本記事は、児玉光雄氏の著書『頭が良くなる!「両利き」のすすめ』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

天才
(画像=Suriya/stock.adobe.com)

なぜ両利き人間は創造力に満ち溢れているのか?

両利き人間は、直感やひらめきにおいて、明らかに有利であると私は考えています。

創造性に関する研究の権威であるG・ウォーラス博士は、『思考の極意』という書籍で、創造性は4段階を経て生まれると主張しています。それらは仕込み→培養→啓示→検証という4つの要素です。それらについて以下に簡単に解説しておきましょう。

第1段階 仕込み

この時期は、主に関連した情報収集をする段階です。雪の結晶はチリやホコリが核となって生成されます。つまり雪の結晶は無から突然生まれることはないのです。同様に、創造もこれらの情報を核にして生まれるのです。

第2段階 培養

この時期は、表面的な変化はあまり現れず、無意識な心の作用が問題点に働きかけている段階です。ここで重要なことは、焦って解を求めてはいけないということ。すべての可能性を否定しない心の姿勢が求められます。

第3段階 啓示

この時期は、ひらめきを得る段階です。突然ひらめきとして現れるだけでなく、テーマを絞り込んで思索に没頭することによっても生まれます。この段階で、直感や洞察によって具体的な仮説を生み出すことが期待されるのです。

第4段階 検証

この時期は、啓示によって得られたアイデアや仮説を論理的に検証する段階です。この段階で初めて多くの人々が共通認識できる最終的な解が得られるのです。

ウォーラス博士は、第1段階と第4段階は主に左脳が担う作業であり、第2段階と第3段階は無意識あるいは潜在意識下で右脳が担う作業であると主張しています。

私は現在、日本を代表する囲碁の井山裕太棋士のメンタルカウンセラーをしていますが、彼はおそらく、右脳と左脳を見事にシンクロさせて独創性溢れる新しい手を考えているのだと感じます。

右脳と左脳の単体だけでは、決して社会に貢献する「使えるアイデア」は生まれません。左脳を駆使するだけでは新しいアイデア自体が生まれにくいし、右脳がひらめいたアイデアも左脳の検証なくしては、実現性がないのです。これからの時代に生き残るのは、右脳と左脳の協調的な相乗効果を活用して、斬新なアイデアを量産する両利き人間であることは紛れもない事実です。

大脳半球の交信を活発にすれば、あなたも天才になれる

なぜ私たちは右利きと左利きに分かれたのでしょう? ロンドン大学のクリス・マクマナス教授は、「なぜ左利きは有利なのか?」というテーマの研究を進める過程で「脳内のランダム再配置説」という理論を打ち立てました。

それまで左利きの人は「失語症や統合失調症になる確率が高い」、「吃音が出やすい」、「知能のばらつきがある」といった事実が判明していました。

これらの一見まったく関連性のない事実を統合するために、彼はある仮説を考え出します。それが「脳内のランダム再配置説」です。

マクマナス教授は、「何かのきっかけで人間の脳に左右差が発生し、いったん全員が右利きになった。その後、別の新しい遺伝子により、その遺伝子を持った一部の人間が左利きになって生まれた。この新しい遺伝子を持たなければ絶対に左利きになれない」。つまり「ランダムな配置換えが左利きを生み出した要因である」と主張したのです。

この「脳内のランダム再配置説」は、左利きの親から左利きと右利きの子どもが生まれることも、あるいはたとえ両親が右利きでも左利きの子どもが生まれることも説明がつくのです。

この理論によると、類稀なる天才としての資質も失語症もまるでサイコロの目のようにランダムに生み出されるわけです。そしてさらに、アインシュタインやダ・ヴィンチには幸運が重なり、彼らを両手利きに導いたのです。

この事実から、たとえあなたが強い片手利きだとしても、両手使いの習慣を身につけることで、アインシュタインやダ・ヴィンチに近付くことができるのです。

あなたは映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたレイモンド・バビット役のモデルとなったキム・ピークという人物を知っていますか? 彼は一度見たり読んだりした情報を決して忘れずに記憶する能力を持っていました。

彼は、9千冊以上の本の内容を完璧に記憶していただけでなく、数学や音楽の分野においても驚異的な才能を発揮しました。いわゆるサヴァン症候群の典型的な特徴を彼は有していたのです。事実彼の脳は左右に分かれていない1つの器官だったことが実証されています。サヴァン症候群に属する彼らの主な才能を以下にリストアップしました。

  • ランダムな年月日の曜日を言える(カレンダー計算)
  • 素数と約数を瞬時に判断できる
  • 航空写真を一度見ただけで、細部まで描き出せる(映像記憶)
  • 書籍や電話帳、円周率、周期表などを暗唱できる
  • 並外れた暗算をすることができる
  • 楽曲を一度聴いただけで完璧に再現できる
  • 数カ国語を自由に操ることができる

