見自己中ジコチューなようですが、好結果を残すには大事な要素。

これを実践しているSさんこそ、「世界で活躍できる頭のいい人」だと思うのです。

=世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた
中野信子
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授。
著書に『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『空気を読む脳』『ペルソナ 脳に潜む闇』(講談社)、『キレる! 』『「嫌いっ! 」の運用』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

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