賃貸は高齢者ニーズ増。賃貸・売買需要はコロナ・円安でどう変化した?

新型コロナウイルスの感染拡大から3年が経とうとしています。コロナ禍以降、なかなか回復に至らなかった賃貸の業況は、行動制限の緩和でようやく以前の水準に戻りつつあります。一方、賃貸より回復が早かった売買の業況はどのように変化したのでしょう。データと仲介現場のリアルな声を交えながら直近の市場動向を解説していきます。

目次

  1. 【賃貸】コロナ第7波・物価高などマイナス要因はあったものの、業況回復傾向は維持
  2. 単身者向き物件の需要が鈍い一方、高齢者の問合せは増加
  3. 【売買】首都圏・近畿圏は2期連続で上昇となるも、首都圏DI=45、近畿圏DI=42をはさんだ小幅な動きが継続
  4. 実需では価格高騰で予算との乖離が起こる一方、円安で外国人によるインバウンド需要が増加

【賃貸】

コロナ第7波・物価高などマイナス要因はあったものの、業況回復傾向は維持

今回も、不動産情報サービスのアットホームが公表している「地場の不動産仲介業における景況感調査」から最新2022年7~9月期の業況を深掘りしていきましょう。

景況感調査とは、地域に根差して不動産業に携わるアットホーム加盟店を対象に、居住用不動産市場の景気動向について四半期ごとにアンケートを実施しているものです。都道府県知事免許を持ち、5年を超えて仲介業に携わる店舗の経営層にインターネットで調査し、前年並みを50 とする「業況DI」で数値化しています。
DI=50を境に、それよりも高ければ「良い」、低ければ「悪い」を意味しており、不動産仲介現場のリアルな営業実感が反映される調査結果といえるでしょう。

▽首都圏・近畿圏の業況判断指数(業況DI(前年同期比)の推移)

首都圏における22年7~9月期の賃貸の業況判断指数(DI)は43.5(前期比-2.8ポイント)と4期ぶりに下落、近畿圏でも39.1(同-2.5ポイント)と2期ぶりに下落しました。新型コロナウイルス第7波や猛暑が来店数に影響したことに加え、物価高や円安に伴う景気悪化が引越し需要を停滞させたことが一因と思われます。それでも前年同期比は首都圏で+4.6ポイント、近畿圏で+1.8ポイントと前期からのプラスを継続しており、21年Ⅲ期(7~9月期)以降の回復傾向は維持しています。
また、 2022年10~12月の業況の見通しは、首都圏46.7(今期比+3.2ポイント)、近畿圏45.4(同+6.3ポイント)と、ともに上昇が見込まれています。物価高や円安というマイナス要因はあるものの、住まい探しにおいてコロナが日常化してきたという声も多く、前向きな見方が大勢です。

単身者向き物件の需要が鈍い一方、高齢者の問合せは増加

さて今回の景況感調査では、キーワードの登場頻度や特異性などを文字の大きさで示す「ワードクラウド」の手法で不動産店からのコメントの傾向を可視化し、業況判断に影響を与えた要因を探ってみました。

ご覧の通り、賃貸では『コロナ』『単身者』『高齢者』といったワードが多く登場しています。
『コロナ』については、「コロナが日常化し、過去1~2年の反動で人事異動を含めた人の動きが出てきた」「コロナ感染増でも一定のニーズがある。急ぎではない引越しを検討する人が多い」など、比較的前向きなコメントに使われるケースが増えました。

また、来店者の属性に関するワードを見ると、『単身者』については「単身者の動きが少なくワンルームの需要が減少」「単身者でも1LDKなど広めの部屋を希望する人が多い」といったコメントが目立ちます。一方、『高齢者』については「高齢者の来店割合が多く、希望家賃は前年より下がっている」「土地高騰の影響か、自宅を売却して賃貸に入居する高齢者が多い」など、家賃負担の軽減を含めた居住環境の改善や、住まいを売却して賃貸へ転居しようとする動きが増えていることがうかがえます。増加する高齢者ニーズへの対応が入居対策のカギとなりそうです。

【売買】

首都圏・近畿圏は2期連続で上昇となるも、首都圏DI=45、近畿圏DI=42をはさんだ小幅な動きが継続

売買仲介における7~9月期の業況DIは、首都圏45.9(前期比+0.6ポイント)、近畿圏43.7(同+1.3ポイント)といずれも2期連続で上昇しました。この1年、首都圏ではDI=45、近畿圏ではDI=42をはさんだ小幅な動きを繰り返していますが、10~12月期の見通しDIも同レンジ内での動きが見込まれています。

▽首都圏・近畿圏の業況判断指数(業況DI(前年同期比)の推移)

実需では価格高騰で予算との乖離が起こる一方、円安で外国人によるインバウンド需要が増加

直近の売買の特徴としては、郊外移住、リフォームを伴う中古住宅購入、投資案件を含めた購入需要があるため業況は底堅く推移しているものの、さまざまな要因が成約を妨げていることがうかがえます。不動産店のコメントにおいても、長引くコロナ禍、物価高・円安を背景にした経済・景気の先行き不安が多くを占めています。

中でも大きな足かせとなっている要因は物件価格の高騰です。下図「ワードクラウド」を見ても『価格』というワードが大きく、業況判断の要因を占めていることが分かります。『価格』を用いた不動産店のコメントには「物件価格が高止まりして一般消費者が手を出せない」「物件不足から土地の価格が上がってきている」など予算との乖離が指摘されています。

次いで目立つ『購入』のワードは、実需においては「中古価格が高止まりしているため購入を悩む人が多い」など消費者の買い控えや条件見直しの動きに伴い使われている一方で、「円安のため外国人が日本の物件を購入している。問合せも増えた。」というインバウンド需要の増加を指摘する声も多いことが特徴的です。

新型コロナウイルスの収束はいまだ見えないものの、不動産取引におけるコロナの影響は限定的になりつつあります。アットホームの景況感調査では、仲介現場から届く期待と懸念の両側面を捉えてレポートしていますので、投資判断等のお役に立てば幸いです。

磐前淳子(いわさきじゅんこ)
磐前淳子(いわさきじゅんこ)
アットホームラボ株式会社 データマーケティング部 部長。不動産情報サービスのアットホームに入社後、営業職・企画職などに従事。2019年5月、アットホームのAI開発・データ分析部門より独立発足したアットホームラボの設立に伴い、現職。不動産市場動向や業況の分析などを担当し、各種レポートの公表のほか、講演・執筆、メディア対応などを行う。最近の主な講演・執筆テーマに「仲介の現場からひも解く最新の入居者ニーズ」「コロナ禍がもたらした不動産市況の変化」「貸店舗の募集動向」など。