これらは両利き人間が持っている能力でもあります。積極的に両利き人間の仲間入りをすることで、脳梁の交信が活発になり、間違いなくあなたの脳は進化するのです。

「ひらめき」は右脳の独壇場

両利き人間にとって、「ひらめき」こそが重要な作業です。ひらめきを出力する作業は典型的な右脳の得意分野です。もちろん知識を集積している左脳との交信により、ひらめきのきっかけが生まれることも厳然たる事実です。だから、左右の大脳半球の交信が不可欠なのです。

いずれにしても、主役を占めるのは間違いなく右脳なのです。歴史上の天才たちの共通点は、まさにこの「ひらめき力」が飛び抜けて優れていたことに尽きるのです。

20世紀最大の物理学者の一人であるアルバート・アインシュタインは、典型的な「ひらめき人間」であったという事実を誰も否定しないでしょう。

彼のような天才は目一杯視覚的思考をフル稼働させて独創的な発見を見出すのです。彼の言葉を以下に示します。

「言葉とか言語は、それが書かれていようが、話されていようが、私の思考メカニズムにおいてはほとんど何の役も演じていないように思われる。私の思考の構成要素となっているものは、符号のような、精神界における『存在』のようなものである。(中略)脳の中の諸符号は、私の場合、視覚的な、一部は筋肉を思わせるような力強く躍動したものである。私自身の符号による総合的な仕事が完了し、私の意のままに再生できるようになった時点 ―― いわば第2段階で、一般的な言葉や表示記号にこれを置きかえる作業が(かなり苦労して)行なわれるのである」

(出典『右脳革命』阪急コミュニケーションズ刊)

相対性理論を世に論文として提出するときに、イメージの中での発見を第三者に知らしめる方程式に変換する作業に、その概念を発見したことよりも何倍ものエネルギーを要したと彼は語っています。

彼は相対性原理をすでに随分前に画像として理解していたのですが、これを第三者に伝えることがとても困難でした。そして、遂にE=mc2(エネルギー=質量×光の速さの2乗)というシンプルな公式を編み出し、相対性理論を確立したのです。

この事例からもわかるように、偉大な発見やひらめきを担うのは右脳の独壇場であり、それを共通認識させる公式や解説を担うのが左脳の役割です。両利き人間を目指せば、左右脳の交信がスムーズになるだけでなく、劣っている側の脳半球を高めて機能をアップさせることができるのです。

死後、アインシュタインの脳を調べたところ、構造的に左右差が極めて少なかったことが判明しています。その結果、両半球の交信が頻繁に行われ、右脳が司る「画像思考」と、それを方程式に翻訳する左脳主導の「数学思考」との連携プレーが見事にアインシュタインの脳内で行われていたのです。

アインシュタインの脳裏には、「光の上に乗ったらどんな景色が見えるか?」とか、「光速に近い速度で宇宙を飛ぶ宇宙船に乗っている人と地球上で過ごす人たちとの老い方の速度に違いはあるのか?」といったイメージが脳内に鮮明に描かれていたはずです。

彼は、光の上に乗って地上を見るというイメージを描くことにより、相対性理論の概念をひらめいたと言われています。しかし、偉大な発見をイメージの中で見出した後、それを言語化、あるいは数式化することに頭が追いついていかなかったのです。もちろん最終的なひらめきに至るまで、彼はおびただしい時間をかけて、さまざまなイメージを描き、試行錯誤を繰り返していたに違いありません。

頭が良くなる!「両利き」のすすめ
児玉光雄
1947年兵庫県生まれ。追手門学院大学スポーツ研究センター特別顧問、元鹿屋体育大学教授。京都大学工学部卒。大学時代はテニスプレーヤーとして活躍し、全日本選手権にも出場。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院で工学修士号を取得。
米国五輪委員会スポーツ科学部門本部の客員研究員として、米国五輪選手のデータ分析に従事。過去30年以上にわたり、臨床スポーツ心理学者として、ゴルフ、テニスを中心に数多くのアスリートのメンタルカウンセラーを務める。
また、右脳活性プログラムのカリスマ・トレーナーとして、これまで数多くの受験雑誌や大手学習塾に右脳活性トレーニングを提供。この分野の関連書は100冊以上、累計発行部数は150万部を超える。
主な著書はベストセラーになった『この一言が人生を変えるイチロー思考』(三笠書房)をはじめ、『勉強の技術』(SBクリエイティブ)、『大谷翔平 勇気をくれるメッセージ80』(三笠書房)、『脳力向上! 大人のパズル』(成美堂出版)、『能力開発の専門家が作ったそうぞう力とさんすう力がみるみる育つこども脳トレドリル』(アスコム)など200冊以上。日本スポーツ心理学会会員、日本体育学会会員。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)