不動産投資を行ううえで利回りの計算は極めて重要です。利回りには表面利回りと実質利回り、返済後利回りがあり、物件やエリアによっても相場が異なります。また、利回りを計算するには経費を把握しておくことも必要です。本記事では、ランニングコストや利回りの種類、物件・エリアごとの利回りの相場について徹底解説します。
目次
1.不動産投資の利回りの考え方
不動産投資の利回りには「表面利回り」「実質利回り」「返済後利回り」があり、収支をシミュレーションするうえで計算結果に大きな違いが出ます。はじめに各種利回りの概要と計算方法を確認しておきましょう。
1-1.表面利回り
表面利回りは、単純に年間家賃収入を物件価格で割った利回りです。毎月かかる諸経費は含めないため、実質利回りに比べて高めの利回りが算出されます。
そのため、中古不動産の売り出し広告ではほとんどが満室を想定した表面利回りを記載しています。数字を鵜呑みにして購入すると予想外に諸経費がかかり、期待した利回りが得られずがっかりする結果になりかねません。
ただし、表面利回りの意味を知ったうえで、利回りが高いか低いかの水準を簡易的に把握するにはよいでしょう。
表面利回り=年間家賃収入÷物件購入価格
1-2.実質利回り
実質利回りは、年間家賃収入から年間にかかった諸経費を差し引いた金額を物件価格で割った利回りです。利回りは低くなりますが、手取り収入がどれくらいになるかを把握できるので、より正確に収支をシミュレーションすることができます。
実質利回り=(年間家賃収入-年間諸費用)÷物件購入価格
1-3.返済後利回り
返済後利回りは、年間家賃収入から諸経費、ローン返済額を差し引いた金額を物件価格で割った最終利回りのようなものです。ローンを支払って最終的にいくら手元に残るかを知るための利回りです。
返済後利回り=(年間家賃収入-年間諸費用-年間ローン返済額)÷物件購入価格
1-4.表面利回りと実質利回りはどれくらい違うのか
同じ物件の収支を表面利回りと実質利回りでどれくらい違うのか比較してみましょう。年間家賃収入はどちらも同じですが、年間総経費を差し引かずに利回りを計算すると高めの数字が出ますので、甘い収支見通しを立ててしまう恐れがあります。
物件価格5,000万円、融資額4,000万円、金利2.0%、元利均等払い、返済期間35年、家賃収入月20万円、経費率20%
・表面利回りで計算した場合
年間家賃収入240万円÷5,000万円=4.8%(表面利回り)
・実質利回りで計算した場合
年間家賃収入240万円-48万円(年間総経費)÷5,000万円=3.84%(実質利回り)
表面利回りと実質利回りで約1%の差が出ます。一般財団法人日本不動産経済研究所が公表している「第46回不動産投資家調査(2022年4月現在)」によると、東京都内の賃貸住宅一棟の取引利回りは3.7~4.0%となっているので、実質利回り3.84%なら合格ラインの数字と判断できます。
2.実質利回りを計算するときに必要な諸費用とは
実質利回りを計算するときは、以下のような諸費用をランニングコストとして家賃収入から差し引く必要があります。ランニングコストは区分物件と一棟物件で異なるので、それぞれ確認しておきましょう。
2-1.区分マンションのランニングコスト
区分マンションは1室のみの所有ですので、諸経費はサラリーマン大家でも支払えるレベルの金額になります。
2-1-1.管理費
管理組合に支払う費用です。管理組合は集めた管理費からマンション運営に関するさまざまな費用を支払います。国土交通省が実施した「平成30年度マンション総合調査」によると、管理費の相場は東京圏で1万6,442円となっています。
2-1-2.修繕積立金
将来の大規模修繕に備えて、管理組合に支払う費用です。前述した「平成30年度マンション総合調査」によると、修繕積立金の平均額は駐車場使用料からの充当分を除いて1万1,243円となっています。
2-1-3.不動産管理委託料(委託管理の場合)
1室のみであれば自主管理も可能ですが、不動産管理会社に管理を委託する場合は、家賃の5%程度の委託管理料がかかります。
