本記事は、船越栄次氏の著書『なぜ、歯ぐきが健康な人ほどいつまでも長生きできるのか』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています。

歯
(画像=valiantsin/stock.adobe.com)

20代でも歯が抜ける「侵襲性歯周炎」の恐怖

このスリランカ・スタディ以降も同じような研究が数多く行なわれてきましたが、いずれも歯周病患者の10パーセント前後はやはり急速に進行し、重症になることが報告されています。

このように、急速に進行するタイプの歯周病を、「侵襲性歯周炎」といいます。

同じ歯周病でも進行速度が大幅に異なるのは、歯周病菌の種類が関係しています。

歯周病を引き起こす細菌は1種類ではなく複数存在し、そのうちほとんどの歯周病菌は、数十年という長期的なスパンでゆっくりと侵食していきます。このタイプの歯周病菌は、人の口の中にもともと棲んでいる常在菌です。

一方、侵襲性歯周炎を引き起こす歯周病菌は、だれもがもっているわけではない、特異的な細菌です。たとえば、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、この菌は存在しません。人から人へと感染する菌であり、感染経路として多いのは、特異的な菌をもっている親から子へとうつる「垂直感染」と、夫婦間でうつる「水平感染」です。

この特異的な菌が棲みついてしまうと、非常にやっかいです。歯槽骨の吸収が一気に進みますので、感染したらとにかく早く治療を受ける必要があります。

しかし残念ながら、歯科医師の間でも侵襲性歯周炎に対する認識が十分に浸透していないという実情があり、診療や健診を受けても見過ごされるということも少なくありません。

こうしたリスクを避けるためには、歯ぐきの異変に気づいたら、歯周病専門医の在籍する歯科医院をできるかぎり早く受診することが重要です。

もちろん、歯周病の治療は、免許をもっている歯科医師ならだれでも行なうことができます。しかし歯周病の適切な治療を受けるためには、専門的な知識やスキルが不可欠であり、私は「歯周病専門医」を受診することをおすすめしています。

歯周病専門医には、「認定医」「専門医」という2つの資格があります。

認定医は、研修施設で3年以上の研修を受け、基本的な歯周治療の知識と技量をマスターしたうえで、認定医試験に合格した歯科医師に認められるものです。一方の専門医は、認定医取得後、2年以上の研鑽を積み、さらにより多くの知識や技量が要求されます。きびしい口頭試問による試験に合格することで、専門医の資格が与えられるのです。

どちらの資格も、特異的な歯周病である侵襲性歯周炎に対して、十分な知識と治療技術を有するのはもちろん、重症化した場合の外科手術など、より高度な治療にも対応しています。

さらに指導医は、専門医取得後7年間、学会および地域での指導的な研修を行ない、指導医試験に合格したものが「歯周病指導医」となります。認定医および専門医の積極的育成を担うのです。

歯科医院によっては、歯周病菌の種類を特定する検査を行なうところもありますが、私自身は長年の臨床経験から、こういった特異的な菌が関与している可能性を疑った場合、抗菌薬を投与しています。すると次の来院のときには、ほとんどのケースで回復が見られます。

歯周病を食い止めるためには、「異常にいち早く気づくこと」が不可欠

歯周病は人類と古くから深い関わりをもちながら、実に長い間「治らない病気」とされてきました。しかし現在ではさまざまな研究が進み、全身疾患と歯周病との関係についても明らかになりつつあります。

現に最近では、口の中の細菌と腸内細菌との関係、あるいはがんとの関わりを示すデータも出てくるなど、新たな事実が発見されています。

医療現場でも、がんの手術前に歯周病治療をはじめとする口腔機能管理を行なうことで、入院日数が大幅に減るというデータが示されました。その結果、多くの病院で手術前の口腔機能管理が実施されるようになったのです。

口の中の細菌は、全身の健康状態と切っても切れない関係にあります。歯周病を放置することがさまざまな場面でリスクになること、逆に歯周病を治せばそのリスクを減らせることも、非常に注目すべきポイントです。

歯周病の重要性やその恐ろしさが明らかにされる一方で、治療についての研究も飛躍的に進みました。

かつては、「いちど溶けてしまった歯槽骨はもとには戻らない」といわれてきましたが、現在では再生療法も行なわれるようになり、骨の吸収がかなり進行した状態であっても、歯を抜かずに治療できるようになりました。

とはいえ、なかには治療が難しく、抜歯せざるをえない場合もあります。しかしインプラントという方法の登場によって、天然歯にかぎりなく近い感覚で噛める状態にまで口の中の状態を回復させることができるようになったのです。

歯周病は歯を抜くような事態に至る前に、つまりできるだけ早い段階で進行を食い止めることがなによりも重要であることは、いうまでもありません。

それでは、「侵されている事態に気づきにくいこと」が最大の難点である歯周病に、どうすればいち早く気づくことができるのか。そしてどのように対処すればいいのか。

なぜ、歯ぐきが健康な人ほどいつまでも長生きできるのか
船越栄次
船越歯科医院院長。専門は歯周病治療とインプラント治療。1971年九州歯科大学卒業。
同大学卒業後、米国タフツ大学歯学部大学院歯周病科に留学、歯周病専門医を取得。インディアナ大学歯学部にて准教授として教鞭を執る傍ら、同大学院を卒業、学位取得。帰国後、福岡市で船越歯科医院を開業。歯科診療にあたりながら、42年以上にわたり、国内の開業医を対象にした歯周病治療とインプラント治療の卒後研修会を主宰している。歯周病治療とインプラント治療のパイオニア的存在。

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