本記事は、野上麻理氏の著書『ピークパフォーマンス』(WAVE出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

《思考のエネルギー》を上げる

思考,エネルギー
(画像=chaylek/stock.adobe.com)

ルーティンをつくると集中力が高まる

身体が元気で感情がポジティブだったら、次にエネルギーコントロールでできるもの。それは集中力です。

「コーポレートアスリート」という概念は、もともとスポーツから発生しているからか、集中力を大変重視しています。

実際、多くのスポーツで、勝負を決める大きな要素は集中力といっていいでしょう。世界のトップアスリートの多くが、技術面だけではなく精神力、集中力に関するコーチをつけているのは普通のことになっています。

世界大会のような大舞台で結果を出そうとしたら、技術面はもちろんのこと、集中力に基づく勝負強さが重要。そして、集中力はトレーニングで身につくものなのです。

集中力を上げる方法として、一流スポーツ選手の多くは、大事なことをする直前にルーティンをしています。

例えば、野球のイチローは、バッターボックスで儀式のように同じ動作をする。ラグビーの五郎丸は、プレイスキックの前に忍者のように指をからませる、テニスのナダルは、サーブ前に髪・鼻・耳をなでる……などです。

集中力というのは意識の世界のことなので、自分でコントロールできて、自分にしかコントロールできないものです。

集中力を高めるためのトレーニングの前にやらないといけないのは、いつ集中するかを決めることです。

スポーツ選手であれば、試合があって勝ち負けがあるので、これは簡単なのですが、ビジネスのプロの場合は、集中すべき勝負どころはここ、というのを自分で見極めて決めることが重要です。

リハーサルをすると本番で実を結ぶ

昔読んだ「日経ビジネス」の記事に、元日本GE社長兼CEOの藤森義明氏が、ジャック・ウェルチ氏から本社でプレゼンするように言われたとき、毎日3時間、外国人を呼んで練習したというエピソードがありました。

ちょうど日本の商社からGEに転じたばかりの頃で、そのときに外国人の同僚の方から、「プレゼンが勝負」というアドバイスを受けたのだそうです。「あのジャック・ウェルチに言われて本社でプレゼンするのに、失敗したらそこで人生は終わる」という気持ちで臨んだそうです。

このエピソードを読んだときに、ああ、私と同じだと思いました。私も30代前半のとき、次にキャリアアップできるかどうかの瀬戸際で、まったく新しいカテゴリーに、しかも1人目の子どもを出産して3カ月で着任したとき、まったく同じ経験をしました。

私を産休明けにそのポジションに引っ張ってくれた上司は、以前から私のことを知っていて、能力面でも信頼をおいてくれていたのですが、そのまた上司に当たるジェネラルマネージャーは、私のことを全然知りませんでした。

100人以上も集まるビジネスアップデート・ミーティング。準備の段階で上司が、「今回はあなたのデビューだから、しっかりやりなさい」と言ってくれました。

まだ部下も含め、まわりの人にカテゴリーやブランドの理解が及ばないことはわかっていましたから、入念にリハーサルをして、本番に挑みました。結果、われながらなかなかよい出来でした。

その結果に、ジェネラルマネージャーが私に高評価をしてくれたことを知って、ここぞというがんばりどころを教えてくれた上司に感謝しました。

このようなアドバイスは、経験を積んだ先輩やメンター、上司だからこそ教えてくれるのです。私も今では、後輩や部下に意識的にアドバイスを送ります。アストラゼネカの時代にも、日本人チームでここぞというプレゼンをする前は、みんなで作戦会議をやって備えました。

日本人の感覚だと、

「常にがんばっていれば、お天道様が見てくれている(誰かが評価してくれている)」

などと思いがちですが、常にしっかり働くことに加えて、ビジネスマンでもフリーランスでも、自分のキャリアを左右する重要な出会いやプレゼンがあるものです。

最初の頃は、それがいったいいつなのか、自分ではわからないものですが、意識してそういう場を探し、そこに向かって集中力を上げる訓練を積んでおくことは、重要だし、可能なことです。

リハーサルこそルーティンにする

スポーツでの訓練方法としてもっとも有名なのは、「イメージトレーニング」です。勝負の前に、自分がその場面にいて成功しているイメージをなぞる。これを何度も繰り返していると、本番での成功率が上がってきます。