2-1-4.損害保険料
地震大国の日本では、火災保険だけでなく地震保険にも加入しておくと安心です。保険料は月払い、年払い、一括払いがあります。月払いは保険料が割高になるデメリットがあります。
2-1-5.固定資産税・都市計画税
2つの税を原則として年4回に分けて支払います。税率は、固定資産税が土地:課税標準額×1.4%、家屋:家屋の評価額×1.4%、都市計画税が土地・家屋の課税標準額×最大0.3%(限度額。自治体によって異なります)です。
2-1-6.減価償却費
毎月の支出は伴わないものの、確定申告の際に計上すべき費用として減価償却費があります。例えば、新築マンションの法定耐用年数は47年ですので、建物部分の価格が4,700万円の物件では4,700万円÷47=100万円を毎年減価償却費として計上します。土地部分は劣化しないため減価償却することができません。
2-1-7.所得税・住民税
不動産所得は総合課税となり、確定申告が必要です。確定申告の結果納めるべき税金が確定したら支払います。ただし、所得税・住民税は必要経費にはなりません。
2-2.一棟アパート・マンションのランニングコスト
一棟アパート・マンションは建物すべてを所有しますので、かかる費用も大きな金額になります。10室以上の物件は事業規模かどうかを判断する「5棟10室ルール」にあてはまるので、副業ではなく専業で行うオーナーが多いでしょう。
2-2-1.共用部分の水道光熱費
居室ごとの水道光熱費は入居者が支払いますが、共用部分でかかる費用はオーナーが支払います。エレベーターやオートロックなどがあるマンションは電気代が多めにかかります。
2-2-2.不動産管理委託料
一棟物件は建物全体の管理が必要なため、基本的に自主管理することは難しいでしょう。不動産管理会社に管理を委託し、管理委託料を支払います。
PM(プロパティマネジメント)費用とも呼ばれ、家賃総額の5%程度が相場といわれています。費用に含まれる項目は、家賃・共益費などの計算・徴収や、入居者の募集・審査・契約・退去の対応、鍵の保管・交換、入居者からのクレーム処理などです。
2-2-3.メンテナンス費用
建物を維持するためには定期的な清掃や点検が必要です。共用部分の清掃費用や消防設備点検費用はどのアパート・マンションでもかかります。この他にエレベーターや受水槽、浄化槽、機械式駐車場などの設備があれば別途清掃や保守・点検費用が必要です。
2-2-4.修繕費用
アパート・マンション経営に修繕は付きものです。定期的なメンテナンスの他に建物や各居室で修繕費用が発生する場合があります。主な費用は、入居者が退室する際の原状回復費用のオーナー負担分、エアコンや給湯器、受水槽の取替費用、外壁塗装・屋根・屋上・エレベーターなどの大規模修繕費用などです。
2-2-5.損害保険料
一棟物件では火災保険、地震保険のほか、建物の保守・管理で賠償事故が発生したときに補償される「施設賠償責任保険」に加入しておくと、あらゆる災害や事故に対応できます。
2-2-6.減価償却費
一棟マンションと一棟アパートでは法定耐用年数が異なります。マンションはほとんどが鉄筋コンクリート(RC)造ですので、新築の場合47年です。一方のアパートは多くが木造のため、新築の場合法定耐用年数は22年と短くなります。購入した物件が中古の場合は「新築の場合の耐用年数-経過年数×0.8」で計算します。
2-2-7.固定資産税・都市計画税
区分マンションと同様に一棟物件も固定資産税・都市計画税を支払います。
2-2-8.所得税・住民税
区分マンションと同様に確定申告して税金を支払います。
※ランニングコストは一例であり、物件の条件によって記載項目以外にも経費が発生する場合があります。
3.物件種類による利回りの違い
ある程度資金力のあるオーナーは一棟物件の経営を考えることがあるでしょう。区分マンションと一棟アパート・マンションの利回りはどの程度違うのか、不動産投資と収益物件の情報サイト「健美家」の「収益物件 市場動向マンスリーレポート2021年8月期」のデータから、物件種類ごとの利回りの水準を見てみましょう。同レポートは、物件種類ごとにエリア別の利回りが掲載されているため、利回りの比較に便利です。
