不特法アドバイザーとして数多くの事業者をコンサルする行政書士の石井くるみさんに、不動産クラウドファンディングが人気の背景や、今後どのように市場が変化していく可能性があるかを伺います。

インタビュー 日本橋くるみ行政書士事務所  前編
(画像=YANUSY編集部)

【石井くるみさんのプロフィール】
不動産と金融を専門とする「日本橋くるみ行政書士事務所」代表。とくに最近では、不動産特定共同事業に関する専門家として、許可申請サポートや法務コンサルティングの分野で活躍。 国交省「不動産特定共同事業(FTK)の多様な活用手法検討会」総括会委員でもある。早稲田大学・政治経済学部卒。(公財)消費者教育支援センターに研究員として従事後、法律事務所勤務を経て、日本橋くるみ行政書士事務所開設。

目次

  1. 投資家目線では資金の透明性、事業者目線では規制の緩やかさが魅力
  2. 「利回り+共感」の不動産クラウドファンディングに進化すれば可能性が広がる
  3. 社会的に意義のある不動産クラウドファンディングを根付かせるために

投資家目線では資金の透明性、事業者目線では規制の緩やかさが魅力

-石井さんのもとには不動産クラウドファンディングに参入したい事業者から相談が入ってくるそうですね。最近の問い合わせの状況はいかがでしょうか。

全国の企業から多くの問い合わせをいただいている状況が続いています。

-事業者の参入意欲が旺盛ということは、不動産クラウドファンディングの市場は、引き続き好調が続きそうですね。不動産クラウドファンディングがここまで盛り上がっている理由は何でしょうか。

安定した利回りの投資商品が個人投資家の資産運用ニーズに合致しているからだと思います。少し前までは、安定利回りの投資商品と言えば、貸付金を投資対象とするファンドであるソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)が代表的でしたが、ソーシャルレンディング事業者の不祥事案が相次いで発生し商品の供給が減った結果、不動産クラウドファンディングが新たな受け皿になっている印象です。

-安定利回りというのは投資家側からの目線でしたが、事業者側から見た不動産クラウドファンディングの魅力メリットは何でしょうか。

現物不動産を投資対象とする不動産クラウドファンディングは、不動産特定共同事業法(不特法)という法律の規制対象となります。不特法は国土交通省がメインの監督官庁です。これに対し、ソーシャルレンディングは金融商品取引法(金商法)という法律の規制対象となり、これは金融庁が監督官庁です。金融庁が所管する金商法よりも、国土交通省が所管する不特法のほうが規制が緩やかであるため、事業者としては参入しやすいというメリットがあります。

「利回り+共感」の不動産クラウドファンディングに進化すれば可能性が広がる

-ここまでのお話を伺うと、不動産クラウドファンディングは投資家、事業者双方にメリットがあることがわかりました。さらに今後どのように発展していくと予想されていますか。

現在の不動産クラウドファンディングは利回りの高さを謳う商品が多い印象ですが、それにプラスして「環境や地域社会に貢献する投資」という商品が増えれば、更に魅力が高まると思います。

投資家の方々が資金を集める事業者の経営理念やパーパス(存在意義)に共感していて、地域の不動産への投資を通じて、より良いまちづくりを目指していくような流れが広がっていくと、さらに大きな市場に発展していく可能性があるのではないでしょうか。

-「利回りのみ」の不動産クラウドファンディングではなく、「利回り+共感」の不動産クラウドファンディングですね。

昨今のESGやSDGsの流れを受けて、空き家利活用や、その地域に残していきたい不動産を再生していこう、といったプロジェクトが増えています。

たとえば、空き家になっている物件を「地域住民が集まるようなコワーキングスペースやカフェにしたい」と考えたとします。それを実現するために資金調達が必要になった場合に、共感投資としての不動産クラウドファンディングが広がっていけばよいと思います。とくに地方には、ユニークで面白い取り組みにチャレンジされている不動産事業者が多いので、不動産クラウドファンディングが、資金調達の面で彼らを支える役割を担えるようになるとよいですね。

ESG、SDGs、共感などのキーワードが並ぶと大げさに感じる人もいるかもしれませんが、投資家一人ひとりの身近に共感できるものでよいと思います。たとえば、自分の住んでいる地域とか、実家のある地域の不動産クラウドファンディングのプロジェクトに投資していく、というイメージです。

不動産クラウドファンディングに興味を持つ大家さんや個人投資家は、その案件の社会における持続可能性(サスティナビリティ)もぜひ意識していただければと思います。

不動産は、住む人や使う人がいる、つまり、社会に必要があっるからこそ存在しています。その不動産に対して、投資家のESG、SDGs、共感投資の意識を高めつつ、金融リテラシーを向上させていけば、社会的に意義のある不動産クラウドファンディングは、利殖のみを目的とする株式投資やFXとは違う価値を提供できると思います。

社会的に意義のある不動産クラウドファンディングを根付かせるために

-石井さんが提唱される共感型の不動産クラウドファンディングが広がるには、不動産そのものに対する価値観も変えていかなければなりませんね。

これまでの不動産業界では、古い建物を壊して新しい建物を建築し、完成後は即売却する「スクラップ&ビルド」という開発手法が高収益ビジネスモデルの主流であり、今もその発想が強く根付いています。

しかし、人口減少が続き空き家が急増する今後の日本社会においては、古くなった不動産でもまだまだ使えるものは、スクラップ&ビルドではなく修繕(リノベーション)をして大事に使っていこう、という発想が持続可能性の観点からは重要になると思います。

また、これまで「開発した不動産は即売却」というのが不動産業界の常識でしたが、モノよりもサービスの価値が高まるこれからは「開発した不動産を所有しながら運営する」という構想を持つプレイヤーがもっと増えてほしいと思います。

例えば、介護施設を開発するデベロッパーや建築する建設会社が介護事業に進出して、自社建設のこだわりの施設を自ら運営して地域社会に貢献する、といった感じです。

こういった社会に役立つ不動産を、地域のみんなでお金を出し合って所有していくのが不動産クラウドファンディングの目指すべき姿だと思います。先ほどの文章に付け足すと「開発した不動産を地域みんなで共有しながら運営する」といったところでしょうか。

-お話を伺うことで、不動産クラウドファンディングの魅力と可能性が再認識できました。ありがとうございます。(インタビュー後編に続く)

(提供:YANUSY

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