この記事は2023年2月3日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「強まる賃上げ要求でユーロ圏の高インフレは長期化」を一部編集し、転載したものです。


強まる賃上げ要求でユーロ圏の高インフレは長期化
(画像=andreyphoto63/stock.adobe.com)

(欧州中央銀行「協約賃金指数」ほか)

ユーロ圏では、エネルギー価格に加えてサービス価格も上昇している。EU統計局によると、サービス価格は2022年12月に前年比4.4%上昇した(図表1)。これは1999年のユーロ圏成立以来、最高の伸びである。輸送サービスや、飲食・宿泊など対面型サービスを中心に、サービス価格の値上げの動きが幅広い分野で広がっている。

サービス価格上昇の背景には、急速に進む賃金上昇がある。欧州中央銀行(ECB)の「協約賃金指数」によれば、ユーロ圏の賃金は2022年7~9月期に前年比約3%と13年ぶりの高い伸び率となった。協約賃金は労使間で妥結された平均賃金であり、特別賞与や社会保障負担を含まない基調的な賃金指標として、ECBが重視している。

賃金の上昇要因は、労働需給の逼迫だ。コロナ禍から経済活動が急ピッチで正常化したことを受けて、労働需要は労働供給を上回るペースで回復した。EU統計局によれば、22年11月の失業率は6.5%と過去最低水準であった。労働力不足を経済活動の阻害要因に挙げる企業は3割近くに達する。

労働力不足に加えて、賃上げ要求が強まっていることも賃金を押し上げている。ユーロ圏諸国では、産業別に組織された大規模な労働組合が労使交渉を実施する。そこで妥結された労働協約が適用される労働者の割合は他の主要国に比べて高く、交渉結果が幅広い労働者に及ぶ(図表2)。

足元では、物価上昇に対する生活保障を求めてストライキが頻発している。例えば、ドイツ最大の労働組合であるIGメタルが大規模なストライキを実施し、8.5%の賃上げ(金属・電気部門)で経営側と合意した。そのほか、フランスやスペインでも、運輸や医療、エネルギーなど幅広い業界でストライキが実施されている。

こうした賃上げ要求の強まりが一段の物価上昇を招き、ひいては賃金と物価のスパイラル的な上昇が生じかねない。この場合、ECBはインフレ沈静化に向けてさらなる利上げを強いられ、ユーロ圏諸国の景気後退は一段と深刻化する恐れがある。

強まる賃上げ要求でユーロ圏の高インフレは長期化
(画像=きんざいOnline)
強まる賃上げ要求でユーロ圏の高インフレは長期化
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日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 研究員/後藤 俊平
週刊金融財政事情 2023年2月7日号