3-1.区分マンションの利回り
不動産投資では区分所有マンションを購入する人が圧倒的に多いでしょう。「収益物件 市場動向マンスリーレポート」の調べ(以下同)によると2021年8月期の全国区分マンション表面利回りは7.24%で前期比-0.07%となっています。物件価格は1,583万円で前期比2.00%上昇しています。
3-2.一棟アパートの利回り
アパートは原則として一棟所有になります。一棟アパートの表面利回りは8.52%で前期比-0.08%、物件価格は6,998万円で-0.61%となっています。3つの物件種類で最も利回りが高いのが一棟アパートです。
3-3.一棟マンションの利回り
一棟マンションは価格が億単位になる物件が多く、増減幅が大きいのが特徴です。一棟マンションの表面利回りは8.03%で前期比0.03%上昇しています。物件価格は1億6,161万円で-3.01%となっています。
3つの物件種類を比較してみると区分マンションよりも一棟物件のほうが利回りは高いことがわかります。ただし、一棟物件は経費も多くかかることから実質利回りでは区分マンションのほうが高くなる可能性もあります。投資先を決める際は、実質利回りでシミュレーションして慎重に比較することが求められます。
4.エリアによる利回りの違い
同じく「収益物件 市場動向マンスリーレポート2021年8月期」から、物件種類別にエリアによる利回りの違いを見てみましょう。物件価格は健美家に登録された収益(投資用)不動産が調査対象になっています。物件価格は不動産ポータルサイトによって扱う価格帯が異なりますので、ここではエリアごとの利回り(表面利回り)に注目して見ていきます。
4-1.区分マンションの利回り
はじめに区分マンションの平均利回りを見てみましょう。区分マンションは東京・大阪など大都市を擁する首都圏・関西と他のエリアでは1ケタ違う利回りになっています。価格が高ければ利回りは低下するため、一般的な傾向と同じ結果が見られます。
4-1-1.首都圏の利回り
東京・神奈川・埼玉・千葉の首都圏区分マンションの平均利回りは6.73%となっています。平均価格は1,808万円です。首都圏にしては利回りが高い印象ですが、価格帯が低いことと諸経費を加味しない表面利回りで表示しているのが理由と思われます。実質利回りはもう少し低めになります。
4-1-2.東海の利回り
名古屋を含む東海の区分マンションの平均利回りは10.03%となっています。平均価格は1,209万円です。東海エリア全体の平均利回りですので、名古屋では10%を切るものと思われます。
4-1-3.関西の利回り
大阪を含む関西の区分マンションの平均利回りは7.39%となっています。平均価格は1,221万円です。関西圏では大阪が突出して価格が高いと予測できますので、利回りは5%前後になる可能性があります。
4-1-4.地方の利回り
上記以外に該当する地方の区分マンションの平均利回りは10.58~16.84%となっています。平均価格は374~1,930万円です。地方の利回りは10%を超えているので、魅力的に映るかもしれません。平均価格の幅が大きいのは、地方は大都市圏に比べてサンプル数が少ないため、平均値が極端になりやすいためです。
4-2.一棟アパートの利回り
次に一棟アパートの平均利回りを見てみましょう。一棟アパートは区分マンションに比べるとエリア間の利回りの差が小さいのが特徴です。東海の利回りが高いのが目立ち、関西を上回っています。
4-2-1.首都圏の利回り
首都圏の一棟アパートの平均利回りは8.22%となっています。平均価格は7,358万円です。首都圏でも3つの物件種類ではアパートが最も高く、一棟物件ではアパート経営のほうが利回りでは有利です。
4-2-2.東海の利回り
東海の一棟アパートの平均利回りは8.76%となっています。平均価格は6,181万円です。平均利回りは首都圏と拮抗しています。
4-2-3.関西の利回り
