2023年10月から、インボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。小規模事業者は消費税の負担が増える可能性がありますが、2023年度税制改正大綱において納税額の負担軽減措置が盛り込まれました。登録するか悩んでいる小規模事業者は、軽減措置について理解しておくことが大切です。

本記事では、インボイス制度の「2割特例」やその他の支援措置について解説します。

インボイス制度とは?

インボイス制度の「2割特例」とは?小規模事業者の税負担が軽減される?
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インボイス制度とは、「インボイス(適格請求書)」と呼ばれる一定の記載事項を満たした請求書を発行し、保存する制度です。

2019年10月の消費税率引き上げに伴い、現行制度では「8%」「10%」の2つの税率が混在しています。取引や商品ごとに、どちらの税率が適用されているかを明確にするため、インボイス制度が導入されることになりました。

インボイスを発行するには、税務署に届出を行い、「適格請求書発行事業者」として登録を受ける必要があります。

小規模事業者(免税事業者)は2つの選択肢がある

インボイス制度への対応として、小規模事業者(免税事業者)は以下2つの選択肢があります。

適格請求書発行事業者(課税事業者)になる

1つ目は、インボイス発行事業者の登録を受けて、消費税の課税事業者になることです。

発行事業者の登録申請は、原則として課税事業者しかできません。しかし、2023年10月1日~2029年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられています。この場合、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要です。

発行事業者になると、消費税の申告・納付の義務が生じます。売上に係る消費税を全額受け取れなくなるため、手取りが減り、申告手続きの手間もかかる点に注意が必要です。

適格請求書発行事業者にならない(免税事業者のまま)

もう1つは、インボイス発行事業者にはならず、免税事業者のまま取引を続けることです。発行事業者にならなければ、これまでと同じように消費税の申告・納付は必要ありません。

ただし、発行事業者の登録を受けないと、インボイスを発行できません。取引先(買手)はインボイスがないと仕入税額控除を受けられず、消費税の負担が増えてしまいます。そのため、免税事業者のままでは、取引先から取引縮小・解消を求められる恐れがあります。

小規模事業者が対象の「2割特例」とは?

免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になる場合は、消費税の納税額の軽減措置(2割特例)が適用される予定です。ここでは、2割特例の概要や具体例、不利になるケースを紹介します。

納税額が売上税額の2割に軽減される

2割特例とは、インボイス発行事業者の登録を受けて免税事業者から課税事業者になった場合に、消費税の納税額が売上税額の2割に軽減される支援措置です。「基準期間(2年前)の課税売上が1,000万円以下」などの要件を満たす人が対象です。

対象期間は「2023年10月1日~2026年9月30日を含む課税期間」で、個人事業主は2026年分の申告までが対象となります。

2割特例の具体例(本則課税・簡易課税との比較)

消費税の申告方法は、「本則課税」と「簡易課税」の2つがあります。

本則課税:売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引いて消費税額を計算する方法
簡易課税:売上高に業種に応じたみなし仕入率(40~90%)を乗じて消費税額を計算する方法

2割特例を利用すると、本則課税や簡易課税に比べて消費税の納税額がどれくらい軽減されるかを確認してみましょう。

サービス業で売上700万円(税額70万円)、経費150万円(税額15万円)の場合、消費税の納税額は以下の通りです。

申告方法消費税の納税額
2割特例70万円×20%=14万円
本則課税70万円-15万円=55万円
簡易課税70万円-35万円(70万円×50%)=35万円
※サービス業のみなし仕入率は50%

