本記事は、齋藤孝氏の著書『教養のある人がしている、言葉選びの作法』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

就活・ビジネスシーンにおけるセンスのいい発信法

エントリーシートで自分の良さを発信する

エントリーシート
(画像=maroke/stock.adobe.com)

就職活動、いわゆる「就活」で、自分をアピールする書類にエントリーシートがあります。ここで自分の良さを伝える文章を上手に綴ることができれば、就職試験の扉を開けることができます。

採用担当者はエントリーシートを何百枚、何千枚も読むのですから、その中で印象に残るようなアピールをする必要があります。

ポイントは、担当者に「この学生なら会ってみたい」と思わせること。「何を学んだか、どんな経験をしてきたか、自分が大学生活でどのように変わったか」を簡潔にまとめることが大切です。

王道は「大学で○○の理論を学び、そのおかげで世界観が変わり、多様な物の見方が身に付いた。それをベースに御社で○○の事業に取り組みたい」といった内容にまとめることです。それをエピソードを交えて具体化できればいいでしょう。

極端な話、バイト先での失敗談でもいいのです。たとえばコンビニでお客様からのクレーム対応に失敗したとします。そこで次に備えてどのような行動をとったかが重要です。

「注意するように心がけました」という抽象的な決意表明では響きません。

「ノートを取って自分の行動をチェックしました」とか「ミスしそうなことを書きだし、毎日仕事前に見るようにしました」といった具体的な変化を書きつけていれば、担当者は気づくはずです。「この学生は、失敗に学び、対処する力がある」と。

要は「この学生となら一緒に仕事をしてみたい」と思わせることが肝心なのです。

そのために、自分の良さをアピールするネタがどれくらいあるかをまず考え、箇条書きで書いてみて、自分の経験を深く捉え直してみましょう。それからエントリーシートに向かえば、自分の良さを具体的に伝える文章が書けるはずです。

そして書き終えたら、今度は立場を変え、自分が採用する側となって、自分の書いたエントリーシートを見直します。もし自分が採用担当者だったら「この学生に会ってみたいか」「一緒に仕事をしてみたいか」。そうして足りないところを補ったり、印象が悪いと思われそうなところは削除したりして、修正していくのです。

面接や商談は柔軟な応答で自分という人間を伝える場

就活の面接では、エントリーシート同様、自分の良さを出すことを心がけます。型通りの挨拶をし、常識的な応答をすることも、社会性の1つなので疎かにしてはいけません。キビキビとした受け答えを行い、聞かれたことに簡潔に答えるということも重要です。

脱線して聞かれていないことに答えたりすると、この人はコミュニケーションに問題があり、営業先でのやりとりで顧客の言うことを取り違えるかもしれない、と採用が見送られるケースもあります。

面接は用意してきたことを言う場ではなく、柔軟に応答する中で、自分という人間、人柄を伝える場なのです。以上のことは、ビジネスパーソンの商談にも通じます。

現代のビジネス文書の書き方

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(画像=Suriyo/stock.adobe.com)

ビジネスの世界も、メールが重要なビジネスツールとなり、ビジネス文書もそれに合わせた書き方が求められています。

ポイントは次の通り ―― 。

情報を整理し、簡潔にまとめること。要件を手短に伝えること。会社同士の関係性、上下関係を把握すること。適切な敬語を駆使し、礼を尽くすこと。そのうえでこの仕事に関わる自分という人間性を文書に加味していくことが求められます。

ビジネス文書はそれぞれの会社で定型のフォーマットがあるケースも多く、企画書や稟議書、報告書などはそれに則って書いていきます。フォーマットがない場合には、上司や先輩に尋ねるか、ネットで検索して、書き方を調べ、参考にするのがいいでしょう。

ビジネス文書はフォーマットを利用し、立場を踏まえた丁寧でソフトな物言いをする一方で、要件(要望・要求)をしっかり伝える必要があります。

具体的には結論(賛否)や要件(要望・要求)を先に書く。情報は箇条書きで示す。余計な修飾語は省き、過剰な比喩表現は避け、論理的な文章で構成するといったことなどが求められるのです。

ビジネスメールは「テンシュカク」で見直す

取引先との間でビジネスメールが行き交う中、曖昧な記述が致命傷になることがあります。

「見積は100万円程度だと思います」と事前に伝えていたのに、試算を見直して150万円の見積を提示したところ、「君は前に100万円と言ったじゃないか」と交渉が暗礁に乗り上げることもあります。過去のメールが証拠となるケースです。

そこで、金額などの約束はメールには記載せず、トラブルを避けて安全なやりとりだけに終始するというビジネスパーソンもいるようです。

しかしそれでは、メールの効用は失われ、仕事のスピード化はできません。

私は大学で、やがてビジネスの世界に旅立つ学生に向けて、「大事なのはテンシュカク」と教えています。「テンシュカク」というのは、「テンション・修正・確認」の頭文字を取った造語です。

「テンション」とは、気持ちの張り。元気ですね。気分を盛り上げて仕事に取り組み、ビジネスメールを効率的に活用すること。肝心なのは、曖昧な提示はせず、正式に決まったら臆せず金額を提示して先方の判断を仰ぐことです。

そして「修正」は、提出した文書や自分のやり方にダメ出しを受けたら、速やかに修正すること。何度ダメ出しを受けても、めげずに修正し応えることが重要です。

最後の「確認」は、自分の思いこみでやらないで、上司や顧客の意向をもう一度確かめること。「何となく大丈夫だろう」と、確認を省略して勝手な判断をしたりしない。重要な文書やメールの内容は、担当上司の確認を得てから提出するということです。

考えてみれば当たり前のことですが、そうした当たり前の手続きを無視してしまうと、ビジネスでは大きなトラブルを引き起こすことがあるのです。

「確認」には、以前決めた予定の前日確認メールも含まれます。相手方が予定を忘れている可能性もあるので、前日に確認することで確実になります。

教養のある人がしている、言葉選びの作法
齋藤孝
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞)、『雑談力が上がる話し方』『1冊読み切る読書術』(ダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。

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