関西の一棟アパートの平均利回りは9.72%となっています。平均価格は5,405万円です。平均利回りが10%近くあり、関西ではアパート経営に妙味がありそうです。
4-2-4.地方の利回り
地方の一棟アパートの平均利回りは9.32~13.38%となっています。平均価格は3,630~5,578万円です。地方では福岡を擁する九州・沖縄が5,578万円で関西を上回る健闘を見せています。
4-3.一棟マンションの利回り
続いて一棟マンションの平均利回りを見てみましょう。一棟マンションは地方でも平均価格が1億円を超え、関西とそれほど大きな差はありません。平均利回りも福岡を擁する九州・沖縄は9.51%で、首都圏・東海・関西と大差ない数字となっています。
4-3-1.首都圏の利回り
首都圏の一棟マンションの平均利回りは7.50%となっています。平均価格は1億8,218万円です。平均価格が高いので、利回りはどうしても低くなってしまいます。
4-3-2.東海の利回り
東海の一棟マンションの平均利回りは9.33%となっています。平均価格は1億2,438万円です。関西より1%ほど利回りが高く、一棟マンションでは東海の優位性がうかがえます。
4-3-3.関西の利回り
関西の一棟マンションの平均利回りは8.31%となっています。平均価格は1億2,986万円です。首都圏の利回りとそれほど大きな差はありません。
4-3-4.地方の利回り
上記以外に該当する地方の一棟マンションの平均利回りは9.24~12.33%となっています。平均価格は1億1,531~1億5,289万円です。一棟マンションは地方でも平均価格が1億円を超えており、ある程度資金力がないと難しい投資であることがわかります。
▽エリア別表面利回り一覧
区分マンション | 一棟アパート | 一棟マンション | |||
---|---|---|---|---|---|
信州・北陸 | 16.84% | 中国・四国 | 13.38% | 中国・四国 | 12.33% |
中国・四国 | 15.41% | 北海道 | 12.00% | 信州・北陸 | 11.17% |
東北 | 13.20% | 信州・北陸 | 11.90% | 東北 | 10.26% |
北海道 | 12.09% | 東北 | 10.63% | 九州・沖縄 | 9.51% |
九州・沖縄 | 10.58% | 関西 | 9.72% | 東海 | 9.33% |
東海 | 10.03% | 九州・沖縄 | 9.32% | 北海道 | 9.24% |
関西 | 7.39% | 東海 | 8.76% | 関西 | 8.31% |
首都圏 | 6.73% | 首都圏 | 8.22% | 首都圏 | 7.50% |
※利回りや物件価格は健美家に登録された物件の平均であり、他の不動産レポートと数字が異なる場合があります。参考程度にお考えください。
5.利回りが低いのになぜ投資家は大都市圏の物件を買うのか
エリアごとの利回りを比較してみると、投資家がなぜ利回りの低い大都市圏の物件を買うのか不思議に思う人もいるのではないでしょうか。確かに利回りで比較すると不利に感じますが、どんなに利回りが高く表示されていたとしても、入居者がいなくては絵に描いた餅に過ぎません。
東京・横浜・名古屋・大阪など大都市圏は物件価格が高いため表面利回りは低くなりますが、需要が多いので空室リスクが低くなります。結果的に安定した収益が期待できるため、投資家は大都市圏の物件を好んで購入するのです。
とくに区分マンションは空室が出ると収入がなくなるので、安定して入居者が見込めるエリアの物件を購入する必要があります。収支計画を立てるうえで利回りを計算することは大事ですが、まずは入居者を確保できる物件を購入することが大前提であることを心得るべきです。人気エリアの物件を購入して安定した不動産投資の実現を目指してみてはいかがでしょうか。
(提供:Dear Reicious Online)
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