本記事は、齋藤孝氏の著書『教養のある人がしている、言葉選びの作法』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

言葉,ワード
(画像=Sergey Nivens/stock.adobe.com)

言葉のセンスを身に付けるには

言葉のセンスを磨くにはセオリーがある

最近、将棋の世界では棋士の藤井聡太さんの実力が抜きん出ていて、竜王、棋聖、王位、王将、叡王と最年少で5冠を獲得し、話題となっています(2022年8月16日現在)。

彼は、言ってみれば、「将棋のセンスが飛びぬけていい」ということになります。

将棋がうまくなる、将棋のセンスを身に付けるためには、まず「定跡」を知ることが大切です。

将棋の駒の動かし方については、飛車の前の歩を突くとか、角の斜め前の歩を動かし、軌道を確保するなど、一定の決まりごと、定跡があります。そうした定跡を積み重ねていきながら、実戦の中で最善の一手を導き出す ―― 。

棋士ともなれば何十手先まで読みます。これまでの定跡を踏まえながら、何十手も先まで読み、新手、妙手を探り出していくのが棋士です。そうした中で、数々のタイトル戦で、対戦相手や見守る棋士たちが思わず唸る、卓越した一手を繰り出している藤井聡太棋士のセンスは、やはり尋常ではないということになります。

この点は、言葉もよく似ています。

こういう場合はこの語彙を使い、こうした言葉遣いをするといったルールを覚え、それを論理的に組み立てながら、文章化したり、会話に取り入れたりする。状況に合わせて言葉をセレクトする、定跡に似たセオリーというものがあるのです。それを積み重ねていきながら、文章作成能力を磨いていきます。

しかし、ある程度学習を重ねていくうちに、言葉が固定化してしまうことがあります。

型通りの、決まりきった紋切り型の表現しかできなくなってくるのです。

紋切り型の表現というと、何となく古くさく聞こえて、若い人にはわからないかもしれません。それは時代から少しずれているからですが、しかしながら教養のある言葉遣いと捉えることも可能です。

こうした観点から言葉を見ていくと、必ずしも時代に合わせる必要はないとも言えるでしょう。教養がある場合には、許される表現ということになるのです。

四象限を意識して言葉をセレクトする

言葉をセレクトするにあたっては、時代と教養という座標軸を定めて考えてみるといいでしょう。

第1が「時代に合っていて、教養もある」という理想的なゾーンです。
第2が「教養はあるが、時代に合っていない」というゾーン。
第3が「教養はないが、時代に合っている」というゾーン。
第4が「教養もなく、時代にも合っていない」というゾーン。

教養のある人がしている、言葉選びの作法
(画像=教養のある人がしている、言葉選びの作法)

この四象限を意識し、言葉を当てはめていくのです。

とくにこの中では、「教養もなく、時代にも合っていない」という言葉選びは避けたいものです。

ここで確認しておきたいのは、教養のある言葉遣いは古くさいと思われる一面がある一方で、古典であってもまさしく今の状況に当てはまる表現も少なくないことです。むしろ多いと言ってもいいでしょう。

つまり、「教養はタイムスパンが長い」のです。

センスのある言葉を発するには、現代的な感覚と常識が必要です。それにタイムスパンの長い教養を加えてベースとし、さまざまなシーンや状況を切り取る言葉をセレクトする能力がある人こそ、言葉のセンスがあるということになるのです。

教養のある人がしている、言葉選びの作法
齋藤孝
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞)、『雑談力が上がる話し方』『1冊読み切る読書術』(ダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。

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