納税額は本則課税が55万円、簡易課税が35万円ですが、2割特例であれば14万円に軽減されます。

2割特例は、税率ごとに売上を把握するだけで消費税の納税額を計算できます。事前の届出も不要で、申告時に適用するかを選択可能です。

2割特例が不利になるケースもある

業種によっては、2割特例が不利になるケースもあります。具体例を確認してみましょう。

卸売業で売上700万円(税額70万円)、経費150万円(税額15万円)の場合、2割特例と簡易課税の納税額は以下の通りです。

申告方法消費税の納税額
2割特例70万円×20%=14万円
簡易課税70万円-63万円(70万円×90%)=7万円
※卸売業のみなし仕入率は90%

2割特例の納税額は14万円ですが、簡易課税であれば7万円で済みます。

簡易課税のみなし仕入率は、事業区分に応じて以下のように定められています。

事業区分該当する事業みなし仕入率
第1種事業卸売業90%
第2種事業小売業80%
第3種事業農業・林業・漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業70%
第4種事業飲食店業など(第1~4種および第5~6種事業以外の事業)60%
第5種事業運輸通信業、金融・保険業、サービス業50%
第6種事業不動産業40%

ほとんどの事業は、2割特例を選択したほうが納税額を抑えられます。しかし、卸売業はみなし仕入率が90%となるため、簡易課税のほうが有利です。

インボイス制度に関するその他の支援措置(小規模事業者向け)

免税事業者からインボイス発行事業者になる場合は、2割特例の他にも支援措置があります。ここでは、小規模事業者が利用できるその他の支援措置を紹介します。

インボイス登録で持続化補助金が上乗せ

持続化補助金とは、小規模事業者の販路開拓や業務効率化などの取り組みを支援する制度です。申請内容が認められると、補助対象経費の一部について補助を受けられます。

補助上限は通常50~200万円ですが、インボイス発行事業者になると50万円が上乗せられ、補助上限が100~250万円にアップします。

2023年4月以降も登録可能

2023年10月1日からインボイス発行事業者の登録を受けるには、原則として2023年3月までに申請書を提出する必要がありました。また、2023年4月以降に申請して2023年10月1日から発行事業者の登録を受けるには、申請書に「3月末までの申請が困難な事情」の記載が求められていました。

しかし、2023年度税制改正大綱において「登録申請手続きの柔軟化」が盛り込まれたことで、困難な事情を記載しなくても2023年4月以降の登録申請が可能になります。

小規模事業者(免税事業者)は課税事業者になるべき?

小規模事業者(免税事業者)は、インボイス発行事業者の登録を受けて課税事業者になるべきなのでしょうか。ここでは、課税事業者になるかどうかの判断基準を紹介します。

発行事業者になり簡易課税を選ぶのがおすすめ

多くの小規模事業者は、インボイス発行事業者となって簡易課税を選ぶのがおすすめです。インボイスを発行しないと取引先は仕入税額控除を受けられないので、取引縮小・停止のリスクが高まります。課税事業者になると手取りは減りますが、今まで通り取引を続けられるでしょう。

簡易課税を選択すれば、みなし仕入率に基づいて納税額を計算するので、事務負担の軽減が期待できます。業種にもよりますが、仕入額がそれほど多くない場合は、本則課税より簡易課税のほうが納税額を減らせる可能性が高いでしょう。

2割特例は時限措置なので、本則課税と簡易課税のどちらを選ぶか検討しておくことが大切です。

免税事業者のままでよいケースは?

インボイス制度が導入されても、免税事業者のままでよいケースもあります。具体的には以下の3つです。

・ほぼ100%が消費税の非課税取引である場合(賃貸マンション・アパートの大家など)
・ほぼ100%が消費者向け取引の場合
・取引縮小・停止のリスクが少ない場合

例えば、賃貸マンション・アパートの大家の場合、家賃収入の消費税は非課税です。そのため、居住用の賃貸のみを行っている場合は、インボイス制度の影響は少ないでしょう。

消費者向けの商品・サービスしか扱っていない事業者も、インボイスの発行を求められないので、影響はほぼありません。

また、ライバルが少なく、取引縮小・停止のリスクがほとんどない事業者も、発行事業者になる必要性は低いといえるでしょう。

まとめ

小規模事業者(免税事業者)がインボイス発行事業者の登録を受けると、消費税の申告・納付の義務が生じます。ただし、2023年度税制改正大綱において、納税額が売上税額の2割に減額される「2割特例」が盛り込まれたため、当面は税負担の軽減が期待できます。

事業内容によっては免税事業者のままでも影響はないので、発行事業者の登録は慎重に判断しましょう。

(提供:Incomepress



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