同じことが仕事でも言えます。ここぞという会議、発表などの前に自分で一度リハーサルをしておくのです。

私もプレゼンの前には、必ず自分でリハーサルをします。原稿を手に持っていても、ほとんど見る暇などなく、リハーサルの再現になることが多いので、リハーサルでのイメージが明確でよくできていればいるほど、本番もうまくいきます。

リハーサルのポイントは、本番で身体が自動的に「あ、これ、やった」とデジャブのように反応して、物事(発表、司会など)をなめらかに行うことなので、ポイントは、できるだけリアルに練習しておくこと。発表の場を思い浮かべて、実際に身体を動かし、口に出して行います。

1つ注意しないといけないのが、リハーサルをしておいたのに、とくに会議などで、まったく予測していなかった流れになり、パニックになってしまうこと。

そういうときは、とにかく一度深呼吸をして、自分が描いていた流れどおりでなくても、リハーサルのときに描いていたポジティブで積極的な感情に戻ることができれば、うまくいくことが多いものです。

そのためにも、スポーツ選手のルーティンのように、プレゼンを始めるときには必ず一度目をつぶるとか、部屋には左足から入るとか、自分がコントロールできる習慣(何かを始めるときの決まりごととしての〝儀式〟)をつくることをおすすめします。

この《思考のエネルギー》でも、3つのステップがあるので、マスターしてしまいましょう。

(1)勝負どころ、集中のしどころを知る
先輩や上司のアドバイスを受けて、積極的に見極める。
(2)リハーサルをする
必ず場面を思い浮かべて、実際に身体と口を動かして行う。
(3)動作の初めに〝儀式〞を意図的につくる
本番ではリハーサルのときのスムーズな感覚を取り戻せるようにする。

発表の機会がなくても「場」はつくれる

自分の仕事だと、大きな発表の場があまりなく、仕事の上では勝負のしどころがなく、人前に立つ機会がないという方は、ふだんの生活の中で人前で発表したり会議の進行役を買って出たりする機会を持つことです。

私は「よこの会」という、関西をベースにした女性の異業種交流会に参加しています。

この会の目的の1つに、

「働く中で、企画する、交渉する、やってみたいけれど試す場がないという方に、行動を起こしてもらう。失敗も含めて経験を積むことでお互いに成長する」というのがあります。

最初にこの目的を聞いたときに、私は入社した日から全員がリーダーという外資系の職場で仕事をスタートするという特別な環境にいたために、多くの機会を与えられていたことが、いかに恵まれたことであったかを理解しました。

日本の企業では、若いという理由で発表の場が回ってこない人は多いでしょう。また、研究職なので人前で発表する機会が少ないという人もいるでしょう。

それが異業種交流会であれば、自分の興味のある分野で、企画立案や交渉について、経験のある方のアドバイスを受けながら行うことができます。

PTAや子どもの海外キャンプをサポートするボランティア団体で要職を務めたことで、発表や挨拶の機会が圧倒的に増えたという人もいます。

自分が何かをリードする、それによって物事を達成する機会は、たとえ仕事でなくても、積極的に関わっていけば、ここぞという集中力を発揮できる場を増やせます。

ピークパフォーマンス
野上麻理
◎1969年大阪府生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学)卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパン㈱入社、マーケティングに従事。第一子出産後、SK-IIブランドマネジャー、東アジアスキンケアマーケティングディレクターに就任する。
◎第二子出産後、37歳で部下が2,000人を超えるマックスファクタージャパン(P&Gスキンケア・化粧品事業部)のプレジデントに就任。P&Gブランドオペレーション&マーケティングヴァイスプレジデントを経てアストラゼネカ㈱プライマリーケア取締役事業本部長に着任。執行役員マーケティング本部長として国内全製品のマーケティングを統括し、スウェーデン海外赴任。グローバルポートフォリオグループの呼吸器領域・吸入療法製品のグローバルブランドヘッドに。
◎帰国後、アストラゼネカ㈱の執行役員コマーシャルエクセレンス本部長、呼吸器事業本部長。その後、2018年9月より2021年3月末まで武田コンシューマーヘルスケア㈱(現アリナミン製薬㈱)取締役社長を務める。
◎趣味は息子の誕生とともに35歳で始めたマラソンで3時間15分を切り、トライアスロンデビュー。石垣島トライアスロンで年代別2位。

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